026 触るな危険
俺達は依頼人の家まで戻ってきた。玄関のノッカーを叩いて呼出しをする。
カンカン!
少しして扉が開くと、例のヒキガエ……もとい、マダムが居た。
「あらあなた達、私は忙しいと言った『ウナァ!』……ミーちゃんの声!? 何処なのミーちゃん!!」
俺はデブ猫をマダムの前に差し出した。
「何よ、そんな汚い猫を私に見せ……ミーちゃん?」
「ウナァ!」
「ミーちゃん! 帰ってきたのね!!」
マダムはミーちゃんを抱きしめて泣き出した。どうやらこのデブ猫で合っていたみたいだ。
まぁ、これで依頼完了だな。良かった良かった。
少しして落ち着いたらしきマダムが話しかけてきた。
「貴方達にはお礼を言わせて貰うわね。ミーちゃんを見つけてくれてありがとう。」
「いえ、気にしないで下さい。それが俺達の仕事ですから。」
「これはほんのお礼よ。」
マダムはそう言うと、俺達に銅貨を1枚ずつ渡してきた。
「これは?」
「冒険者ギルドの依頼とは別のほんのささやかなお礼よ。何か美味しい物でも食べて頂戴。」
「「ありがとうございます。」」
依頼票にサインを貰った俺達はマダムの家を後にした。
「それにしても此処の近所に居たのにも係わらず、今まで見つからなかったのは何でだろうな。」
「んー多分だけど、あの猫ちゃんと、依頼としての猫ちゃんが一致しなかったからじゃないのかな?」
「なるほどね。」
実際俺もそう感じたし、首輪を見てもローザが言うまでは、思いもしなかったからな。
「ま、何にせよ今回の依頼はローザのお手柄だな。俺だけだったら解決出来なかったと思う。ありがとな。」
「な、何よそれ! ほ、ほ、褒めても何も出ないんだからね!」
そんな会話をしつつ歩いていると、屋台が有る通りに出た。肉を焼く匂いが良い感じに漂っている。
「な、なぁ、折角お金貰ったんだし、食べて行かないか?」
「シュウ君! 稼いだお金は全部孤児院に預けなきゃダメなんだよ!」
「そこを何とか! それに言わなきゃバレないって。」
「駄目な物は駄目なの。それに買い食いしたら私がシスターに言うもん。」
「ケチ!」
「ケチで結構。」
こうなったローザは、交渉の余地は無さそうだ。あ~あ、肉食いてぇ~
あそこで酒を片手に旨そうに肉を食ってる人がいるが、羨ましいなぁ~
一緒に食べてる女性も綺麗な女性だし……って、アランとエレンじゃん!
「アランさん!」
「おっ、シュウか。お前も肉を食いに来たのか?」
「違うよ。それに食べたくてもローザちゃんが許可してくれないしね。」
「そうなのか?」
「稼いだお金は孤児院の物です。」
「ね?」
「……そうか、頑張れよ。」
「……はい。」
俺とアランはアイコンタクトだけで、何かが通じた気がした。多分アランも似た様な経験が有ったのだろう。
「シュウ君~♪ だったら私のお肉食べる?」
エレンがそう言うと、食べかけの串肉を出してきた。ゴクリ……
って、駄目だ駄目だ、間接キスなんかしたら、アランに申し訳ない。
「いえ、孤児院で食べられなくなっちゃいますし、それにローザちゃんもダメって言いそうだしね。」
「当然です!」
「ローザちゃん、そんなことばっかり言ってると、シュウ君に嫌われちゃうよ~」
「えっ! しゅ、シュウ君、そうなの!?」
おっ? もしかしてこれは堅物のローザを攻略できる!?
「どうだろうな。もしかしたら、そうなっちゃうかもしれないね。」
これでどうだ!
すると、ローザはショックを受けた顔になったと思うと、ボロボロと涙を流し始めた。
「お、おい!」
「シュウ君に嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた……」
「ちょ、ちょっと!?」
「嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた……」
ヤバイ! もしかしてローザってヤンデレ気質を持っていた!? これの対応間違えたら、俺死ぬんじゃね?
「ロ、ローザちゃん! お、俺がローザちゃんを嫌う訳ないじゃん!」
「……本当?」
「本当本当。」
「じゃあ、好き?」
「……え、えっと、ぼ、僕、子供だから良く分んない!」
「嘘。」
「えっ?」
「嘘だ!!」
「えぇぇ~~!!」
・・・・
物凄く時間が掛かったが、何とかローザを落ち着かせることが出来た。疲れた……
「そ、それじゃ、俺達は行くから。」
「そ、そうね、シュウ君またね。」
そう言うと、アランとエレンは逃げる様にこの場から去って行ってしまった。アラン、カムバーック!!
「シュウ君、行こ♪」
「……はい。」
俺はローザにドナドナされながら、冒険者ギルドへと向かうのだった。




