049 さらに特訓
あれから特訓の日々が続いた。
基礎を身に付けるためか、ひたすら素振りを続ける毎日である。
ちょっとでも姿勢や力加減を間違えると叱責が飛ぶ厳しい特訓ではあったが、充実した毎日を送っていた。
「よし、ひとまず最低限の基礎についてはこのくらいで良いだろう。」
「本当ですか!?」
「あくまで今日のところはだ。基礎練習に終わりは無い。」
「わかりました!」
「お前は二刀流を目指しているんだったよな?」
「はい!」
「だったら次は筋力アップだ。片手でも振りまわせるだけの筋力をつけるんだ。」
「はい!」
「しばらくこいつを付けての生活をするんだ。」
男性が俺に何かを放り投げたので、それを受け取るとずっしりとした重さの物体だった。
「ガントレット?」
「そうだ。それは特注品でな、重量はもちろんだが、指も力を入れないと動かない仕組みになっている。
それを付けたままでも生活できるようになるのが次の目標だ。」
「はい!」
「つけて見ろ。」
「はい!」
俺は男性に言われたとおりにガントレットを装着してみた。装着と言っても手袋をはめる感じの簡単な物だ。
「お、重い。」
受け取った時にも分かってはいたが、1つで2kgくらい有るんじゃないか? しかも指が全く、いやかなり力を入れて何とか動かせる程度の強さだ。
「今日は剣を振れないだろうから終わりにしても良いぞ。ただし、それを外すことは許さん! 分かったな!」
「はい!」
そして男性は帰って行った。
「ありがとございました!」
俺は男性の背に向かって頭を下げるのだった。
その日は大変だった。重いのは勿論だが、食事の際のスプーンを持つのも一苦労だった。御蔭で夕食を食べるのが遅くなりシスターに怒られてしまったのは仕方が無いことだと思う。
それでもしっかりと男性の教えを守り、俺は頑張って生活をするのだった。
次の日の特訓は最悪だった。剣がロクに握れないため、剣を振るとすっぽ抜けてしまうのだが、その度に男性の叱責が飛んできた。理不尽だが仕方がない。頑張ろう。
あれから1週間ほどが経ち、それなりに苦労はしつつも生活する上では支障が無いくらいにまで成長することが出来た。ふふん♪
そしたら男性がガントレットに重りを追加して重量は3kgになってしまった。何てこった……
それから1週間後、さらに重りが1kg追加され、握力の方も調整されて強力になってしまった。またしばらくは、まともな生活が送れなくなりそうだ。ちくせう……
さらに1週間が経過して、ようやくこの重りにも慣れてきた。
やってることは相変わらずの素振りだけだが、当初に比べると全然マシになっていると思う。
しかし、そろそろ何か依頼を受けないといけない。孤児院への支払日が迫ってきているからだ。
「すいません。今日は特訓をお休みしても良いでしょうか?」
「何でだ?」
「孤児院でのノルマをこなさなければ駄目なんです。」
「ノルマ?」
「月に銅貨1枚以上のお金を納めなくちゃならないんです。」
「そうか、なら仕方が無いな。頑張って来い。」
「ありがとうございます。それでは行ってまいります!」
休みを貰えたので、早速依頼を受けるために掲示板へと向かうことにした。
「何か手っ取り早く終わらせられる依頼は無いかな……おっ! 草むしり依頼ががるじゃん! 手っ取り早く終わるし、これでいいや!」
依頼票を剥がし、依頼を受付に向かうことにした。
「次の方どうぞ。」
「この依頼をお願いします。」
「あらシュウ君じゃない。久しぶりね。」
「ちょっと剣の特訓をしてたので、ここ最近は依頼は受けていませんでした。」
「特訓?」
「昇級試験のための特訓です。」
「そっかFランクの試験を受けるんだ。でも、Fランクの試験ってそんなに難しくないわよ?」
「そうなんですか?」
「ええ。Fランクだと街の外とは言っても直ぐ近くだから、スライム、ゴブリン、ホーンラビットが倒せる程度の力量が有れば合格するしね。」
「俺が試験を受けても大丈夫ですか?」
「あ、そっか。シュウ君ってまだ6歳なんだっけ。普通に受け答えしてたから勘違いしちゃった。そうなると……う~ん。ちょっと厳しいかな。」
