256 迷惑客
シャワー室が完成したので、一度戻ろうとしたら、何やら通路の先が騒がしかった。
とりあえず行ってみると、ジョン君が沢山の冒険者の前で何やら説明をしていた。
「すいません。この先は工事中なので通れないんです。」
「体を洗える場所が出来るって聞いたんだぞ、俺たちは客なんだ。早く使わせろ!」
「そうだそうだ、高い金を払ってるんだ。さっさとしろ!」
「だから、まだ作ってる最中で利用は出来ないんです!」
「良いから入らせろ!」
冒険者がジョン君を殴ってでも無理やり通ろうとしたらしく、ジョン君が例の魔力盾を発動させていた。さっそく有効活用してくれているみたいだ。
ガン!
「痛てぇ! 何でこんなところに見えない壁なんかが有るんだ?」
「これって魔力盾か? だったらさっさと壊してやる!」
ガンガン!
「くっ! 壊れねーぞ。魔力盾だろ? どうなってんだ?」
「俺も手伝うぜ。」
「俺もだ!」
ガンガンガン!
3人がかりで魔力盾を頑張って殴っていたが、壊れる様子は見られなかった。
「壊れないぞ、どんだけ魔力量を持っているんだ?」
「いや、これ本当に魔力盾か?」
「うっせ、叩けばその内壊れるだろうよ!」
ガンガンガン!
再び殴り始めたが、やっぱり壊れる様子は無かった。
「あの、もう止めませんか?」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、う、うるせぇ……」
「はぁ、はぁ、はぁ、ち、ちくちょう……」
「こひゅー、こひゅー、こひゅー」
最後の冒険者は声を出すのも辛そうだ。何だか可哀そうになってきたな。
つい見すぎていたが、そろそろ助けてやろうか。
「ジョン君、おまたせ。」
「あ、オーナー。もう終わったんですか?」
「うん。だから通しても大丈夫だよ。ただ、そこの3人はどうしようね。」
「どうしたら良いですか?」
「とりあえず後回しにしてもらって、他の冒険者を先に利用して貰おう。」
「わかりました。」
俺がそう指示を出すと、ジョン君が魔力盾を解除して、テキパキと冒険者を案内していた。
「ず、ずるいぞ。お、俺達が最初だぞ。」
「そうだそうだ!」
「はぁ、はぁ、はぁ、げほっ! お、俺達に使わせろ!」
こいつら、懲りないな。だったら。
「従業員や、他の利用者の迷惑になるようでしたら、お金を返しますので出て行って貰えますか?
後、今後の宿の利用は遠慮させて頂きます。」
「なっ! お、俺たちは客だぞ!」
「だからお金をお返しすると言っているんです。払って無ければ客じゃ無いですよね?」
「てめぇ、ガキだから優しくしてやったのに、どうやら躾が必要みたいだな。」
「やっちまえ!」
そう言って3人が殴りかかって来たので、魔力盾を展開する。
「またこれか、卑怯だぞ!」
「卑怯も何も正当防衛だと思うけど?」
「うるせぇ!!」
さて、どうやって無力化させようかな。ここはダンジョンだから穴を掘って埋める手は使え無いし、殴っても良いけど、正直あまり触りたくない。う~む……
「あ、そうか。ルイス団長の時みたいにすれば良いのか。」
俺は冒険者の周りに空気の層を作り、そこから酸素を抜いて行くのだった。
もともと酸欠気味だったこともあり、冒険者たちはあっさりと倒れるのだった。
「ジョン君、運ぶの手伝って。」
「は、はい。」
俺はジョン君と協力して冒険者を運ぶ。カウンターの所でミーナへと声を掛けた。
「ミーナさん、こいつら追い出すから宿代返却ね。後、ブラックリストへの登録お願い。」
「わ、わかったにゃ。」
ミーナが宿帳を調べると、どうやら雑魚寝部屋の客だったらしく、大銅貨3枚を渡してくれた。
