266 スィートルームは
宿に向かうと、ミーナさんとミミさんが出迎えてくれた。
今は客が切れているのか、少し余裕が有るみたいだ。
「オーナーにゃ。」
「オーナー、お帰りなさいぴょん。」
「ただいま。部屋の空き具合はどう?」
「相変わらずすぐに埋まったのにゃ。満員にゃ。」
「えっ? スィートルームにも客が入ったのか?」
「さすがにあそこは空いてるにゃ。よっぽど理由が無い限り、金貨1枚を出してまで泊まる冒険者は居ないのにゃ。」
「うちもそう思うぴょん。」
「空いているなら良いか。あの部屋、俺の権限で2日間抑えておいて欲しい。フィーネには俺から言っておくよ。」
「了解にゃ。」
「後でロナウド、ジル、マリーって言う3人の冒険者が来るから、無料で泊めさせてやってくれ。」
「わかったぴょん。」
これでオッケーだな。後はフィーネに言っておかなくちゃな。
俺は従業員部屋へと向かうことにした。
「フィーネ、ちょっと良いか?」
「君か、どうしたんだい?」
「例のスィートルームだが、2日ほど使わせてもらうぞ。」
「それは構わんが、説明だけはして欲しいな。」
「実はな……」
俺は先ほど起こったことをフィーネへと説明する。
「なるほど、そう言う理由なんだね。まぁ、君の宿だし、好きにすれば良いんじゃないかな。」
「すまんな。」
「もともとあの部屋は何か会った時ために貴族用として作っただけだからね。レナさんも仕事が出来て丁度良いんじゃないかな。」
「そうだな。」
やっぱりレナさん的には仕事量が足りないと思っているらしい。
どんだけ働けば気が済むんだろうか。それともメイドさんと言う人達は、みんなこういうものなのだろうか……
・・・・
その頃のロナウド一行は。
「そろそろ今日の狩りを終わりにして戻ろうぜ。」
「そうね、今日は宿に泊まれるって言うし、楽しみよね。」
「噂だとお風呂に入れるらしいぜ。」
「そうなのよ! ダンジョンでお風呂なのよ! ダンジョンの外でもお湯で体を拭く程度だって言うのにね。ホント信じられないわよね!」
「飯も旨いらしいぞ。」
その時マリーのお腹がくぅ~っと鳴った。
「あはははっ、そうだよな、さっさと行こうぜ!」
「うん!」
「行く。」
地下7階を出て、例の宿の前に到着した。
「ここで良いんだよな?」
「と言うか、ダンジョン内に宿なんて、ここ以外に無いでしょうが。」
「そりゃそうか。だけどよ、本当に大丈夫なのか? 騙されたとか無いよな?」
「その時はその時よ、いつも通りに階段で寝れば良いだけじゃない。」
「そりゃそうか。よし行くぞ。」
「「おー。」」
ロナウド一行は、意を決して宿へと入ると、そこに獣人族の女性が2人、受付をしていた。
「いらっしゃいにゃ。」
「いらっしゃいぴょん。」
「えっと、シュウと言う子供に言われて来たんだけど……」
「確認だけど、ロナウド様に、ジル様とマリー様かで合ってるかにゃ?」
「そ、そうだ。」
自分の名前を呼ばれたことで間違ってなかったことにホッとするのだった。
「オーナーから話は聞いてるぴょん。こちらがカギだぴょん。
そこの扉を出て右に向かうと階段が有るから、3階まで行くぴょん。そこが部屋になっているぴょん。」
「お、おう。」
「食事は1階の食堂で食べられるにゃ。だけど有料なのにゃ。後は、朝の10の時間になったらチェックアウトして欲しいのにゃ。」
「質問等がありましたら、ここに来て欲しいぴょん。」
「分かった。」
ロナウドは鍵を受け取ると、言われた通りに進むことにした。
扉を開けると、正面の扉の向こうに食堂が見えた。ずいぶんと賑わっているみたいだ。
「良い匂い。」
「そうね、さっさと荷物を置いたら食べに来ない?」
「そうだな。」
俺はたちは通路を進むと、左側に『男』、『女』の暖簾が有るのが見えた。
『女』の方の扉は閉まっていて、扉の脇に予約票の紙が貼ってあり、よく見ると全て埋まっていた。
「えぇ! お風呂って入れないの!?」
「ショック。」
「『男』の方は何も書かれて無いってことは、入れるみたいだな。」
「えぇ~! ロナウドだけズルイ! 私も入るぅ~!」
「ズルイ。」
「いや、ほら混浴禁止って書いてあるし、駄目なんじゃね?」
「ズルイズルイズルイ~!!」
「こうなったらアレを切ってロナウドも女の子にするしか。」
「ひっ! アレって何だよ! 怖いこと言わないでくれ!
