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237 フィーネのお願い


「後は、出入り口の壁をぶち抜けば始められるな。」


「……1つ提案と言うか、お願いが有るのだが構わないだろうか。」


「提案? 何だ?」


「君が苦労して作ったのは知っている。横からそれをかすめ取る様な言い方になってしまうのは心苦しいのだが、この宿を僕に任せては貰えないだろうか!」


「良いぞ。」



正直に言うと宿を作った時点で色々と満足してしまったからな。

ぶっちゃけ正直に言うと、商売するのは面倒くさいと思っていたところだ。正に渡りに船ってヤツだな。



「無茶なことを言っているのは分かっている。だけど僕は商人として……えっ? 良いのかい?」


「だから良いと言ったのだが?」


「・・・・」


「おい、フィーネ。どうした?」


「……はっ! す、すまない。あまりにもすんなりと受け入れられたことで、頭が働かなかったんだよ。」


「で、どうするんだ?」


「一応確認するのだが、本当に良いんだね?」


「もちろんだ。フィーネに全権を任せよう。」


「自分で言うのも何だが、僕が君を騙して乗っ取るとは思わないのかい?」


「まぁ、その時は俺の見る目が無かったと諦めるさ。後は、入口をオリハルコンで塞いじゃえば使えなくなるし。」


「なるほど。確かにそうなったら商売は無理だね。納得だよ。

 まぁ、裏切るつもりは無いとだけ言っておこう。それに、常識知らずの君を敵に回すなんてことは怖くて出来ないからね。」


「マテやコラ! どこが常識知らずなんだよ!」


「言わなくちゃ分からないかい?」


「……やっぱり言わなくて良い。」



そーいや前に色々と言われたっけ。言ったら追加で他にも言われそうだ。



「とりあえずフィーネが運営するのは良いとして、何か手伝うことは有るのか?」


「まずは例の転移魔法を覚えたいと思っている。」


「覚えられるのかは分からないが良いぞ。とりあえず飛んでみるか?」


「お願いするよ。」


「じゃあ手を出してくれ。」


「こうかい?」



俺はフィーネの手を握ると、転移魔法でガンガルの街中へと飛んだのだった。



「ここは……ガンガルの街中か。」


「こんな感じだが、何か掴めそうか?」


「いや、さっぱりだ。」


「もう一度飛ぶか?」


「お願いするよ。」



俺はフィーネの手を掴むと、再び転移魔法を発動させた。次に飛んだのはフィーネと出会ったセリーゼの街だ。



「セリーゼの街か……こんなに早く移動できるのなら、ゴーレムで移動する必要は無かったのではないのでは?」


「前にも言ったが、一度行ったことが有る場所へ瞬時に移動できる魔法だからな。あの時は知らなかったから行けなったったんだ。」


「そうだったね。記憶のある場所なら行けるのか……」


「どうしたんだ?」


「いや何、昔のことを思い出しただけさ。」


「行きたい場所でも有るのか?」


「……僕が生まれた村さ。ここからはかなり遠いし、君は行ったことは無いだろうからね。無理なことは言わないさ。」


「行きたいのなら連れて行ってもかまわないぞ。」


「いや、大丈夫だ。あのゴーレムの移動速度でも半年以上は掛かるだろうからね。そんなに時間は掛けられないさ。」


「いや、行けるぞ。」


「どうやって?」


「フィーネの村を思い浮かべてくれ。」


「分かった。」



フィーネが目を瞑ったので、頭に触れて以心伝心を発動させる。

頭の中に、森の中にある村のイメージが浮かんできた。



「今だ! 転移!」



次の瞬間、森の中へと到着していた……が、そこはフィーネの記憶とは違っていた。

家は焼け崩れ、草は生い茂り、かろうじてそこに村が有ったと判断できる程度の場所だった。

フィーネはフラフラと歩きだしたと思ったら、崩れる落ちるのだった。



「……母さん、父さん、ただいま。」


「・・・・」



俺は何も言えず、ただ涙を流しているフィーネを眺めるしか出来なかった。

しばらくしてフィーネが振り返る。



「すまないね。ちょっと感傷的になってしまったよ。」


「・・・・」


「……そうだなぁ~、昔この村にね、人さらいがやって来たんだ。

 ほら、僕たちはこう見た通りに愛くるしい姿をしているからね。高く売れるみたいなのさ。」


「・・・・」


「村が襲われた時、僕の母さんと父さんは、身を挺して僕を逃がしてくれたんだ。」



何かを思い出しているのか、フィーネはギュッと拳を握りしめていた。



「気が付いた時にはとある街のスラムで生活していたよ。運よく出会った仲間達と一緒に冒険者になって、ダンジョンへと向かったのさ。

 後は知っての通り、冒険者が無理だと判断して、商人になったと言う訳さ。」


「そうか。」


「シュウ、ありがとう。君のお陰で再び故郷へと来ることが出来たよ。」


「大丈夫か?」


「何がだい? 僕はこの通り元気さ。

 ……さて、そろそろ戻ろうか。」


「良いのか?」


「大丈夫だよ。」


「分かった。」



少々無理をしているっぽい感じはするが、本人がそう言っていることだし、戻るとするか。

一度来たから、もう一度フィーネが行きたいと言えば、いつでも連れて行ってあげらえるしな。

俺は再び転移魔法でガンガルの街へと飛ぶのだった。


その後何度か転移魔法で飛んだり、イメージを伝えたりとかをしてみたが、結局フィーネは転移魔法を習得することは出来なかった。



「残念だよ。」


「まぁ、こればっかりは相性も有るだろうしな。逆に言えば、よくアイテムバックとは言え習得できたと思うけどな。」


「ふふん。まぁね。」


「それで、転移魔法が使えないとなると、どうするんだ?」


「まぁ、冒険者を雇うなりして、地下6階を進むしか無いだろうね。せめて安全に攻略できる方法が有れば良いのだが……」


「安全かぁ~」



敵を1撃で倒せれば安全かもしれないが、オリハルコンの剣を渡すのはさすがにマズイだろう。オリハルコングローブは論外だな。

せめて敵が出ない安全な通路が有れば……ん? そう言えば掘った先には敵が出てないよな。場所が同じ階段の階層だからか?

後で上の階層まで掘ってみて、魔物が沸くかどうかを確認してみても良いかもしれない。


で、その後で確認した結果、掘った先にも魔物は出なかったとだけ言っておく。

と言うか、上の階層の階段の位置まで登った時点で、ダンジョン外と認識されたみたいだ。

おそらくだが、ダンジョンとある程度距離が離れると、普通の土地になるのだろう。


とりあえずカウンター裏の部屋に扉を作り、そこから地上までの直通の螺旋階段を作ることで、安全については解決してしまった。

ちなみに地上の出た場所は、街から少し離れた荒野のど真ん中だった。ここからなら、街への往復もそれほど大変では無いだろう。


ただ、街道から離れているとはいえ、誰にも見つからないって訳では無いだろうし、勝手に入られてもマズイ。

一応防犯対策としてオリハルコンコーティングした小屋を建てておいた。これで100人が乗っても大丈夫だし、ドラゴンが踏んでも壊れないぞ!

鍵は普通の鍵だと、盗賊とかに開けられる可能性もあったため、鍵穴に付与魔法で俺の魔力を付与しておいた。

これで同じ魔力を有した鍵以外では開かないようにしておいたので、ひとまず安心である。


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