289 ライス麦
思いがけずランクアップしてしまった。まぁ、あれだけ魔石を集めてたらそりゃ上がるか。
ふと、よくCランク冒険者には、断れない強制依頼ってのが有る話を聞くのだが、この世界の冒険者ギルドでも同じことが起こるのだろうか。……そう言えば、オーク村への襲撃の時にDランク以上が強制参加だったっけ(汗)
すでにCランクになっちゃってるし、もう後戻りはできないので、俺は諦めることにした。
「さて、どうしようかな。」
それにしても、異世界には、こういった時の暇つぶしが無いのが欠点だよな。
ゲーセンもカラオケも無いし、漫画や雑誌も無い、映画もレンタルも無いし、遊園地やアミューズメントパークみたいな場所も無い。
まぁ、ダンジョンが有る意味アミューズメントパークなのかもしれないが、命が掛かってるからちょっと違うか。
「せめてデートする相手が居れば、少しは違うのかもしれないんだけどな。」
居ないんだから仕方が無い。なら別のことをするのが良いんだろうけど、何も思いつかないんだよね。
宿屋経営はフィーネに任せたし、ダンジョン攻略はすでに7階層まで攻略済みだ。お金に余裕も有るし、別に急いで攻略している訳でも無いし、ダンジョンは少し休んでも良いだろう。
「……美味しい物が食べたい。」
ふと、唐突にそんなことを思った。
日本食が食べたい、特にお米が食べたい。
お米さえ有れば米麹が作れるから、味噌や醤油なんかも作れる。もちろん日本酒もだ! まだ飲めないけどな……(遠い目)
まぁ、甘酒なら飲めるし、とりあえず米は日本人にとって、無くてなならない食材だ! だったら探すしかないんじゃね?
「でも、見たことが無いんだよな……」
市場でも露店でも全く見たことが無い。元々無いのか、有っても食材として見られていないのか、はたまは未確認の植物なのか。
「とりあえず聞き込み調査からしてみるか。」
まずは食材を扱っている場所へと向かってみることにした。
同じ穀物と言うことで、小麦粉を売っている露店に声を掛けてみることにした。
「すいません。」
「いらっしゃい。何をお求めで?」
「お米を探しているんですが、知りませんか?」
「お米? それはどういった物でしょうか?」
「品種によって多少変わりますが、ぱっと見、麦に似ていて、炊くと粘り気が有り、甘みのある穀物です。」
「……すまないが、知らないかな。」
「そうですか。」
何件も回って聞いては見たが、全員知らないとの回答を頂いた。
やっぱり、この世界にはお米は無いのだろうか……
そんな時、有る露店の人から有力な情報を貰うことが出来た。
「なぁ、そのお米ってヤツは、どんな色をしているんだ?」
「えっ? 白……いや、籾から取り出した時点では、糠で茶色だな。」
「ひょっとするが、そのお米ってヤツを知ってるかもしれん。」
「本当ですか!?」
「ちなみに、そのお米ってヤツを炊くとどうなるんだ?」
「それは糠が付いている状態ででしょうか?」
「そうだ。」
「キチンと炊かないと、確か臭くて、硬くて、パサパサしていて美味しくないと思います。」
「なら、おそらくだが、ライス麦のことじゃ無いかな。」
「ライス麦?」
「簡単に言えば家畜の餌だな。」
「それってどんなのですか!?」
「たいして実を付けることは無いが、あっという間に成長する雑草だから、結構農家で家畜を育てているところなら、畑に生えていると思うぞ?」
「ありがとうございます。探してみます!」
「そうか、頑張れよ。」
「はい!」
確か馬車で1日の距離のところに村が有ったな。寄らないで通り過ぎたから直接は移動出来ないが、森の中で見える場所になら行ける!
「これは行くっきゃないよね!」
俺は人目のつかない場所まで行くと、転移魔法を発動させるのだった。
・・・・
村の見える森の中へとやってきた。ここからなら歩いても1時間程度で到着するだろう。
とりあえず向かうことにする。もちろん全力ダッシュだ!
「到着~♪」
割とAGIが高めのため、あっという間に村に到着したのは言うまでも無かった。
「お米、お米は何処だ!」
村を一回りしてみたのだが、稲みたいな植物は見当たらなかった。
「無いなぁ……家畜は育てているみたいなんだけどな。」
とりあえず畑で作業をしている人が居たので、聞いてみることにした。
「すいませ~ん!」
「ん? オラか?」
「はい。ちょっとお聞きしたいのですが良いでしょうか?」
「構わんが、どうしただ?」
「えっと、ライス麦ってのを探しているんですが、知ってますか?」
「ライス麦? だったら、その辺に幾らでも生えているぞ?」
「えっ? どれですか?」
「ほら、そこの畑もそうだし、あっちの畑もそうだぞ?」
「えっ? コレ?」
「んだ。」
教えて貰ったのは全く稲には見えない植物だった。
何故かと言うと、実は小さく、1粒がゴマ程度の大きさだ。実が軽いからか、稲の様に垂れて無くてピンと空に向かって伸びていた。
どちらかと言えば、米というよりは、粟や稗の方が近いのでは無かろうか。とりあえず鑑定してみることにした。
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【ライス麦】
実は小さく糠に苦みが有るため美味しくない。炊くと粘り気が出て、ほんのりと甘い。すぐに育って栄養も有るため、で家畜の餌として育てられている。
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ふむ、米では無いが、確かにライス麦だ。
「これ、1本貰っても良いですか?」
「構わんよ。すぐに生えるさかい、1本と言わず、好きなだけ持って行くとええよ。」
「ありがとうございます。」
とりあえず、ご飯茶碗1杯分のライス麦を頂いて行くことにした。
「じゃあ、このくらいを貰っていきます。これはほんのお礼です。」
俺はアイテムボックスに入っていたトゥメイトウを1個渡した。
「これは良いトゥメイトウだぁ、貰ってええのか?」
「はい。」
「ありがとよ、後でかかあと食べることにするよ。」
「じゃあ、俺は行きますね。ライス麦ありがとうございます。」
俺はオジサンと別れると、ダンジョンへと戻るのだった。




