052 ランクアップ試験 続き
さて、魔法の試験は終わったので近接戦闘の方へ行ってみますか。と言っても同じ場所だけどな。
近接戦闘は、試験官との1対1での戦闘が試験内容みたいだ。今は槍使いと戦闘中だ。
試験官の剣が槍を弾くと、首元へ剣を突きつけた。
「ま、参りました。」
「よし、合格。」
どうやら戦闘では負けてしまったみたいだが、勝ち負けがで合否が決まる訳では無く、ある一定の技術が有ると見なされれば合格になるみたいだ。
次々と試合が続くが、勝てる人は居なかったが、全員合格を貰えていたから、そんなに難しい試験では無いみたいだ。
いよいよ俺の番になったみたいだ。
「よし、次で最後だな。」
「シュウです。宜しくお願いします。」
「よし! お前の武器は双剣か。どこからでも良いからかかって来い!」
「行きます!」
俺は剣を構えると、試験官に向かって走り出す。
牽制で左手の武器を右上からの振り下ろしをする。もちろん余裕を持って避けられたが、時間差による追撃で今度は右手の剣による振り下ろしを繰り出す。
ガキッ! ……カランカラン……
こちらは剣で受け止められ、そのまま俺の剣は弾き飛ばされてしまった。そしてそのまま相手の剣が俺の首筋直前で止まった。
「参りました。」
俺は素直に自分の負けを認めたのだが、試験官は何かを考えていた。もしかしてあまりにもあっさりと負けたので不合格なのか? まぁ、魔法で合格してるから良いけどさ。
「ちょっと良いか?」
「あ、はい。」
「剣筋はしっかりしているのに、速度は遅いし、剣もアッサリと弾かれる。何かチグハグなんだよな。」
「あっ!」
「どうした。」
「えっと、これ付けたままでした。」
俺はロッジさんから貰ったガントレットを試験官に見せた。
「それがどうしたんだ?」
「修行用に付けていた物なので、外してもう一度挑戦しても良いですか?」
「? お前が最後だし、別に構わないが。大して変わらないと思うぞ?」
一応了解は貰えたことだし、折角の対人戦をするチャンスだ。やらせて貰おう。
俺はガントレットを外して床に落とした。
ドサッ! ドサッ!
「ちょ、ちょっと待て! それを見せて見ろ!」
「はい、どうぞ。」
俺はガントレットを拾い、試験官へと手渡した。
「なっ……何だコレは! お前こんなのを付けて戦ってたのか!?」
どうやら手にした時の重さにビックリしたみたいだ。そして指のギミックに気が付き、装着してみてさらに驚いたみたいだ。
「それじゃ、そろそろ行きます!」
「お、おう!」
ガントレットを装着していないから久々に腕が軽いぜ! まるで剣など持ってない感じだ。……いや、さすがにそれは言い過ぎか。
でも、指揮者がもっているタクトくらいの重さくらいには思えた。軽く振ってみることにした。
ヒュン!
良い感じだ。これなら行けるかもしれない。
俺は先ほどとの違いを確認するためにも、左手の武器による同じ軌道での攻撃を仕掛けてみることにした。
ドカッ!
「うわぁ~~!!」
「あれ?」
最初の牽制の一撃だったのだが、試験官はそれを避けることも受けることも出来ずに思いっきり攻撃が当たってしまった。
寸止めなんて言う器用な事は出来なかったし、刃無しにしておいてホント良かった……
吹っ飛ばされた試験官は、ワンバウンドした後に停止したが、その後はピクリとも動かなかった。
「えっと?」
これから俺はどうすれば良いんだろうか?
俺がオロオロとしていると、弓の試験官とアイさんが慌てて近寄ってきたと思ったら、近接戦闘の試験官(そーいや名前知らないな)を連れて何処かに行ってしまった。
どうしようもないので待機していると、しばらくして弓の試験官が戻ってきてこう言った。
「全員合格なので、各自受付カウンターでギルドカードを更新してくれ。以上だ。」
それだけを言うと、戻って行ってしまった。
試験が終了したとのことで、他の冒険者達はギルドカードの更新のために修練場を出て行ってしまった。
俺もここに居ても仕方が無いので、とりあえず更新のために受付カウンターへ向かうことにした。
「次の方どうぞ。」
「試験が終了したので来ました。」
「無事合格できたみたいね。おめでとう♪」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、カードを更新するから出してちょうだいね。」
「はい。」
俺がギルドカードを渡すと、機械に通して処理をする。
更新されて排出されたカードは今までの木目調のカードでは無く、石の様なカードに変わっていた。
「はい。これでシュウ君はFランクに昇進しました。」
「ありがとうございます。」
「本日は冒険者ギルドのご利用ありがとうございました。私、イザベルが対応させて頂きました。
またのご利用をお待ちしております。」
「あっ、そうそう! 先ほどの試験官は何処に居るのですか? 一言謝りたくて。」
「試験官? そう言えば先ほど医務室へと運ばれてたわね。あれってシュウ君がやったの?」
「はい。俺は寸止めが出来無くて、刃が無い武器とは言え、思いっきり切り付けちゃったんです。」
「そうだったのね、だったら、そこの扉の先に居るわよ。」
「分かりました。行ってみるとします。」
俺はイザベルさんと別れて、教えてくれた医務室へと行ってみることにした。
「すいませ~ん。」
「はい。何処か怪我でもしたのでしょうか?」
すると、医療担当の職員らしき人が出てきた。
「いえ、先ほどランクアップ試験で、試験官に怪我をさせちゃったので謝りに来ました。」
「その必要は無いぞ。」
「えっ?」
振り返ると、さき程の試験官の男性がそこに居た。
「大丈夫ですか?」
「おう、ポーションを飲んだからな。すっかりと元気になったぞ。」
「そうですか。」
無事な姿を確認出来たので一安心だ。
「まぁ何だ。怪我をしたのは俺が未熟だっただけの話だ。だから問題は無い。」
「でも……」
「もし気にするんだったら、俺が強くなった時に今度は俺が挑戦者として戦ってくれ。」
「……わかりました。」
「よし、これでこの話は終わりだ。それにしてもシュウだったか? 随分と強いじゃないか。本当にGランクだったのか?」
「はい。間違い無くGランクです。それに、俺が勝てたのは、先にこちらの攻撃が当たったからで、逆に攻撃されていたらどうなっていたか……」
「そうなのか?」
「はい。実は対人戦をしたのは、今日が初めてなんです。」
「なるほどな。だから寸止めとか出来なかったってことか。」
「はい。今までは素振りしかやったことが無かったんです。」
「素振りだけであの強さか……そう言えばあのガントレットは何処で手に入れたんだ?」
「アレはロッジさんに貰いました。」
「ロッジ? ロッジってあの遊び人の?」
「そうみたいです。でも俺にとっては剣を教えてくれた先生です。」
「あのロッジがねぇ……まあいい。先ほどのも言ったが次は俺が挑戦者だ。覚悟しておけ!」
「わかりました。えっと……」
「そう言えば名乗って無かったか? 俺はスミスって言うんだ。覚えておいてくれ。」
「スミスさんですね。わかりました。」
俺はスミスさんと別れ、医務室をあとにするのだった。
何はともあれ、こうして無事にランクアップ試験は終了し、俺はFランクへとなれたのだった。




