276 使ってみた
さて、洗濯場も完成したことだし、たまには日光を浴びるついでに街にでも行ってみることにした。
「と、その前にフィーネに完成したことを伝えておかないとな。」
俺はフィーネが仕事をしている部屋へと向かうことにする。
「フィーネ入るぞ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ガチャ!
返事を待つ前に扉を開けてしまった。よく聞いて無かったとも言う。
「うわああぁぁ~~~!!」
フィーネが慌てて何かを隠すのが見えた。まさか裏帳簿か!?
「フィーネ、お前……」
「ち、違うんだ。」
「何が違うんだ?」
「これは、その……ちょっと……」
「裏帳簿作らなくちゃ行けないほど、お金に困ってたのか?」
「決して私の趣味……えっ? 裏帳簿? 何の話だ?」
「だからお金をちょろまかすために裏帳簿を作ってたから、慌てて隠したんだろ?」
「何でそんなことをしなくちゃいけないんだ? 君を騙して一時的な財産を儲けたとしても、長い目で見れば損失だと思うのだが?」
「じゃあ、何を隠したんだよ。」
「これはだね……な、内緒だ。だが、決して裏帳簿的な物では無いとだけは言っておこう。」
トサッ……
その時、慌てていたために不安定な状態で隠したせいか、その物体がテーブルから床へと落ちたのだった。
「こ、これは!?」
「うわああぁぁぁ~~! 見ないでくれええぇぇぇ~~!!」
その物体は本で、フィーネは慌てて拾って背に隠したのは良いのだが、俺はしっかりと見てしまった。
落ちた衝撃でたまたま開いてしまったページには、筋肉質な裸体が絡み合ったウホッ! な春画みたいなものだったのだ。
「まぁ、その、何だ。フィーネの趣味は理解しているから、気にすんな。
こっちに危害が無い限りは特に何か言うつもりは無いし、大丈夫だから。」
「……理解が有るのもどうかと思うが、今は有難いと思うことにするよ。
それで、君は何の用で此処に来たんだい?」
「例の洗濯場が完成したから説明しようかと思ってな。」
「もう出来たのか。相変わらず異常な早さだね。いい加減驚かなくなってきた自分に驚きだよ。」
「まぁ、俺もずいぶんと作業に慣れたとは言え、早いと思ってるから反論出来ないけどね。」
「ふふっ。」
「何だよ。」
「いやね、ようやく君も異常さに理解してくれたと思ったら、つい嬉しくなってしまったよ。」
「さよか。」
「それじゃあ、レナさんを呼んで説明してもらおうか。」
「そうだな。」
俺たちはレナさんを見つけて声を掛けると、洗濯場へと移動することにした。
レナさんのサポートとしてアンジェさんも一緒に来たのだが、そう言えばこんな子居たっけな。会うことが無かったから、すっかり忘れていたよ(汗)
「これはまた、何と言うか斬新的な作りをしているね。」
「利便性を追求したらこうなったんだ。
ただ、使う人にとっては使いにくいかもしれないから、レナさんには実際に使って見て、こうして欲しい、ああした方が良いって意見が有れば言って欲しい。」
「わかりました。では、このシーツを実際に洗ってみますね。アンジェは、そちらの台を使ってみてください。」
「わかりました。」
レナさんは、何処から取り出したのか、2枚のシーツを取り出して、各洗濯台へと置いていった。
「もしかしてレナさんはアイテムバッグのスキル持ち!? いつの間に!!」
「何の話でしょうか?」
「いやだって、そのシーツ、何処から出したの?」
「乙女には秘密が有るのですよ。」
「・・・・」
ここは鑑定を……
「勝手に乙女の秘密を見るのはお勧めしませんよ?」
「!? す、すいませんでした!!」
どうやら鑑定の気配を感じ取ったらしい。あれ? 面談の時は何も言わなかったよな?
「あの、レナさん。面接の時って……」
「内緒です。」
「あーはい。」
あの時は自分を売り込むために必要だと思ったから見せてくれたのだろう。きっとそうに違い無い。無いよね?
