285 家族団らん
「ところで、アランさんはエレンの良い人なの?」
「そのことでお義母さんにお話があります。」
「あら、何かしら?」
「実は、エレンと結婚させて頂きまして、今日はその挨拶に来たんです。」
「まぁ! まぁ、まぁ、まぁ! あのエレンに旦那様が!?」
「えへへっ、そういうこと。驚いた?」
「驚いたわよ。まさかあのお転婆娘が結婚とはねぇ~
でも、年齢的には適齢期だし、結婚してもおかしくないわね。逆に行き遅れなくて良かったわ。」
「お母さん、それって酷くない?」
「だってねぇ、シュウ君もそう思うでしょ?」
「ええっ!? と、突然そんなこと言われても!
あ、で、でも、エレンさんって、美人だし、結構人気が有るんですよ。」
「まぁ!」
サムも好きだったし、俺も美人だと思う。同じ年齢で、アランさんが居なかったら、放っておかないと思う。
「アランさんは、エレンのどんなところが好きだったの?」
「エレンの好きな所は……」
「わぁー! わぁー! アラン、言っちゃダメだからね!!」
「ほら、外野は黙ってて。聞こえないじゃ無いの。」
「外野じゃなくて当事者でしょうが!」
「良いじゃない。減る物でも無いし。」
「恥ずかしいの! やめてよもぉ~」
「後でこっそり教えてね。」
「お母さん!」
親子間の仲の良いのを見ているのは良いのだが、俺、此処に居ても良いんだろうか。
「えっと、僕は一度戻ろうと思います。明日のお昼ごろ迎えに来ますね。」
「えぇ~! 何でシュウ君、帰っちゃうの?」
「そうだぞ。俺を1人にしないでくれ。」
アランさんェ……
「親子水入らずな所に居るのもなんか悪いですし、それに、ほ、ほら、宿のことも有りますしね。」
「駄目、却下~」
「だな。」
「いや、お、僕は部外者ですし。」
「シュウ君は家族。だから良いの! だからそんな悲しいこと言わないで?」
「エレンさん……」
「だいたいシュウ君の名づけ親は私でしょ? ほら、親で合ってるじゃない♪」
「そうだぞ。シュウは俺たちの……こ、子供みたいなもんだしな。」
「……ありがとうございます。」
「そう言うことなら、シュウ君は私の孫になるのね~ おばあちゃん、初孫が出来て嬉しいわ~♪ ローラおばあちゃんって呼んでね?」
何でこの人たちはこんなにも温かいんだ?
実際の親のことは知らないが、出会ったのがこの人たちで本当に良かった!
その後は、色々と仲良くお話をするのだった。
・・・・
日も沈み、すっかりと辺りも暗くなってきた。
「何も言わずに出てきてしまったので、やっぱり一度戻ります。」
「戻ってくるよね?」
「はい。」
「じゃあ行ってらっしゃい。ちゃんと帰ってくるんだからね?」
「大丈夫ですって。じゃあ行ってきます。」
俺が居ないだけなら、非常識人間らしいので気にしないだろうが、アランさんとエレンさんも居なくなると問題になるかもしれないからな。
フィーネに一言だけ伝えに行ってくることにする。
俺は家の外へ出ると、転移魔法でダンジョン宿まで戻った。
フィーネに説明をした後は、地下7階へと向かうことにした。ハイオークの肉をお土産にしたかったからだ。
「急がないと心配されるな。」
俺は全力を出すことにしたのだが、幸いなことに2グループ目でハイオーク肉がドロップしてくれたのは、正直嬉しかった。
どうやら物欲センサーは働かなかったらしい。4人しか居ないし、これ1個でも十分だろう。
俺はハイオーク肉を拾うと、転移魔法で、エレンさんの実家へと飛ぶのだった。
「ただいま。」
「おかえり~」
「よく戻ってきてくれた。」
「おかえりなさい。」
みんなで出迎えてくれたのだが、アランさんが微妙に疲れているが、多分、質問攻めにでも遭ったのだろう。
「これ、お土産です。」
「あら、お肉? 嬉しいわ~」
「これって? まさか!?」
「多分な。」
ローラさんは喜んでくれたが、アランさんとエレンさんは、俺が何の肉を持ってきたのかが分かったらしい。
「ところでシュウ君は何処に戻ってたの? この辺に宿は無かったと思ったのだけれど。」
「お、お母さん、そんなことどうでも良いでしょう! ほら、折角のお肉なんだし、美味しいの作ろうよ!」
「そうね。じゃあエレン、手伝ってね。」
「うっ……は~い。」
エレンさんは面倒くさそうに、ローラさんの後を付いて行った。
以前、護衛依頼の野営で簡単な料理は作ってくれたから出来ない訳じゃなみたいだが、それほど得意ってほどじゃないみたいだ。
とりあえずエレンさん、誤魔化してくれてありがとう!
