238 準備
「さて、これからどうするんだ?」
「そうだなぁ、まずは人を雇おうと思っている。」
「良いんじゃないか? 何人ほど雇うつもりなんだ?」
「受付に1人、料理人が1人、給仕が1人、客室対応に1人の最低4人は欲しいな。
出来るのなら交代要員を含めてその2~3倍の人は欲しい。」
「全部で12人として、給料はどうするんだ?」
「そこが悩ましいんだよね。街中ならば銅貨5枚から7枚程度で良いだろうけれど、ここはダンジョンだからね。魔物が出ないとは言え、その金額だと厳しいかもしれない。」
「ふむ。」
確か宿の設定で風呂10分で大銅貨1枚だから、1日フルで使ったてくれたら、それだけでも大銀貨2枚と銀貨8枚、大銅貨8枚になるのか。
個室等がフルで埋まったとしたら……それだけで1日の儲けが大銀貨5枚以上か。
1人の雇い賃を大銅貨1枚にしたとして、12人雇ったとしても……うん、問題無いな。
……ふと、思ったのだが、本当にこの値段で利用してくれるのだろうか……
「なぁ。」
「何かな。」
「値段設定だけど、かなりの強気にしたけど、利用する人って居るのかな? それとも値段下げた方が良いか?」
「私は問題無いと思っているが?」
「そうなのか?」
「ダンジョン内で安全に休めると考えたら安いくらいだと思うぞ?」
「そうか。」
まぁ、商人のフィーネがそう言うのならそうなんだろうな。まぁ、運営はフィーネに任せるんだし、余計な口出しは止めておこう。
「よし、従業員の給料は、1日大銅貨1枚と銅貨5枚にしよう。」
「いいんじゃないか?」
「後は僕と君の取り分だが、売り上げから給料と備品、食料等の雑費を引いた残りの3割を僕、5割を君に、残りの2割を維持費にしたいのだが、どうだろうか。」
「任せるよ。」
「決まりだな。」
もし毎日満員だったとしたら、不労所得が1日銀貨2枚になりそうだ。
俺、7歳だけど、FIREしちゃっても良いのかな?
「よし、一度街に戻って募集をしないとね。面接も必要だし、これから忙しくなるぞ!!」
「お、おー!」
フィーネのやる気が天元突破だ。
とりあえず一度階段へと戻り、穴を塞いでから目隠し用の簡易テントを撤去した。
入口は運営開始時に正式に設置することにしよう。
「ほらシュウ、急いで帰るよ。」
「お、おう。」
俺たちはその場を後にした。
人気が無い場所まで移動した後は、転移魔法でガンガルの街中まで飛ぶ。
まずは、フィーネには商業ギルドで店員募集の依頼を出してきてもらい、その後に商売に必要な備品を買いに行くことにした。
「っと、その前にたいしてお金を持ってないんだっけ。先に冒険者ギルドへ行くけど構わないか?」
「もちろんだとも、僕としてももう少し初期費用が欲しいと思っていたらね。」
フィーネの了解も得られたので、先に冒険者ギルドへと向かうことにした。
今回は金策も有るため、アイテムボックスの中身を一気に処理するつもりだ。ダミーとして荷車を錬金術で作って運ぶことにした。
冒険者ギルドへと到着したので、さっさと処理してしまおう。
「すいません。アイテムを売りたいのですが。」
「あら、久しぶりね。元気してた?」
えっと、この受付嬢は確か……
「あっ、えっと、カトリーヌさん……でしたっけ?」
「そうよ、何、忘れちゃったの? ひど~い!」
「いえ、違いますって!」
俺が焦って対応すると、カトリーヌさんはクスクスと笑い出した。
「ごめんね~、ちょっとした冗談だったんだけど、悪いことしちゃったかな。」
「大丈夫です。えっと、依頼の納品お願いしても良いですか?」
「もちろん……と言いたいところだけど、もしかしてそれ全部……なのかな?(汗)」
「はい。」
「……ですよね~、ちょっと時間がかかるけど良いかな?」
「はい。」
俺は冒険者カードとともに、カウンターへウルフの毛皮378枚と、ゴブリンの魔石40個を置いた。
心なしかカトリーヌさんの顔が引きつっている気がしなくも無いが、仕事なので頑張って欲しい。
「お待たせしました。こちらが報酬の大銀貨1枚と、銀貨が9枚、大銅貨が3枚になります。つ、疲れた~!」
「お疲れ様です。」
「ホント、疲れたわよ~、こんなに一気に持ってくる人って居ないからね。」
「申し訳ないです。」
「あ、別に怒ってる訳じゃなよ? 逆にこんなに沢山納品してくれて助かるからね。」
「なら良かったです。」
俺はお金とギルドカードを受け取った。
「本日は冒険者ギルドのご利用ありがとうございました。私、カトリーヌが対応させて頂きました。
またのご利用をお待ちしております。」
カウンターから離れてから、フィーネへ報酬の半分を渡す。
「数日でこの稼ぎか……相変わらずとんでもない稼ぎだが、これからもっと稼げると思うと金銭感覚が狂いそうだよ。」
「慣れてくれ。」
「それしか無いだろうね。気を付けるとしよう。」
用事が済んだので冒険者ギルドを後にした。
運ぶために使った荷車は、人気のない場所でこっそりアイテムボックスへと仕舞っておいた。
「何を買いに行くんだ?」
「ベッド用の布団とシーツを買おうかと思っている。」
「良いのか? きちんと管理しないと消えるぞ?」
「もちろんその辺は考えているさ。そのために人を雇うんだろ?」
「あーそういうことか。」
おそらく在庫管理として毎日数を数える等の業務をやらせるのだろう。それならば1日1度は触れるため、消えなくなると。
「でも、それでも消えてしまったら?」
「こっちは高額の給料を払うんだ。業務怠慢として給料から差っ引くだけさ。」
「結果が目視で分かるだけあって、サボれないな。」
「そういうことさ。それに、実際は全部数える必要は無いから、それほど大変な作業では無いのさ。」
「どういうことだ?」
「ボーダーのリュックの中身は、毎日必ず1度は全部取り出して触る必要が有るのかい?」
「そういうことか。シーツ10枚を1つの袋に入れたら、その袋だけ触れれば良いってことか。」
「正解。」
「そういうことなら、シーツを入れるための棚を作って、そこに押し込めば、棚を触るだけで良いってことになるのか。」
「……確かにそれで充分かもしれないね。これは良いことを聞いたよ。」
フィーネがこっちを向いて期待する目で見ていた。
「へいへい作れば良いんだろ、作れば!」
「よろしく頼むよ。」
その後も色々と必要な物を購入して回るのだった。