「こいつらの荷物はどうするのかにゃ?」
「あー、その問題が有ったか。どうすっかな~
下手に荷物を取りに行かせると居座りそうだし、かと言ってこっちが取りに行くと物を盗まれたとかで騒がれそうだ。」
起きるまではまだ掛かりそうだだから、それまでに対策を取らなければ。
こういった時は、フィーネに相談するのが一番だろう。
「フィーネ先生。お願いします。」
「いきなり何のことだい?」
「実は、かくかくしかじかで……」
「かくかくしかじかとは何のことだい?」
「チッ……」
やっぱりそれでは通じないか。新人類に進化するにはまだ先の話みたいだ(謎)
仕方ないので一から順を追って説明をするのだった。
「なるほど、迷惑客の対応か。」
「どうすれば良い?」
「まぁ、無理やり追い出すのではなく今回は普通に宿泊させて、次回からは遠慮するのが無難だろうね。
相手は気絶してるんだろう? 今ならまだ誤魔化せるだろうさ。」
「それしか無いか。」
「もし騒ぐのならば、強制的に追い出すのも吝かでは無いだろうがね。周りの冒険者も協力してくれるハズさ。」
「まぁ、もうすでに大騒ぎしちゃってるんだけどね。」
「向こうもこっちも最初で不慣れと言うことで許してもらおう。」
そうと決まれば冒険者達を元の場所へと戻すことにした。
とりあえず気絶した場所に寝かせて様子を見ると、しばらくして目を覚ましたみたいだ。
「お客様、どうかしましたか?」
「あぁ? あれ? 俺は何でこんな場所で寝ていたんだ?」
「シャワー室のオープンでお客様達が集まってしたせいで、酸欠で倒れたんですよ。
お体の方は大丈夫ですか?」
「……そうだっけか?」
思い出すな~と軽く念を飛ばしておく。
「んあ?」
もう1人の男性も目が覚めたみたいだ。
「おう、起きたか。」
「あれ? 俺はいったい?」
「聞いた話だと、俺たちは他の冒険者にもみくちゃにされて気絶したらしいぞ。」
「マジか。」
しめしめ、良い感じに記憶が改ざんされているっぽいぞ。
そして、最後の冒険者も目を覚ましたみたいだ。
「あの野郎! 馬鹿にしやがって!!」
「おい、どうした!」
「どうしたもこうしたもねぇ! あのガキ、どこに……」
マズイ!! 何とかしなければ……だがどうやって!? そうだ!
俺は空気を圧縮すると、オート狙撃を使って、騒ぎ始めた冒険者に向けて発射させた。
ビシッ!
「うがっ!」
額に衝撃を受けた冒険者が、そのまま崩れ落ちた。
いわゆるショック療法と言う奴だ。これで記憶が飛んでくれれば良いのだが……
「お、おい、どうした……って伸びてやがる。どうなってんだ?」
「単に酔っぱらったんだろ。ちっ、しゃーねーな。ほれ寝床へ運ぶぞ。」
「しかたねーな。それにしてもいつの間に酒を飲んだんだ?」
「あっ、今日から食堂で食前酒として1杯だけなら飲めるようになりましたよ。」
「「本当か!」」
「えぇ、もし興味が有るのなら行ってみたらどうですか?」
「お、おい。さっさとコイツを置いて行こうぜ。」
「だな。」
2人はそう言うと、気絶した仲間を担いであっという間に去って行った。酒で誤魔化せたらいいな。
まぁ、これでとりあえずミッションコンプリートだな。
後で知ったのだが、夜中に大の大人なのに暗闇をやたらと怖がり、母親を呼ぶ子供みたいになっている人が居たとのこと。
どうやら記憶障害では無く、記憶喪失となってしまったらしい……((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
たまたまかもしれないが、ご愁傷様とだけ言っておこう。
この魔法は、よっぽどのことじゃ無ければ使わないことを心に決めたのだった。




