038 依頼完了
2件の依頼が終わった俺は、冒険者ギルドまで戻ってきた。
早速イザベルの所に行ってみることにした。
「あら? やっぱり無理って分かったのね。だから言ったでしょう?」
「いえ、終わったので報告です。」
「はい?」
「だから終わりました。」
俺はそう言って依頼票をイザベルへと渡した。
イザベルが依頼票を確認して震えている。
「本当に終わってる!? 嘘っ!? 何で?」
「そりゃあ、草むしりを終わらせてサインを貰ったから?」
「だって、あの依頼だとどんなに頑張っても1日半はかかるはずよ! 有り得ない!!」
「普通に草むしりしたらそうだと思うよ?」
「普通じゃないって何をしたらそうなるのよ!」
「えっと、それって言わなきゃ駄目なの?」
「あっ……ご、ごめんなさい。」
冒険者のスキルは仕事のネタだ。迂闊に言う物じゃないことを思い出したみたいだ。
「まぁ、スキルを上手に使ったってだけで、草むしり以外では使えないから、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。」
「そうですか。今回は冒険者さんの力量を信じられなかった私もミスです。大変申し訳有りませんでした。」
イザベルがそう言って頭を下げた。
「ちょ! 別に気にしてませんから、頭を上げて下さい。」
「ありがとう。でも、これは受付嬢としての責任でもあるのよ。」
「な、なるほど。ま、まぁ、次から気を付けてくれればそれで良いです。」
とりあえずこれ以上は俺もやるせない気持ちになりそうなので、終わりにすることにした。
「それで、残りの依頼は受けても良いんでしょうか?」
「はい。それでは手続きしますので、ギルドカードをお願いします。」
「はい。」
俺はカードを渡して手続きして貰った。
「はい。これが地図になります。頑張ってね。」
「行ってきます!」
俺は再び依頼を受けるために冒険者ギルドを後にするのだった。
・・・・
すっかり日が暮れてしまったが、全ての依頼を何とか終わらせることが出来た。
やっぱり説明する方に時間が掛かってしまうのは如何なものだろうか?
まぁ、気持ちも分からないでも無いんだけどね。
冒険者ギルドに戻ってきたのだが、時間が時間だったため、依頼の報告に来ている冒険者達で一杯だった。
列が捌けるまで待って居る訳にもいかないため、俺は列に並ぶことにした。
列に並んでボーっとしていたら声を掛けられた。
「おっ、シュウじゃないか。依頼報告か?」
「あっ、アランさん。はい。依頼の報告です。」
アランがきょろきょろと当たりを見渡した後、俺の耳元で話しかけてきた。
「例の嬢ちゃんは一緒か?」
「ローザちゃんは帝都に行っちゃったから、居ないよ。」
それを聞いたアランはホッとした顔をした。気持ちはわかる。
「帝都? 何でまた。」
「実は…」
俺はローザが光魔法に目覚めて聖騎士になるために帝都へ行った話をした。
「なるほどな、シュウは置いて行かれたって訳か。」
「いや別に置いて行かれたって訳じゃないけどね。」
「隠さなくても良いって、寂しいんだろ?」
「う~ん。どうだろ『シュウ君!』うわっ!」
突然後ろから抱きしめられた。
「エ、エレンさん?」
「シュウ君だぁ~♪」
「ちょ、エレンさん、引っ付きすぎですよ! 離れてください!」
「えぇ~、そんなつれない事言わないでよ~」
アランが見ているんだよ! もう少し周りを気にしてくれ!
「エレン、シュウが困ってるだろ?」
「シュウ君は私のことが大好きだもん大丈夫だよね~♪」
確かに嫌いでは無く、どちらかと言えば美人さんだし好きな方だ。
とは言え、アランの彼女に手を出すつもりは一切無い。だからアラン、その眼はやめて欲しい。
「だから離れて下さいってば!」
「ぶぅ~! シュウ君のいけずぅ~」
「はいはい。」
何とかエレンから逃れることが出来た。
「それで、シュウ君は何の依頼を受けたのかな?」
「草むしりです。」
「そっか、Gランクだったよね。ご苦労さま。」
「はい。でも、そんなに苦じゃ無かったですよ?」
「そっか~シュウ君頑張ったんだね~」
「そりゃエレンと違って、シュウは若……何でも無い。」
エレンのひと睨みでアランは黙ってしまった。ご愁傷様です。
と言うか、一瞬で温度が5度ほど下がったぞ? エレン恐るべし……
「あれ? シュウ君依頼票が3枚も有るけど、どうしたの?」
「3件分の依頼です。」
「勝手に剥がして来たら駄目だよ~、イザベルに怒られても知らないよ?」
「いえ、これは……」
「ほら、怒られる前に私が戻してきてあげる。」
エレンがそう言って俺の手から依頼票を奪い取って中身を確認している。
「あれ? 全部に完了サインが書いて有る。何で?」
「何でって終わった依頼だから。」
「嘘っ! だって草むしりだよ? 物凄く時間が掛かるんだよ?」
「色々と理由がありまして、ここではちょっと。」
「えぇ~! シュウ君が反抗期だぁ~!」
俺が困っていると、アランの鋭い声が飛ぶ。
「エレン!」
「な、何よ!」
「冒険者同士は詮索をしない。だろ?」
「あっ、うん。ごめん。」
「謝るのは俺じゃない。」
「シュウ君、ゴメンね。」
「大丈夫ですから気にしないで下さい。」
「ホントごめんね。」
「もう良いですから。それにエレンさんだったら後で教えてもいいですから。」
「ホント? シュウ君大好き~♪」
「ちょ、は、離してくれ~」
そんなことをしている内に俺の順番になった。
「次の方どうぞ……って、エレンじゃない。」
「あ、私は違うわよ? シュウ君と話してただけだから。付き添いみたいな感じかな?」
「本当はシュウ君にちょっかい掛けてたんじゃ無いの?」
「うっ……」
「図星なのね。」
「う、うるさ~い!」
「あの、依頼の報告良いですか?」
何となく長引きそうなので、話をぶった切って依頼票とカードを提出した。
「あ、ごめんなさい。えっと、うん、問題無いわね。」
イザベルがそう言って手続きをしてくれた。
「全部で5件の依頼だから、大銅貨2枚と銅貨5枚ね。ご苦労様でした。」
「ありがとうございます。」
「えっ? さっきの3件の依頼だけじゃ無くて5件も!?」
エレンが叫ぶと、イザベルの鋭い視線がエレンへ突き刺さった。
「何でもありません。」
「よろしい。」
とりあえず後ろに居る人にも迷惑になるので、さっさと依頼料をカードを受け取って列から出るのだった。
「ひとまずここを離れましょう。」
「そ、そうだね。」
俺達は冒険者ギルドを後にすることにした。




