290 脱穀
自分の部屋に戻ってきた俺は、早速脱穀を行うことにした。
まずは籾の乾燥だが、本来なら天日干しで長時間かけてやるのが良いのだろうが、今回はお試しなのと、急ぎと言うか我慢が出来ないとと言うことで、錬金術で対応することにした。
「確か乾燥の目安は15%前後だったかな?」
鑑定しつつ、水分を抜いて行き、目標の15%になったので終了する。
次に稲から籾を取り出す作業だが、手持ちの鉄矢で千歯扱きを作り、それを使って取り出すことに成功した。
次に籾から籾殻を除去する籾すり作業なのだが、昔だと木の棒で叩くか、石臼を使っていたらしい。
今回は石臼を使うことにする。手持ちの石を錬金術で変形させ、石臼を作成する。
完成した石臼に籾を入れて、グルグルと回す……
「マジか……」
籾殻は取れたのだが、完成したのは細かくなった籾殻と、糠が混ざった米粉だった。どうやら細かく引きすぎたらしい。
「う~ん、石が重いからこうなったのか? それとも違う原因だろうか?」
石臼の仕組みなんか知らんから何とも言えない。昔TVで見た物を真似て作っただけの品物だ。
ある意味粉になっているってことは、石臼としては成功なのかもしれないが、目的とは違うので失敗で良いのだろう。
「面倒くさいが、手作業でやるしか無いか。」
とりあえず棒で叩く方式でやって見ることにした。
トントントン……
優しくたたいてみるが、中々籾殻は取れない。
ダンダンダン!
少し強めに叩くと、籾がどこかに飛んで行った。
「どうすりゃいいんだ~!!」
こういう時にインターネットが使えれば調べられるのだが、無い物は仕方が無い。
「仕方が無い、フィーネに聞いてみるか。」
困った時のフィーネ様だ。俺はフィーネの居る部屋へと向かうことにした。
コンコン!
「どうぞ。」
扉をノックすると、了解の返事が貰えたので、部屋の中に入ることにした。
部屋の中には、丁度休憩中なのか、くつろいでいるフィーネが居た。
「じゃまするぞ。」
「何だ、君か。どうしたんだい?」
「すまんが、ちょっと知恵を貸してくれ。」
「内容にもよるが、何が聞きたいんだい?」
「脱穀のやり方を教えてくれ。」
「ふむ……それならば、小麦を製造しているところに聞くのが一番だと思うよ。」
「要は知らないってことか。」
「まぁ、そういうことだね。」
「チッ、使えんヤツめ。」
「そうは言うが、君だって知らなかったんだろ?」
「……そうとも言う。」
「だったら僕に文句を言うのは筋違いだと思わないかね?」
「ごもっともです。すいませんでした。」
結局、餅は餅屋って言葉が有るくらいだし、専門家に聞くのが一番か。
「参考に聞きたいのだが、何をしでかす予定なんだい?」
「その言い方は、俺がロクでもないことをやらかすと聞こえるのだが?」
「その通りだが?」
「するか~!」
「だけど、今までの実績からするとだな……」
「へいへい、どうせ信用なんか無いんだろ。別に良いよ。じゃあな。」
「おい! せめて何をするのかを言ってからだな……おい! 待ってくれ!!」
俺はそのまま何も言わずに部屋を出て行くのだった。
「ったく、フィーネは俺のことを何だと思ってるんだよ。」
そんなことをブツブツと文句を言いながら、市場へと足を運ぶ。
お目当ての小麦粉を取り扱っている露店はっと……有った!
「すいませ~ん。」
「へい、らっしゃい。小麦粉のお求めでしょうか。」
「とりあえずパンに使える小麦粉を10kg程貰えるかな?」
「毎度! 10kgなら大銅貨1枚だな。」
「じゃあ、これで。」
「まいど~」
俺はお金を支払って、小麦粉を受け取った。
「ちょっと聞きたいんだけど、良い?」
「何が聞きたいんだ?」
「小麦の脱穀ってどうやっているんだ?」
「場所にもよるだろうが、俺の所では水車を使ってるぞ。」
「見学することは出来る?」
「別に構わないが、ここにある商品が全部売れてからじゃないと無理だぞ?」
置いてある小麦の量は、10kgの袋が全部で20袋くらいか。
「じゃあ、全部買うから行こうよ。」
「マジか。こっちとしては売れるのは助かるから構わんが、どうやって運ぶんだ?」
「とりあえずお金を払うから、行く準備をしておいてよ。」
俺はそう言って、銀貨2枚を店主へと支払った。
「ずいぶんと金持ちなんだな。まあ良いか。じゃあ馬車を取ってくるから準備して待っててくれ。」
店主がそう言って、小麦粉を運ぶために使っただろう馬車を取りに移動していった。
俺はその隙にアイテムボックスへと小麦粉を収納していった。ずいぶんと在庫が増えてしまったが、アイテムボックス内なら腐る物でも無いからな。
必要ならハウスさんに渡すか、後でパンでも焼いておくとするか。
「戻ったぞ……って、小麦粉はどうした?」
「先に知り合いに運んで貰ったよ。」
「そうか、運ぶ手間が省けたのは幸いだな。じゃあ行くか。後ろに乗ってくれ。」
「お願いします。」
店主は荷馬車を持ってきてくれたってことは、小麦粉を家まで運んでくれるつもりだったのか。良い人だ。
俺が荷台に乗ると、馬車はゆっくりと走り出すのだった。




