036 突然に
次の日になり、孤児院の子供達全員が広間へと呼び出された。あれ? 前にも似たことが無かったっけ?
ザワザワザワ……
「みなさん静かに。」
「・・・・」
孤児院長の一声で静まり返った。
「今日は皆さんにお知らせが有ります。
ローザさんが明日、帝都に行くことになりました。
お別れになるため、今日はお仕事をお休みにしてお別れ会を開きたいと思います。」
ザワザワザワ……
あれ? もしかして昨日のことが原因か?
ローザが光魔法が使えるようになったことで、帝都行きになったってことだろう。
……俺も魔法使えるよな? 何で帝都行にならないんだ? アンナとローザと俺の違いって男か女かってことか?
「シスター、ちょっと良い?」
「シュウ君、何でしょうか?」
「何でローザは帝都に行くの?」
「ローザちゃんは、癒し人の修行のために帝都に行くのよ。」
「癒し人?」
「癒し人はね、病気やケガをした人たちを救う立派なお仕事をする人の事よ。」
ヒーラーみたいなものか。そうすると疑問が生じるな。
「ローザちゃんは聖騎士になりたいって聞いたけど?」
「そうね。その可能性も有るかもしれないね。シュウ君は聖騎士になる条件って知ってるのかな?」
「剣術と盾術、後、光魔法でしょ?」
「良く知ってるわね、でもそれだけじゃダメなの。後は教皇様からの任命が必要なのよ。」
「なるほど、だからそのための帝都行きって訳なんだね。」
「そういうことね。」
「ちなみに俺はどうなの?」
「シュウ君は土魔法でしょ? 癒し人にはなれないわね。」
「そうですか。」
「……そうよね、アンナちゃんもローザちゃんも居なくなっちゃうし寂しいよね。」
俺が落ち込んでいるように見えたのか、シスターが慰めてきた。
……多少なりとも落ち込んでいるのは間違いないか。
会場設置が行われ、料理が運ばれた時点で送別会が開始された。
当然話題の中心はローザだ。みんなに囲まれて会話していた。
俺? まぁ、いつも一緒に居るからな、こういう時くらいは他の人に譲るべきだろう。
お別れ会も終わり、後片付けをした後に解散となった。
「シュウ君。」
何時もの裏庭にでも行くかと思っていたら、ローザに声を掛けられた。
「どうした?」
「あ、あのね、ちょっとお話し良いかな?」
「構わないぞ。何時もの所にでも行くか。」
「うん。」
裏庭に到着した俺達は、とりあえず草むらに腰を下ろすことにした。ローザも俺の隣に座る。
しばらく沈黙の時間が流れたが、それをローザが破った。
「……怒ってる?」
「何の話だ?」
「アンナちゃんに続いて私も居なくなることに。」
「そうだなぁ~、寂しいとは思うが別に怒ってはいないぞ。」
「そっか。」
そしてまた沈黙が流れた。
「私ね、聖騎士になるために帝都に行くことにしたんだ。」
「シスターに聞いたよ。教皇の任命が必要なんだろ?」
「うん。」
「だったら行って来るしか無いだろ? 夢だったんだろ?」
「うん。そうだね。」
「俺は俺でこっちで頑張るから、ローザも頑張れよな。」
「あ、あのね!」
「ん?」
「わ、私、アンナちゃんと一緒に帰ってくるから! だから! ……待っててくれる?」
「お、おう。」
思わず返事をしてしまったが、まあ良いか。でも、正直ヤンデレだけは治して帰ってきて欲しいです。
・・・・
次の日になり、いよいよローザとお別れの日となった。
「向こうに付いたら、アンナにも宜しくな。」
「うん。一杯お話しすることが有るし、任せておいて。」
ローザは目に涙をためて真っ赤になっている。
「ローザちゃん、そろそろ出発の時間よ。」
「あ、はい。」
「行ってこい!」
「シュ、シュウ君!」
突然ローザが俺に近づいてきて……
チュ!
ほっぺたにキスされてしまった。
「なっ!」
「私の初めてをあげたんだから、他の子に手を出したら駄目だからね~!」
ローザは言うだけ言って、馬車に乗り込んでしまった。そして馬車はゆっくりと動き出した。
孤児院のみんなが手を振って別れの挨拶をしていた。
「ローザちゃん、バイバイ~!」
「元気でね~!」
「頑張ってね~!」
そして馬車は小さくなっていき、見えなくなった。
「またな。」
俺の声は誰にも聞かれることも無く、消えて行くのだった……




