264 トラップ談議
宿へと戻ってきた。中に入ると、ミーナさんとミミさんが、商品を売るのにてんやわんやしていた。
「邪魔をするのもアレだし、そっとしておくか。」
俺は気配を消すと、そっとその場を離れるのだった。
「あっ、オーナー待ってにゃ!」
「手伝って欲しいぴょん!」
あーあー聞こえないと言いたいところだが、さすがは獣人だな。バレていたみたいだが……だが断る!(笑)
俺は一応断りの仕草をしてから、フィーネを探して奥の部屋へと向かうのだった。
フィーネはすぐに見つけられた。何やら帳簿とにらめっこをしているみたいだが、声を掛けてみることにした。
「フィーネ。ちょっと良いか?」
「ん? あぁ、君か。どうしたんだい?」
「まずはこれを渡しておくよ。」
俺は銀貨2枚と銅貨5枚をフィーネへ渡した。
「これは?」
「地下6階での報酬だよ。渡すの忘れてたんだ。」
「あぁ、そう言えばそんなのも有ったね。忘れていたよ。
それ以上に稼がせてもらっているから、別に構わなかったのだがね。」
「それはそれ、これはこれだろ? それに商人がお金に貪欲じゃなくてどうするんだ。」
「……そうだったね。有難く頂こう。」
これでフィーネに対しての支払いは終わりとして。
「フィーネ。地下7階のことについて教えて貰えるか?」
「地下7階は、地下6階の4倍の広さで、洞窟型だね。
敵はハイオークとオークメイジのパーティで襲ってくる。」
「おう。」
「で、この地下7階からはトラップと宝箱が有るね。」
「宝箱!?」
「まぁ、宝箱と言っても大したものは出ないみたいだけどね。ナイフとか薬草とからしい。
運が良ければ初級HPポーションが出るらしいが、出ないと思った方が良いくらいの確率らしい。
だから宝箱を探すよりは、敵を倒した方がよっぽど儲かるらしいよ。」
「そっか。」
まぁ、宝箱は見つけたらラッキー程度に考えておこう。
「トラップについて教えて貰えるか?」
「大きく分けて設置型と、魔法発動型の2つだね。」
「それの違いって何だ?」
「設置型は単純に罠を踏むと発動するタイプで、矢や槍が飛んでくるか、落とし穴に落ちる、毒ガスが噴出するとかだね。
魔法発動型は、その空間内で魔力を検知すると発動するタイプで、魔法が飛んでくるとかって感じかな。」
「例えばだけど、転移魔法みたいなトラップって有るのか?」
「どうだろう? 地下8階まではそんなトラップが有るってのは聞いたことが無いね。それ以降だと分からないかな。」
「何で地下8階までなんだ?」
「マップが広すぎるのと、敵が強いからだね。地下8階の地図だって空白だらけで、全容は分かって無いのが現状さ。
もしかしたら、君が言う通りの転移トラップが有るのかもしれないよ?」
「マジか……」
とりあえず地下7階までは大丈夫だと言うから、しばらくは問題無いだろう。問題は地下8階に入ってからか。
「なぁ、フィーネって罠感知と罠解除を持っているだろ? 一緒に行くってのは?」
「無理だろうね。」
「何でだ?」
「僕の罠感知は設置型の罠しか見破れないってのも有るが、人が作ったトラップならまだしも、ダンジョンの罠は解除できないのさ。
それ以前に、僕は地下7階以降に行くための力を持っていないのが一番の理由さ。」
「そっか。残念だ。……あれ? ふと思ったんだが、魔力感知で魔法発動型のトラップって見つけられないかな?
オークメイジが魔法を使った時に、魔力感知に反応したからな。もしかしたら魔法関係だし、分からないかな?」
「ふむ、興味深いが、どうだろうね。もしそうだとしたなら、今なら僕にも分かるのかもしれないね。」
「まぁ、それについては実際に見つけてから考えるか。」
「それが良いだろうね。」
「後は設置型の見つけ方か……何とかならないかな。」
「確実なのはトラップ感知に特化した冒険者を雇うとかかな。」
「う~ん。」
報酬についてはどうでもいいが、秘密を知る人が増えるのもちょっと遠慮したい。
一番はフィーネが来てくれることだろうが、もともと商人なだけ有って宿の経営の方に心が向いているし、さっきも力不足を言っていたからな。来てくれる可能性は少ないだろう。
「まあいいや。何とかなるだろう。」
「ははっ、君らしいよ。実際何とかなりそうだしね。」
「矢のトラップは何とかなったしな……って矢で思い出した。フィーネ鉄って売れるのか?」
「鉄かい? 売れると言えば売れるが、それがどうしたんだい?」
「実はすげー稼ぎ方を発見したんだ。」
「ほほぅ? それはどんなのだい?」
さすがは商人だ。食いついてきたな。
「矢のトラップを発動させて、鉄の矢を集めて売るんだ! どうよ!」
「……はぁ。」
「な、何だよ!」
「そうだなぁ、どこから説明すれば良いか……まず鉄の値段だが、くず鉄だと1kgで精々鉄貨2枚程度だろうね。」
「はぁ? 何でそんなに安いんだ? 普通に鉄貨だったら単純に考えても1kgで300枚は作れるだろ? おかしいだろうが!」
「そりゃあ鉄を加工するための燃料代や技術料が入っているからね。鉄自体の値段はそれほど高い訳じゃないんだ。
案外、矢のまま売った方が高いかもしれないよ。誤差範囲内かもしれないが……」
「マジか……俺、売れると思ってかなりの数集めたんだけど……」
「ちなみに何本だ?」
「37462本だ。」
「はい?」
「だから37462本だと言ったんだ!」
「良かったじゃないか。大銅貨1枚くらいにはなるんじゃないかな。」
「売るかああぁぁ~~~!!」
俺のささやかな夢は、あっという間に儚くも消えて行ったのだった。