「やっぱりそうなんですね。」
「ゴブリンは体格が子供と同じくらいで、だいたい今のシュウ君と同じくらいかな? 力も同じくらいだから、大人だったら問題ないんだけど、同じくらいの強さだとするとちょっとね。」
「なるほど。」
「それにホーンラビットになると、ゴブリンより少し強くて、突進を避けられるかが、戦えるかの判断の基準になるのよ。これも大人なら問題無いんだけどね。」
「そっか。」
なるほど、子供だから力も素早さも足りないってことか。言われてみればそうかもしれない。
「だからね、シュウ君にはまだ早い……あら? シュウ君、そのガントレットはどうしたの?」
「これですか? えっと、名前は知らないんですが、ある男性から剣を教えて貰っているんです。その特訓の一環でこれを付けろって言われてまして。」
「まさか!? ね、ねぇ! その男性って、身長が180cmくらいの強面顔で、額に大きな傷が有ったりしなかった?」
「え? えぇ、確かにその男性みたいです。」
「ロッジさんね! また勝手なことをして!!」
「えっと、お知り合いでしょうか?」
「あのね、ロッジさんは、この辺りでは有名な遊び人なのよ! 面白そうなことが有ると首を突っ込んで楽しんでる迷惑な人なの。
今だってきっとシュウ君をからかって遊んでるんだわ!!」
そうだろうか? 個人的には、ロッジさんの御蔭で随分と強くなれたと思ってるんだけどな。
実際ステータスを見て気が付いたんだけど、レベルが上がって無いにも係わらず、ステータスがこんな風に変化していたのだ。
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名前 :シュウ
年齢 :6
種族 :神族
状態 :普通
LV :2
HP :13/13
MP :53/53
STR:8
VIT:5
AGI:7
INT:6
DEX:5
LUK:99999
スキル:創造魔法、詠唱破棄、物理無効、魔法無効、状態異常無効、魔力盾、アイスアロー、おっぱい召喚、言語理解、偽装、アイテムボックス、気配察知、生活魔法、アークシェイク、魔力感知、魔力操作、錬金術
称号 :異世界転生者
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おそらく筋力が上がったことで、STRとAGIが上がったんだろう。INTも上がったみたいだが、これは武器制作で錬金術を使いまくった結果だと思う。
なるほど、努力をすればレベルが上がらなくてもステータスって変化するんだな。これは良いことを知ったかもしれない。
「……ん! ……君! シュウ君!」
「は、はい!」
突然呼ばれてビックリした。どうやら思考の海に沈んでいたみたいだ。
「大丈夫?」
「えっと、何がですか?」
「ロッジさんのことなら私から言ってあげるから安心してね。お姉さんに任せなさい!」
イザベルさんが自分の胸を叩いてそう言ているのだが、何の話だ?
「えっと、何の話でしょうか?」
「もぉ~聞いて無かったの? ロッジさんに迷惑掛けられているんでしょ? それを断ってきてあげるって言ったの。」
「いえ、それには及びません。」
「何で!?」
「ロッジさんの特訓は、俺にとってちゃんと成果が出ているからです。なので大丈夫です。」
「そ、そうなの?」
「はい。」
「シュウ君がそう言うのなら……でも、何か有ったのなら言ってね? 約束よ?」
「はい。」
「じゃあ手続きしちゃうからカードをお願いね。」
俺は自分のギルドカードをイザベルへと渡すと、直ぐに依頼の処理をしてくれた。
「はい、これが地図よ。詳細は向こうで聞いてね。行ってらっしゃい。」
「はい。行ってきます!」
俺は地図を手にして依頼先へと向かうのだった。
・・・・
さっさと依頼を終わらせて修練場へ戻ってきたのだが、ロッジさんは居なかった。
「今日は依頼を受けるって言ったから仕方ないか。自主練にするとしますか。」
今日は一人でロッジさんに教えて貰った通りの素振りを繰り返すのだった。
そしてその夜、もちろん稼いだお金は孤児院行となるのだった……