と、とりあえずレナさんの秘密を見るのは止めておこうと思う。うん。
2人の洗濯している様子を見学する。見たところ、使い勝手は悪く無さそうな感じだが、どうなんだろうな。
台の高さを低めに設定したから、力を入れるのも問題なさそうではあるが……
「出来ました。」
「こちらも終わりました。」
最後の濯ぎが終わったところで、2人共声を掛けてきた。
「使い勝手はどうでしたか?」
「悪くないですね。贅沢を言いますと、洗濯物を絞るためのローラーが有ると助かります。」
「ローラー?」
「えっと、このくらいの長さの筒が合わさって、その間を衣類が通過することで余計な水分を絞り出す物なのですが……」
「あぁ! アレね。分かった。」
博物館等で見たことがある。初期の洗濯機にそんなオプションが付いていたっけな。仕組み自体は簡単だからすぐに付けられそうだ。
「……ちょっと待って、こっちの機能での脱水じゃ駄目かな?」
「それは何でしょうか?」
「全自動洗濯機。洗濯から脱水、乾燥までやってくれる魔道具だ。
論より証拠。とりあえず見てみてよ。」
俺は洗濯したシーツを受け取り、洗濯機の中へと放り込み、脱水のボタンを押した。
すると、中のドラムが高速回転して脱水が始まった。5分ほどしてドラムの回転は停止した。
俺は洗濯輝からシーツを取り出すと、レナさんへと渡した。
「なるほど、これは凄い魔道具ですね。十分に水気が飛んでいます。」
「さっき言ってたローラーはどうする? 作るのはそれほど手間じゃないから必要なら作るけど。」
「いえ、これならば必要無いです。お気遣いありがとうございます。」
「一応さっきも言ったけど、この魔道具って、一通りの洗濯を自動でやってくれるんだ。
一通りの動作確認もしたいから、何か洗濯物を貸してもらえないかな?」
「わかりました。」
レナさんがそう言うと、籠に入った洗濯物をどこからともなく取り出すと、俺に渡してきた。
……間違い無いな。レナさんは何かしらの物を収納できるスキル持ちだ。怖いから聞かないけどね。
「ん?」
ふと、ある洗濯物に目が入ったのだが、こ、これは!?
な、な、何と、それは女性物の下着だったのだ!!
と言うか、そんなもの俺に渡さないでくれ!!
「あの、レナさん?」
「何でしょうか?」
「これを渡したら駄目だと思うのですが?」
「えっと、オーナーはその歳で、女性の下着に興味がお有りなのでしょうか?」
「うぐっ!」
そうだった。俺の年齢だとまだ興味を持つには早すぎる年齢だ。
「……問題無いです。じゃあ試させてもらいます。」
俺は出来るだけ下着類を見ない様にして洗濯物を洗濯機へと投入した。
続けて洗濯用石鹸を投入しようとしてふと気が付いた。これそのまま入れて大丈夫なのだろうか。
洗濯石鹸は、アワアワの実を割って出た汁をを乾燥して固めたもので、洗濯物にこすり付けて使うものだ。
水に溶けるとは言え、塊のまま入れたら溶けきれずに綺麗に洗えないのはもちろんのこと、石鹸カスみたいに残るのでは無かろうか。
今回は錬金術で細かく粉砕させて粉石鹸もどきとして使うことにしよう。
次からはアワアワの実の汁をそのまま使ってもらうことで対応すれば問題無いだろう。
粉石鹸を投入した俺は、洗濯機の全自動ボタンを押した。
すると、洗濯槽に水が投入され、ドラムが回転を始めた。フィーネはその様子に興味津々だ。
「なるほど、こんな感じで動くんだね。でも、これで綺麗になるのかい?」
「まぁ、見てろって。」
確かにこの世界の洗濯は、洗濯板でゴシゴシと洗う関係上、グルグル回っているだけで綺麗になるイメージが無いのかもしれない。
……あれ? そう言えば汚れって、洗剤の界面活性剤の影響で綺麗になるんだっけか? それをしみこませるために回転させて……
ヤバイ! もしかして洗濯機では汚れは落ちない!?
俺は無事に落ちることを神に祈るのだった。
洗濯が終わり、濯ぎと脱水と続き、最後の乾燥をすることで、洗濯は終了した。
いよいよ汚れの確認だ。
「……レナさん、確認して貰っても良いですか?」
「わかりました。」
さすがに洗濯物を手に取って汚れを確認する勇気は無かった。ヘタレと行って貰っても構わない。
シーツみたいな洗濯物だったらまだしも、下着を手に取って汚れ……コホン。まぁ、綺麗になっているかの確認は遠慮しておこうと思う。
レナさんが扉を開けて洗濯物を取り出している。
「外に干さなくても乾くものなんですね。」
「そう言う機能を付けたらからね。全自動にすると、洗濯、濯ぎ、脱水、乾燥までやってくれる。
もちろん洗濯だけや濯ぎだけも出来る様に、機能別のボタンも用意したから、必要に応じて使い分けてくれ。」
「わかりました。」
「それで、汚れの方はどうかな?」
「はい。手洗いより時間が掛かるみたいですが、同じくらいに綺麗になりました。」
「そっか、それなら良かったよ。」
どうやら俺の心配事は杞憂に終わったのだった。
今更だが何となく気になったので、洗濯石鹸を鑑定してみる。
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【洗濯石鹸】
アワアワの実を割って出た汁を乾燥して固めたもの。泡の性質で汚れが吸い出されて綺麗になる。
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なるほど、界面活性剤みたいな機能は持ってないみたいだが、泡の性質で汚れは落とせるのか。
泡の性質が何かなのかは知らないが、多分、汚れの吸着機能とかだろう。何はともあれ結果オーライだ。
「とりあえず説明は以上だ。
洗濯機を使う場合の洗濯石鹸は、細かくしてから使うか、アワアワの実の汁を固めないでそのまま使った方が良いぞ。
じゃあ、後はよろしく~」
「ちょっ!」
フィーネが何かを言っていたが、俺はそのまま脱兎の如く洗濯場を出て行くのだった。




