242 仕事は
「面接をしている時に業務について考えていたのだが、ハウスさんには食堂の料理を作って欲しい。」
「わかりました。」
「そして食堂の給仕はレジーナさんに。」
「はい。」
「レナさんは客室のベッドメイキングや掃除を担当して欲しい。」
「畏まりました。」
「ミーナさんは受付嬢をお願いするよ。」
「にゃ! ミーナが受付嬢かにゃ? そんなのやったこと無いにゃ!」
「大丈夫だと思う。なにせ客は冒険者だからね。冒険者の相手は冒険者が良いだろう?」
「まぁ、そうかもしれにゃいけど……」
「それに、ミーナさんは綺麗だからね。宿の顔としても悪くないと思う。もしかしたら良い人が見つかるかもしれないよ。」
「にゃにゃ! やるにゃ! やらせてもらうにゃ!」
「お願いするよ。」
「えっと、僕は?」
「すまないがジョン君は雑用とさせてもらおう。全員のサポートや物資の搬入等をお願いしたい。」
「了解です!」
「ここまでで質問は有るかな?」
全員が首を振ったから無さそうだな。
「では、ここからはダンジョンの特性を教えておこう。」
「知ってるにゃ! ダンジョン内は、1日物を放置すると消えるのにゃ。」
「そうだ。そして私たちの宿も同じ特性を持っている。」
「と言うことは、お掃除はしなくても宜しいと言うことになるのでしょうか?」
「廊下や部屋については人通りが多い場所だと最低限の掃除は必要になるだろう。だが、ベッド等の備品等についてはそうじゃない。」
「わかったにゃ! 使用するからベッド等が消えにゃいとしても、使ったから掃除をする必要があるのにゃ!」
「そういうことだ。それに宿泊客が居なかった場合は、掃除と触れる作業を行う必要があるということだ。
他にも替えのシーツやらの物資の管理も必要になる。」
「もしかして僕の仕事ってそれですか? どれだけの物資が有るか分かりませんが、結構大変じゃ……」
「1つ1つ触れる必要は無く、物を入れている箱を触れば大丈夫にするつもりだ。背負い袋と同じ特性だね。ガワに触れれば中身が消えないと言う訳さ。」
「それなら良かったです。」
「ジョン君には必要に応じてやってもらうが、基本は各々が管理する物資は管理する人に任せようと思っている。
例えば調味料や材料、調理器具はハウスさんとかになる感じだな。」
「わかりました。」
その後も細々とした特性やら運用方法とかを説明するのだった。
コンコン。
その時、扉がノックされ、エレナさんが入ってきた。
「フィーネ様、そろそろ終了のお時間です。」
「もうそんな時間か。では残りは宿についてからにしよう。移動しようか。」
「「「「「はい(にゃ)。」」」」」
俺たちは商業ギルドを後にすることにした。
商業ギルドを出て街の門へと向かう。
「にゃ? ダンジョンは向こうにゃ? どこに行くのかにゃ?」
「着いて来れば分かる。」
「了解にゃ。」
そのまま門を出て街の外へと出る。
ハウスさんとレジーナさんが少し強張っている。
「大丈夫だ。街から少し離れるが、この辺りは魔物は殆ど出ないし、初心者でも狩れる魔物しか出ないから安心してくれ。」
フィーネがそう言うと、2人は安心したみたいだ。
そして例の小屋までやってきた。
「ここだ。」
「えっ? これが宿なんですか?」
ジョン君が驚いているが、気持ちは良く分かる。物置小屋程度の大きさしか無いからな。
「まぁ見ていてくれ。」
フィーネがカギを取り出して開けると、小屋の中に下に降りる階段が見えた。
「ここが入口になる。勝手に入られると困るため、開ける時間は朝と夜の2回と決めさせてもらうよ。」
「わかりました。」
全員が部屋の中に入ったところで鍵を閉め、フィーネを先頭に階段を下りた。
所々に何故か消えないライトの魔法を設置してあるから足元は明るいが、長い階段を下っていると不安になったらしくハウスさんが質問してきた。
「ずいぶんと下るんですね。どこまで続いているんですか?」
「地下6階と地下7階の間の階段だね。」
「なるほどにゃ、一番冒険者が多くて稼げる階層にゃから、稼げそうにゃ!」
そして階段の終点へと到着した。扉を開けると例のカウンター裏の居住スペースだ。
「ここは従業員の休憩スペースだ。ベッドも有るから仮眠も出来る様にしてある。」
「すごいにゃ! ここは本当にダンジョン内なのかにゃ?」
「その通りだ。」
「あれ? 何でベッドが置いてあるんですか? あっ! 朝来て触れて行ったんですね。」
「いや、ベッドについては詳細は秘密になるのだが、このベッド自体はダンジョンの1部なんだ。だから触れていなくても消えることは無いんだ。
ただシーツなどは別なので触れる必要はある。」
「そうなんですね。」
「それでは一通り周ってこよう。ついて来てくれ。」
「「「「「はい(にゃ)。」」」」」
「君は例の棚の製作をお願いするよ。」
「おう。この部屋とカウンター、キッチン、リネン室の4ヶ所だけで良いか?」
「それでかまわない。」
フィーネがそう言うと、従業員を連れて部屋を出て行った。
さて、始めるとしようかね。
・・・・
「こんな物かな。」
一通り収納棚の設置が完了した。もともと作ってあった物を置くだけの作業だったのであっという間に終わってしまった。
ついでにシーツやらポーション等の備品も補充しておいた。これからは、毎日触れておかないと消えることになるから気を付けてもらおうと思う。
食料については、とりあえず調味料と小麦粉だけにしておいて、野菜や肉等の傷みやすい物は、ハウスさんと相談してからにしようと思う。
後は出入り口だけだが、従業員の教育が終わってからの運営開始だろうから、後回しにしておこう。
一応サイズ等の目印だけはつけておこう。
作業が終わり、とりあえずカウンター前の場所でくつろいでいると、案内が終わったフィーネが戻ってきた。
「ここにいたのか。」
「あれ? 他の人達は?」
「全員、お風呂を体験中だ。」
「あー」
この世界でお風呂は、基本水浴びか、たらいのお湯で体を拭くだけだ。お湯に浸かるのは貴族とかの裕福層だけの特権である。
何せ、水だったのならまだしも、お湯にするための燃料代が馬鹿にならないからな。入りたくなるのも理解できる。
と言うか、俺、せっかく作ったのに風呂に入って無かったよな。後で入ることにしよう。
「入口だけど、どのタイミングで開けたら良いかな。」
「宿の開店日に合わせて開けるのが良いだろうね。」
「開店予定日は?」
「そうだね、準備はほぼ終わっているし、業務としてそれほど覚えることも無いだろう。
明日、一通りの作業を実際にやってみて、明後日からの開店でどうだろうか。」
「良いんじゃないか?」
「じゃあそうしよう。」
大体の話し合いが終わり、みんながお風呂から上がるのを待つ。
少しして全員が戻ってきたので、明日の説明をして今日はお開きにすることにした。
「ではみなさん、明日から頼みます。」
「「「「「よろしくお願いします(にゃ)。」」」」」
こうして新しい従業員も雇うことが出来たし、明後日の開店日を目指して頑張ろうと思う。




