270 料理
ミーナさんとミミさんへのお礼の差し入れだが、何にしようかな。
アイテムボックスには大した物は入ってないし、折角だから何か作ろうかな。
ぐぅ~
そうだった。腹が減ったから帰って来たんだっけ。
俺はとりあえず腹ごしらえするために、食堂へと向かうことにした。
ザワザワザワ……
食堂は満席で、相席どころか座る場所自体を見つけられなかった。
食べれないとなると、余計に食べたくなるのは何でだろうな。
「オーナーじゃん。悪ぃな。今、満席なんだ。」
「うん。そうみたいだね。」
「もう少ししたら空くと思うんだが、こればっかりは分からねーぜ。」
「給仕や料理を作る人が大変になると思ったからこの広さにしたんだけど、失敗だったかな?
まさか、ここまで混むことになるとは思わなかったよ。」
「ダンジョン内でこれだけの料理が食べられるんだ、混まない訳が無いぜ。」
「かと言って部屋を広げるとすると、キッチンを移動させなくちゃならないし、改造するとなると、ちょっと面倒だよね。」
「まぁ、あたいとしては、この広さが丁度良いんだけどな。」
その時、客の1人が声を掛けてきた。
「おーい、ヘレンちゃん! 料理の追加を頼みたいんだが。」
「あたいをちゃん付けで呼ぶんじゃねーっていつも言ってるだろうが! ったく、今行くから待ってな!!
悪りい、オーナー。つー言う訳で、ちょっくら行ってくるわ。」
「いや、こっちこそ仕事の邪魔をして悪かったよ。頑張ってね。」
「任せときな。」
ヘレンさんが、お客の注文を聞きに行ってしまったので、とりあえず奥のキッチンへ向かうことにした。
キッチンでは、ハウスさんとザイルさんが、料理を作るのに忙しそうにしていた。邪魔をしたら悪そうだな。
仕方が無い、空いているかまどを勝手に使わせてもらおう。
「さて、何を作ろうかな。」
ミーナさんは猫系の獣人だから肉料理か? ミミさんは草……じゃなくて野菜系が良いだろう。
……ふと思ったのだが、ミミさんって肉とかって食べられるのか?
ウサギの獣人はどうなのかは知らないが、野生のウサギって、確か昆虫系を食べることも有ったよな。と言うことは、肉も食える?
とりあえず作ってみてダメだったら違うものにしよう。
アイテムボックス内に有る肉は、ホーンラビット、ウルフ、オーク、ハイオークの4種類だ。
そう言えばハイオークの肉って旨いって鑑定結果が出てたよな。なら折角だしハイオークの肉で何か作ることにしよう。
ハイオークは豚だ。豚肉で作れるものと言うと……色々と有りすぎて逆に困るな。
ポピュラーな物だと、とんかつ、豚の角煮、豚の生姜焼き、酢豚、ミミガー辺りが定番料理だろう。どれも美味しそうだ。えっ?1品違うのが混ざって無いかって? 気のせいだろ。
とにかく全部作るのは流石に面倒だし……真面目に困ったな。
「……まぁ、この中で手軽に作れて喜ばれる物とすれば、とんかつ一択だな。異論は認める。」
材料はハイオーク肉、白パン、卵、塩、胡椒、小麦粉だ。
ハイオーク肉を1cmくらいの厚さで切り、包丁の背で叩いて柔らかくする。
塩コショウを全体にまぶしたら、小麦粉をつけ、溶き卵にまんべんなく漬け、おろし金で白パンをおろしたパン粉を付けたら、とんかつと言ったらラードなので、オーク肉の脂身を熱して溶かしたものを使ってで一気に揚げる!
じゅわあぁぁぁ~~~!
ハイオーク肉は豚とは違うから大丈夫かもしれないが、一応用心のためにも気持ち揚げる時間を多くしておくことにした。
衣がキツネ色になったところで油から取り出して、しっかりと油を切る。
だが、ここであることに気が付いた。
「しまった! ソースが無い!!」
醤油でも構わないが、醤油も無い。だったらタルタルソースでも良いかと思ったが、マヨネーズも無い。……いや、マヨネーズなら卵と酢と油が有れば作れるか。よし!
まずは卵と酢、それに塩と胡椒を入れて混ぜる。後は混ぜながら油を少しずつ追加していけば……面倒だから魔法でかき混ぜてしまおう。
「よし、完成だ!」
さっそく味見をしてみる。これなら十分合格点だ。
後はこのマヨネーズに丸ネギ、ピクルス、パッセリ、ゆで卵を砕いたもの、隠し味に砂糖を少々入れて……と、後は混ぜてタルタルソースの完成だ。
後は白パンに切れ目を入れて、レトゥース、とんかつ、タルタルソースを挟めば、なんちゃってカツサンドの完成だ!!
「どれ、まずは味見を……!?」
何となく視線を感じた俺は、その視線の方向を見てみると、いつの間にか、ハウスさんとザイルさんが、直ぐ側でじっと俺のことを見ていた。全く気が付かなかったよ……
それにしても、そんなにじっと見つめられると食べにくいんだけど……
「えっと、何か?」
「す、すいません。何やら美味しそうな匂いがしていたので、つい……」
「そ、そ、そ、それ、な、な、何ですか?」
「えっと、2人共、食べてみます?」
「是非!」
「た、た、た、たべ、食べます!」
多めに作っておいて良かったよ。俺は急いでカツサンドもどきを作ると、2人へと渡してあげた。
これで安心して食べられるぜ。
ぱくり……やべぇ! ハイオーク肉が旨過ぎる!! タルタルソースも良い味を出していて最高だ!
ただ、贅沢を言えばソースが有ればもっと旨くなると思うと、ちょっとだけ残念だ。いつか手に入れたいぜ。
「美味しい。」
「う、う、うま、旨い。」
どうやら2人共、好評みたいだ。
「オーナー、これメニューに入れても良いですか?」
「別に構わないけど、作り方は分かるの?」
「はい。見ていたので大丈夫です。」
「だ、だ、だ、だい、大丈夫です。」
「なら良いけど、俺が使ったのってハイオーク肉だけど、大丈夫?」
「ハイオーク肉ですか……さすがにそれだと厳しいかもしれません。オーク肉で代用してみてどうなるかでしょうか。」
「一応オーク肉も有るから渡しておくね。ハイオーク肉より少ないけどさ……」
俺は、オーク肉とハイオーク肉を全部ハウスさんへと渡した。
オーク肉は30kgで、ハイオーク肉は80kgだ。
「普通、逆じゃないんでしょうか? 何でハイオーク肉の方が多いんですか?」
「いやさ、地下7階で、ハイオークの集団に襲われたらいつの間にか……」
「まあ良いです。オーク肉なら、冒険者に依頼すれば、ここでしたら簡単に手に入るでしょう。まずは作って見てからですね。」
「その辺は任せるよ。一応フィーネに話だけはしておいてね。」
「はい。」
「元々はミーナさんとミミさんへの差し入れで作った物だから、残ったこれは貰って行くよ。」
「あ、はい。」
とは言っても俺達で食べちゃったから、残り2個分しか無いんだけどね。無い物は仕方が無いが足りるかな?
俺はカツサンドもどきを手に取ると、食堂を後にするのだった。