「出来たよ~」
「お待たせしました。」
しばらくして料理が出来たので運ばれてきた。運ばれてきたのは、パンにステーキとスープにサラダった。
配膳し、全員がテーブルに着くと、夕食を食べることにした。
「「「「いただきます!」」」」
パクリ……うん、正に家庭料理って感じな素朴な味なのだが、何故か凄く旨い!
宿等で食べる料理の方が美味しいのだろうが、俺はこっちの方が好きだ!
「美味しい~」
「旨いな。」
「こんなお肉食べたこと無いわ。」
「本当に、これ美味しいです。」
「ほらシュウ君、どんどん食べなさい。お替りも有るわよ。」
「はい!」
俺は満足するほど料理を食べるのだった。
食事も終わり、お湯で体を綺麗にした後は、眠るだけとなった。
「シュウ君は、おばあちゃんと一緒に寝ましょうね。」
「えっ、いや、お、僕は1人で寝れます。」
「そうよね、こんなおばあちゃんと寝るのは嫌よね……」
ローラさんが凄く落ち込んでしまった。
「そう言えば、僕って親や祖母と寝たこと無かったんだっけ! 初めてだから楽しみだな~」
「そう? 良かったわ。」
「じゃあ、私たちは私の部屋で寝るから、お母さん、シュウ君のことよろしくね~」
「はいはい。」
結局ローラさんと寝ることになってしまったので、ローラさんの部屋へと向かうことにした。
それにしても、ローラさんは自分のことをおばあさんと言ってるが、30代後半か、行ったとしても40代前半くらいに見える。
俺くらいの年齢の子供が居てもおかしくない年齢だとは思うし、実際若いと思う。
「あれ?」
「どうしたの、シュウ君。もしかしてやっぱり嫌だった?」
「いえ、そう言う訳じゃなくて、えっと……」
今まで気にしてなかったと言うか気が付かなかったが、ローラさんの旦那さんって居るのか?
パッと見た感じ旦那さんらしき物とかは見当たらないみたいだが……
「もしかして、私の夫のことでも気にしているのかな?」
「あ……はい、そうです。」
誤魔化しても仕方が無いので、正直に返事した。
「エレンってば何も言って無かったのね。私の夫は、エレンが10歳の頃に亡くなったわ。もう10年以上前のことね。」
「そうだったんですね。」
「森から出てきた魔物に殺されてしまったのだけど……そう言えば、それからかしら、エレンが冒険者になりたいって言いだしたのは。」
「・・・・」
「あの子の人生だし、特に止めはしなかったのよね。そしたらあの子、15歳になったと同時に冒険者になるって家を飛び出しちゃったのよ。」
何となくその時のエレンさんが想像できるな。
「それで、ようやく帰ってきたと思ったら、今度は旦那さんつれてきてるんだもん。びっくりしちゃったわ。
だけど、こうしてシュウ君とも出会えたし、案外これで良かったのかもしれないわね。」
「はい。僕もエレンさんが居なかったら、ここには居なかったかもしれませんしね。」
「そう言えば、シュウ君はエレンとどう知り合ったのかしら?」
「僕は森に捨てられていたんです。そこでアランさんとエレンさんに助けて頂いて、名前もその時に頂きました。」
「……そうだったのね。ごめんなさい。辛いこと聞いてしまったわね。」
「いえ、気にしてないので大丈夫です。」
「そう、良かったわ。これからは、本当に私のことをおばあちゃんと思って構わないからね。」
「そんな、おばあちゃんと言うほど年を取ってないじゃないですか。お母さんでも十分通じますよ。」
「まぁ~! じゃあ私、おばあちゃんじゃ無くて、シュウ君のママになろうかしら? ママって呼んでくれる?」
ローラさんが凄く期待をした目で、俺を見てきた。えっと……
「ろ、ローラママ?」
「きゃあああぁぁぁ~~~!! 最高~!! 可愛いわああぁぁ~~♪」
ローラさんはそう言うと、俺を思いっきり抱きしめたのだった。
その瞬間、あっ、この人はエレンさんお母親なのだと心から納得した。もちろん何を思って納得したのかは絶対に内緒だ。
そして俺は、そのままローラさんにだっこされたまま眠ることになったのだった。




