283 暇
「さて、これからどうしようかな。」
今日はもう冒険に出掛けるつもりは無い。かと言って仕事もしたく無い。
「だけど目的も無くブラブラするのもなぁ……」
日曜のお父さんの如く、邪魔と言われそうな気がする。
何か暇つぶしになりそうな物は無いかと、アイテムボックスを漁っていると、ある物を見つけた。
「そう言えば、こんな物も有ったんだっけな。」
それは以前露店で買ったヨーヨーだった。オリハルコングローブを作ったことで忘れてたよ。
でも、正直今更作ってもなぁ……単なるおもちゃとして作るんだったら良いか?
まぁ、暇つぶしと考えれば、それも良いかもしれない。
「よし、作って見るか。」
俺は自分の部屋へと戻ると、まずは確認も踏まえてヨーヨーを分解してみることにした。
まぁ、2つの円盤がくっ付いているだけだし、大した仕組みじゃないんだけどね。
とりえあえずオリハルコンゴーレム糸を使用してみる。
「おー、正にヨーヨーだな。」
本体が金属で出来ているために、それなりに重量感はあるけれど、それ以外は普通のヨーヨーだった。
・・・・
「……はっ! つい遊んでしまった。」
ヨーヨーって無心で遊べるよね。ある意味、時間泥棒だ。
とりあえず遊びには使えるけれど、これを武器にするにはどうだろうな。
一応ゴーレム糸で作ってるから、物理法則を無視した、あり得ない軌道での攻撃は可能だが、前に作ったオリハルコングローブの糸で切った方が早い。
だけど、敵の無力化を目的とするのなら使えるかな? 正直、穴を掘って埋めた方が早いとは思うが……どこでも使えるのが利点か。
まぁ、手段の1つとして持っているのも悪くないだろう。
「暇つぶしが終わってしまった。」
ハイパーへの改造も考えたが、よくよく考えたら、ベアリングを使うってこと以外の仕組みを知らなかったので諦めたのだ。
「また暇になってしまった。」
日本に居るときは、漫画や雑誌、ゲームにインターネットと暇つぶしをする手段が多く有ったが、ここにはそんなものは無い。
せいぜい、冒険者ギルドで調べものをするくらいだ。あぁ、漫画が読みたいぜ。
コンコン……
その時、扉がノックされた。誰が来たのだろうか。
「どうぞ。」
俺が入室の許可を出すと、扉が開いた。
「シュウ君!!」
「うわっ!」
扉が開くと同時に飛び込んできたのはエレンさんだった。
「エレンさん? どうしてここに?」
「もちろん、シュウ君に会いに来たからだよ~」
「エレン違うだろうが。」
「アランさん。違うってのは?」
「例のダンジョン宿に泊まってみようと入ってみたら、シュウの許可を貰ってるからと、従業員部屋に案内されてな。そのお礼を言いに来たんだ。」
「あの部屋凄いんだよ! 大きなベッドにお風呂まで付いているなんて、もう感謝感激だよ~!」
「喜んでくれて嬉しいです。あの部屋はアランさんとエレンさんのために用意した部屋なので、いつでも泊まって行って下さい。」
「良いのか?」
「もちろんです。」
「すまんな。」
「シュウ君、ありがと~!」
「それにしても、ついこの前にダンジョン街に来たばかりですよね? ここまで来るの早くないですか?」
「それで思い出した。シュウ、あの武器は何だ! 凄すぎるぞ!! オーガも1撃だったんだぞ!」
「そうだよ~、私の矢も、どんな敵でも1撃だったんだよ?」
「えっと……な、内緒です。」
「まぁ、冒険者だし、教えられないのは仕方ないか。まぁ、シュウだから何か有っても不思議じゃないけどな。」
「うんうん、シュウ君だもんね~♪」
お2人共、それってどういう意味なんでしょうか? ちょっと気になります。
「シュウは今日休みか?」
「あ、はい。ちょっとショックなことが有ったので、休むことにしました。」
「もし良かったら、何が有ったのか聞いても良いか? 力になれるかは分からんが、話をするだけでも楽になるぞ。」
「大した事じゃないので良いですよ。
実は、以前にも孤児院長に言われていたのですが、今回のことで正式に孤児院を出ることになったんです。」
「そうか……って、それは何時の話だ? 」
「昨日の話ですけど?」
正確には言われたのは一昨日で、孤児院を出たのが昨日だから間違いでは無いか。
「俺がシュウに伝えたのは一昨日だったよな? 何で昨日の話になっているんだ?」
「あっ……」
しまった。思わず素で答えてしまったが、ここまで移動するのに半月は掛かるんだっけ。
「アラン、シュウ君をイジメたらメッ! だよ!!」
「別にイジメては無いぞ。」
「だって、シュウ君が困っているでしょうが!」
「そうは言ってもな。さすがにちょっと時間的に無理が有ってだな。」
「アランが教えたのが一昨日でしょ? 昨日孤児院を出たとしても問題無いでしょ?」
「……エレン。俺達がここに来たのは一昨日だが、リーデルの街を出たのは何時だ?」
「そんなことも忘れちゃったの? 半月ほど前じゃない! ……って、そういうこと?」
「さすがに気が付いてくれたか。」
「あ~! アラン、私のこと馬鹿にしてる!?」
「ば、馬鹿にはしていない。気が付いて無かったから教えただけだ。」
「う~! 確かに気が付かなかったけどさぁ~、でも、別に時間が変だとしても良いじゃない。だって、シュウ君だもん♪」
「そうだな。」
「……えっと、2人共、気にならないんですか?」
「別に~」
「問題無い。」
やっぱりこの2人は最高だ。本当にこの2人に出会えたことが、俺のLUKが良い仕事をしてくれた結果なのだろう。
「アランさん、エレンさん、手を出してもらっても良いですか?」
「手? 良いよ~」
「かまわんが。」
2人が手を出してくれたので、それを握ると、転移魔法を発動させた。
「うおっ!」
「きゃっ!」
そして場面が変わると、そこはリーデルの街の孤児院の前だった。
「こ、ここは……孤児院前!?」
「すご~い! なにこれ!!」
「転移魔法です。2人だからこそ、知ってもらいたくて。」
「なるほど、だから昨日だったのか。」
「はい。」
「シュウ君、これって何処にでも行けるの?」
「何処にでもは無理ですね。一度行ったことがある場所にしか行けません。」
「そうなんだ。ちょっと残念~」
「何処か行ってみたい場所が有ったんですか?」
「ん~、もうすぐ向かう予定とは言ってもずっと会って無かったから、お母さんに会いたいかな~って思ったんだ。」
「それなら行けますよ。」
「本当?」
「エレンさん、その場所を思い浮かべて貰っても良いですか?」
「えっ? う、うん。」
エレンさんが目を瞑ったので、頭に触れて以心伝心を発動させると、頭の中に、とある村にある家のイメージが浮かんできた。
「アランさん、手を。」
「お、おう。」
俺はアランさんの手を握ると転移魔法を発動させるのだった。