ったく、わーったよ。俺も入らなければ良いんだろ! 入らなければ!!」
ロナウドがブツブツと文句を言いながら通路を進むと、左側に階段が見えた。
「ここから上に行くんだな。」
「ロナウド見て! 向こうに体を洗える場所が有るみたいよ!」
「しかも無料。」
「マジか? じゃあ後で来ようぜ。」
「「うん!」」
ジルとマリーの気分が良くなったことにホッとしつつ、階段を上る。
そして3階まで登った先に扉を見つけた。
「あれ? 部屋が1個しか無いが、ここで良いんだよな?」
「多分?」
「まあいいや、入ってみようぜ。」
渡された鍵を、鍵穴に入れて回すと、カチャリと開いた。
どうやらこの部屋で間違いないみたいだった。
「うおっ、すげぇ!!」
「すご~い!! 綺麗~!!」
「豪華。」
部屋の中はかなり広く、貴族様が住んでいる様な部屋だった。
「見てみて、こっちにお風呂が有る!!」
「こっちにはでっけーベッドが有るぜ! 3人で寝ても十分な大きさだぜ!」
「馬鹿……」
3人とも部屋の探検で大はしゃぎだったのは言うまでも無かった。
「ご飯。」
「そういや腹減ってたんだっけな。風呂は後にして先に飯を食いに行くか?」
「行く行く~♪」
「行く。」
「じゃあ飯に行こうぜ。」
部屋を出て食堂へと向かうことにした。
「空いている席は……おっ、あそこが空いてるじゃん。」
「早く座ろうよ。」
「早く行く。」
空いているテーブル席へと着くと、置いてあるメニューに気が付いたので見てみることにした。
「マジか、高けぇ!」
「ダンジョンの外と比べると2倍はするわね。」
「だけど、ここだと安い……と思う。」
「まぁ、そうかもな。」
「とりあえず頼んでみようよ。すいませ~ん!」
給仕の女性へと声を掛けると、すぐにやってきてくれた。
「いらっしゃいませ~、注文はお決まりですか?」
「私はAランチと、蜂蜜酒ね。」
「同じくAランチと蜂蜜酒。」
「俺はAランチとエールだ。」
「畏まりました~、Aランチ3つと、蜂蜜酒2杯、エールが1杯入りました~」
「はいよ。」
「では、すぐに持ってまいりますので、少々お待ちください~」
給仕の女性がその場を離れると、すぐさま別の給仕の女性が飲み物を持ってやってきた。
「注文の蜂蜜酒が2杯とエールな。ごゆっくりどうぞ。」
「おっ、来た来た。早いな。」
「とりあえず乾杯しましょう。」
「「「乾杯!」」」
俺たちは乾杯をした後、一気に酒を頂いた。
「くぅ~! エールが冷えてて旨い! エールって冷やすとこんなにも旨いんだな。」
「本当、美味しい~! 蜂蜜酒も冷えてて最高よ!」
「美味しい。」
「もう一杯いっちゃう?」
「もちろん! すいませ~ん。」
先ほどの給仕の人に声を掛けると、料理を持ってやってきた。
「まずはお料理を置かせてもらいますね。こちらが本日のAランチとなります~」
出来立てほかほかの料理がテーブルへと並べられた。
「マジかよ! ダンジョン内でこんな料理が食べられるとは思わなかったぜ。」
「ホント、これなら2倍の料金でも納得ね。」
「美味しそう。」
とりあえず給仕の女性に料理の代金を支払い、続けて追加のお酒を頼むことにした。
「後、追加でエールと蜂蜜酒を2杯お願いするよ。」
「すいません~ 当食堂では、お酒は1杯までとさせて頂いてるんですよ~」
「お金を出してもか?」
「はい~ 公平のため、どのお客様も同じ対応とさせて頂いてます~」
「そうか、ここまで運ぶのも大変だし、仕方ないよな。」
「ご理解頂いて助かります~」
給仕の女性がその場を離れたので、お酒は諦めて食事をすることにした。
テーブルに置かれた料理を改めてみると、パンが2個に、ステーキとスープのセットだった。
「これがダンジョン内で食えるとはな。」
「温かいだけでも十分なのに、普通に美味しそうじゃない。」
「早く食べる。」
「だな。冷めないうちに食おうぜ。」
俺たちはさっそく料理を頂くことにした。
「旨めぇ~! 何だこれ!!」
「ホント、最高~♪」
「モグモグモグ……」
「これならダンジョンの外でも2倍なら安いかもな。」
「だね。」
「コクコク……」
こうして俺達は美味しい料理を堪能するのだった。
食事が終わり部屋に戻ってきた俺達は、少し食休みをした後、お風呂に入ることにした。
「なぁ、一緒に入ろうぜ。」
「ロナウドがそう言うなら……」
「ん、入る。」
残念だが、ここから先は説明出来ないぜ。大人になったらまたその時ににでもな。
「ふぅ~最高だったぜ。」
「もう、ロナウドったら。」
「ちょっとのぼせた。」
部屋には冷たい水が置いてあったので、頂くことにする。
「ぷはぁ~! 冷えた水が体にしみこむぜ。」
「ホント、致せりつくセリよね。あの子に感謝よね。」
「ロナウドの剣のお陰。」
「……実はな。あの剣だけどよ、ものすごく切れ味が上がってんだけど。」
「そう言えば、いつもより早く敵を倒せてたわね。」
「強かった。」
「あっさりと直したことと言い、この宿のことと言い、あのシュウって子供は何者なんだ?」
「さぁ? でも、地下7階に1人でいる時点で普通では無いよね。」
「異常。」
「だな。でも冒険者はたいてい秘密を持っているからな。詮索は無しだな。」
「そうね。気になるけど仕方ないわよね。」
「ん。」
冒険の疲れと、先ほどの風呂場での疲れも合わさって、少し眠気が出てきた。
「そろそろ寝るとするか。」
「そうね。何処で寝る?」
「向こうの部屋にもベッドが有った。」
「どうせだし、一緒に寝ようぜ。」
「寝ると言って、結局はするんでしょ?」
「ロナウドのエッチ。」
「まぁな。」
結局一緒に寝ることに決まったので、キングサイズのベッドで寝ることにした。
「うおっ、何だこのベッドは!」
「体が丁度良い感じに沈み込んで気持ちいい~!」
「天国。」
あまりの寝心地の良さに、ロナウド達は、何もせずにそのまま眠ってしまうのだった。




