029 監視依頼
次の日になり、体にも特に不調も無いため、今日は冒険者ギルドへとやってきた。
もちろんローザも一緒だ。俺達は、正確にはローザがだが、目標のためにもさっさとランクを上げる必要が有るだろう。
そのためにも、今日も頑張って依頼をこなして行こうと思う。
俺? 俺はそんな高尚なる目的なんぞ無いから、のんびり自由に冒険さえ出来れば良いかな?
「さて、どんな依頼があるかな?」
とは言ってみたものの、Gランクの依頼は見習い冒険用の依頼だからか、街中での依頼しか無い。
「おっ、これなんか良いんじゃないか?」
見つけた依頼は『荷物の見張り』だ。とりあえずこれを候補としておこう。ローザの方はどうかな?
「シュウ君、何か良い依頼あった?」
「これなんかどうだ?」
「『荷物の見張り』? うん、いいよ。」
「よし、決まりだな。」
そうと決まればイザベルの所へ行くとしますか。
「次の方どうぞ。」
「この依頼をお願いします。」
「どれどれ? 『荷物の見張り』の依頼ね。
えっと、これは建築現場の荷物や資材を見張るのがお仕事ね。1人銅貨3枚で5人までの募集だから、丁度シュウ君達で丁度満員みたいね。
簡単な仕事みたいだし、大丈夫そうね。」
「おお、ラッキー。」
「じゃあ手続きしちゃうからカードをお願いします。」
「「はい。」」
俺達は自分のカードをイザベルへと渡して依頼の処理を行ってもらった。
「はい。これが地図よ。詳細に付いては依頼主に聞いてね。行ってらっしゃい。」
「「行ってきます!」」
俺達は地図に示されている現場へ向かうことにした。
現場に到着すると、何と見知った人達がいた。
「あれ? ミーナちゃんとレイラちゃんとカレンちゃん?」
「シュウ君達もこの依頼受けたんだ。」
「うん、カレンちゃん達も?」
「そうだよ~」
「私とレイラは前に似た様な依頼を受けたこと有ったからね。だから今回はカレンも誘ってみたんだ。」
どうやらミーナがリーダとして仕切っているみたいだ。
確かミーナとレイラは去年から。カレンは俺達と一緒で、今年から冒険者になったんだったな。
「シュウ君、一緒に頑張ろうね♪」
「シュウ君は私とやるの!」
「え~!!」
カレンが嬉しそうに俺に近づいて来たが、ローザにブロックされていた。どんまい。
「お前たちが依頼を受ける冒険者で良いのか?」
「はい、そうです。」
その時現場監督さんらしき人が俺達に声を掛けてきた。
一番の年配でリーダでも有るミーナが対応するみたいなので任せることにした。
「そうか、じゃあ仕事の説明をするぞ。
あそこのスペースに木材、石材等の物資が運ばれてくる。お前たちはそれを見張ってくれ。
もし、怪しい人が近づいたら自分らで対応する必要は無く、俺達の誰かに声を掛けてくれれば良いからな。」
「「「「「はい。」」」」」
「特に、俺達の弁当は注意して見張っておいてくれ! 以上だ。」
「「「「「はい。」」」」」
とりあえず返事したけど、もしかして弁当が盗まれるのが嫌だから冒険者を雇っているとか? まさかね?
「じゃあ、見張りの順番を決めようか。」
「順番? 全員で見張れば良いんじゃないの?」
ミーナがそんなことを言ったので、疑問に思った俺は聞いてみるた。
「それでも良いんだけど、1日中見張りをするのは疲れるし大変よ?
