253 危険
「やっと終わったにゃ……」
「思ってた以上に物が売れたよ。」
「お疲れ様。じゃあ減った分の補充をしておくか。」
「よろしく頼む。っと、その前に、入口の扉を閉めようと思うのだが構わないだろうか。」
「構わないが何でだ?」
「すべての客室が埋まったからな。宿泊客が来ることは無いのが1点、夜中も買い物客が来るとミーナが大変になるのが理由だね。」
「そりゃそうか。良いぞ、そう言う理由なら閉めちゃうか。」
「やったにゃ!」
「とは言っても出て行く人が居るかもしれないからミーナは寝てても良いけど、待機な。」
「にゃ~……」
勝手に扉を開けられるのも困るからな。鍵が無ければ開けられない様にはしてあるけどな。
入口の扉に『営業終了』の看板を設置してから扉を閉め、鍵を掛けた。
「じゃあ、後は宜しくな。」
「わかったにゃ。」
「何処に行くんだい?」
「いや、普通に寝るんだが?」
「そうか、そう言えば君はお子様だったね。ゆっくりと休むと良い。」
「……何か引っかかる言い方だが、まあいい。じゃあな。」
俺は寝る前に、従業員用の風呂へと向かうことにした。やっぱりさっぱりしてから寝たいからな。
服を脱いで浴室へと入るとジョン君が居たのだが、何やら様子がおかしかった。
「ジョン君?」
「!?」
俺が声を掛けると、ビクッっと反応した。
おそるおそるこちらへと向き、相手が俺だと気が付くと安心した顔をした。
「オーナー……」
「何か有ったのか?」
「・・・・」
「話すことで解決出来ることがあるかもしれないぞ。」
「……仕事を辞めようかどうか迷ってます。」
「!?」
マジで!? 営業開始からたったの2日だぞ? 早すぎない?
「な、何でだ? 給料が安いからか? それとも仕事が大変だからなのか?」
「給料は十分な金額を貰ってます……どちらかと言うと、危険だから……でしょうか。」
「危険? まさか魔物が出たのか!?」
「いえ、魔物は出ていませんが、ある意味魔物より恐ろしいかもしれません。」
「何だと! それが出たのは何処だ!!」
「2階の個室前です。」
「くそっ、やっぱりダンジョンってのは危険だったのか。仕方が無い、フィーネには悪いが宿は諦めてもらうしか無いか。」
「いえ、違うんです! 別にダンジョンだから危険だったって訳じゃないんです! 多分地上でも同じだと思います。」
「ダンジョンだからじゃない? だとしたら何が有ったんだ?」
「……個室に無理やり連れ込まれそうになりました。」
「……えっ?」
「何とか振り切れたので逃げられたのですが、あのまま捕まっていたらと思うと……しかも2回とも別の人物にですよ?」
なるほど、確かにそれは怖い目に有ったみたいだな。だけど、相手にもよるよな?
「ちなみに相手はどんな人?」
「一人は剣士の女性でした。筋肉質で身長が高く、少しワイルドな方でした。」
「お、おぉ、そうか。」
「おっぱいは大きかったのですが、抱きしめられた時に硬かったのだけ覚えています。」
「よく逃げられたな。」
「脇腹が弱点だったらしく、そこを触ったら放してくれたので、速攻で逃げました。」
「そりゃあ、良かったな。でも、ついて行ってたら良い思いが出来たかもしれなかったんだぞ?」
「遠慮します。僕にだって選ぶ権利は有ると思うんです。」
「そりゃそうか。参考に聞いてみたいんだが、どんな相手だったら良かったんだ?」
「えっ? い、言わなくちゃ駄目ですか?」
ジョン君が恥ずかしそうにモジモジとしていた。その姿を見た俺は、ショタ好きの人が見たらお持ち帰りしそうだなと思った。
良かったな。フィーネがショタ好きじゃなくて。
「……です。」
「えっ? ゴメン、聞いてなかった。何?」
考え事をしていたら、ジョン君が言ってきたことを聞き逃してしまった。すまぬ。
「だからミーナさんみたいに可愛い人が良いんです!」
「えっ? ミーナさん? まぁ獣人族だからか、見た目は若々しく見えるけど、年齢はジョン君よりかなり上だぞ?
別に付き合ったりしても、当人同士の問題だから何も否定するつもりは無いけどさ。」
「構わないです。と言うか、ミーナさんってそんなに年上なのですか? てっきり有っても5歳差程度だと思ってたのですが。」
「確かにそのくらいに見えるよね。一応それ以上だとだけ言っておく。
ただ、女性の年齢は無暗に教える訳には行かないからな。知りたければ本人に聞いてくれ。」
「わかりました。」
ジョン君がミーナさんをねぇ……確かに見た目は若いし、可愛いのには同意だ。
ふと思ったのだが、人族と獣人族が結婚したとして、遺伝子的に子供って出来るのか? それともハーフ獣人として生まれるのかな?
「それで、もう1回ははどんなのだ?」
「それは……ベンチに座っているツナギを着た男性でした。僕がトイレに行こうとしていた時に会いました。」
「ほ、ほぅ。それで?」
「僕と目が合うと、おもむろにツナギのファスナーを下げて、男性のアレを出すとこう言ったんです。」
「やらないか。」
「な、何で知っているんですか? もしかして見ていたんですか?」
「いや、何となくそう思っただけだよ。見てはいない。」
「そ、そうなんですね。それを聞いた僕は、そのまま逃げたんです。追いかけては来なかったのは幸いでした。」
「そうか。」
それにしても、風呂と言い、2人部屋と言い、トイレでの件と言い、何でこの宿にはモーホーが多いんだ? それとも冒険者にはそう言った人が多いのだろうか? もしかしてレリウスとサムも!? 俺はブルりと体と震わせるのだった。
「何とかしないとな。」
ジョン君だけじゃない。俺だって危険だ。いや、他の女性の従業員だって危険かもしれない。何か対策が取れれば良いんだが……
レリウス、サム「「お、俺(僕)達は、そ、そんな関係じゃ無いからな(ね)!」」