一応キチンと見張りをしていれば替わり番こで休憩していても問題ないからね。
それともシュウ君は休みなしで頑張るのかな?」
「いえ、休みが欲しいです。」
「でしょ? だから交代で休む順番を決めようって話。」
「わかりました。」
話し合った結果、最初の1時間は全員で見張りをして、その後からは1時間ごとにレイラ、ローザ、カレン、俺、ミーナの順で休憩を取ることに決まった。
荷物置場は結構広く、30m×30mの細長の面積なので、死角を無くすために四つ角に1人ずつ立つことにした。最初だけローザとレイラが一緒以外は基本1人である。
各々が所定の位置に移動した後は、盗まれない様に荷物を監視するのが俺達の仕事だ。頑張るぞ~!!
・・・・
そんな風に思ったのは最初の1時間までだった。何が言いたいのかと言うと、思いっきり暇である。
お互いの距離が離れ過ぎているから会話もすることが出来ず、ひたすら一人で監視しているからだ。
大声で叫べば会話が出来なくも無いが、仕事をしている人達に迷惑が掛かるので、じっと我慢の子なのである。
「あ~暇だ。」
口に出しても何も変わらない。特に怪しい人も来る訳でも無く、本当に暇である。
何となく暇つぶしに最近使う必要も無くご無沙汰にしていた気配察知を行ってみることにした。
対象を人にして、全開の100mだ!
「おぉ!」
周りにいる人たちの動きが分かって結構楽しいかも。監視も出来るし、こりゃ良い暇つぶしが出来たかもしれない。
・・・・
徐々に建物が出来て来るのを見て(感じて)いるのは、良い暇つぶしになっていた。
「ん?」
もうすぐお昼になる時間になり、気になる反応が有った。
ここからだと死角になる位置だが、向こうの建物の蔭に5人ほどの反応が有って、こちらを伺っている感じだ。
そーいや現場監督もやたらと弁当のことを気にしていたよな。もしかしてコレか?
もしかしたら取り越し苦労になるかもしれないが、任務失敗になるよりはよっぽど良い。駄目元で報告してみることにした。
「すいませ~ん! ちょっと良いですか?」
俺の声を聞いた一人の作業員がこちらにやってきた。
「アンちゃん、どうした?」
「まだ何かがあった訳じゃないんですが、向こうの建物の角からこっちを伺っている人達がいたのが気になって……」
「何! 本当か?」
「ちらっと見えただけなので自信は有りませんが。」
「いや、それだけでも十分だ。お~い!」
作業員が他の作業員に声を掛けた後にハンドサインを送っていた。何だ?
それを見た他の従業員がこっそりと建物の蔭へと移動し、二手に分かれてから用心しながら物陰の集団へと近付いて行く。
そして、タイミングを見て飛び出して行った。
「そこまでだ!」
「くそっ、バレた! 逃げるぞ!!」
「おっと、こっちも行き止りだ!」
「挟まれただと!?」
ここからだと声しか聞こえ無いため、詳細は分からないが、気配察知で大体の状況は分かった。
今前後に3人ずつで5人の不審者を囲んでいる状態だ。
「こうなったら……強行突破だ!」
「通すものか!」
どうやら乱闘になったみたいだ。さてどうなることやら。
「くそっ、逃げられた!」
「おい、冒険者、そっちに行ったぞ! 捕まえてくれ!」
「えっ?」
突然そんなことを言われてしまったんだが……
そして囲いを抜けてきたのは……
「子供?」
ボロボロの服を着た小さな……いや、今の俺と同じくらいの男の子だった。
「シュウ君、捕まえるよ!」
丁度ローザが休憩中だったため、助っ人にやってきた。
よし、2対1なら何とかなりそうだ。
「ローザちゃんは左から、俺は右から行く。」
「うん!」
「どけどけ~!!」
思ったより相手の動きが早かったが多勢に無勢、俺達を抜くのは無理だったために見事捕まえることが出来た。
「は、離せ!」
「ちょ、蹴るなよ! あっ!」
俺が蹴られて瞬間に手を離してしまったため、相手が逃げてしまう。
「おっと、そこまでだ。」
「くっそ~!!」
だけど、遅れてやってきた作業員が捕まえてくれた。
こうして急遽発生した捕り物帳は、捕まえる側の勝利で終わったのだった。




