236 完成
「やっと戻ってきた。」
戻った先にフィーネが居たのだが、何故かかなりご立腹である。
「な、何かな?」
「突然消えたってのも有るが、正直ここに置いて行かれたかと思ったよ。」
こうして戻ってきてくれたから良かったが、下手したら手持ちすべてを投げ打ってでも、他のパーティに地上まで連れて行って貰う必要が有ったよ。」
「わ、悪い。」
「まあ戻ってきてくれたから不問としよう。だが、あの消えたのは、いったい何だったんだい?」
「転移魔法だ。」
「転移魔法?」
「一度行ったことが有る場所へ瞬時に移動できる魔法だな。」
「アイテムボックスと言い、転移魔法と言い、君は商人にとって羨ましすぎるスキルを持っているんだね。」
「ま、まぁな。」
フィーネがグイっと思いっきり顔を寄せてきた。ち、近い……
「もちろんスキル習得に協力してくれるんだよね?」
「お、おう。あ、後でな。」
「よろしく頼むよ。」
俺はフィーネの圧迫に負けたのだった。
その後は伐採してきた木材を使って、ひたすら木の板やら家具を作るのだった。
・・・・
「完成だ!」
「おめでとう。」
「ありがとう!!」
頑張って作ったお陰で、結構満足できる出来栄えだと自信を持って言えるだろう。
折角なのでどんな造りなのかを説明していこうと思う。
ダンジョンからの扉(予定)から入ると8畳程度の広さの部屋があり、ここにカウンターが設置されている。
宿屋のチェックインとアイテムの売買はここで行うつもりだ。
まぁ、商品を棚に置かない関係上、それほどの広さは必要無いのだが、最低でも1パーティ全員が入れる程度の広さは必要だろうから、この広さにした。
カウンターとお客さんのスペースを物理的に直接行き来が出来ない様にすることで、万が一の襲撃が有っても安心である。
もちろんこの部屋全てをオリハルコンでコーディングしたので、カウンターから離れてさえしまえば相手は何も出来なくなる安心設計だ。
飛び道具? そればっかりは頑張って避けるしかないだろうな。
カウンター脇には扉があり、ここから先は宿泊客以外は利用できない様にした。
扉を抜けると、正面に食堂とその奥にキッチンを作った。
実際に料理を作って提供するかは不明だが、作らなかった場合に限るが、自分で火種を用意できるのならば、その時は自由に使わせてあげても良いだろう。
とりあえず食堂は6人が座れるテーブルを6箇所だけにした。理由は食堂として営業した場合、忙しくなるのを防ぐためだ。
入り切れない客はどうするのかって? そんなのは知らん。嫌なら出ていけば良いだけの話だ。それにここでは俺が神だ。実際も神だが……
キッチンの配置等については、帝都で働いた料理屋を参考にさせて貰った。結構使いやすかったしな。
食堂に入らず廊下を進むと、右にカウンターに入るための扉がある。
カウンターの中は、人が作業するスペースと、その後ろにちょっとしたアイテムを置ける棚を作ったので、ポーションや冒険に使えそうな非常食や道具関係を置くつもりだ。
ただ、大量に置くと時間経過で消える可能性も有るから少量だけにしておいた方が良いだろうな。
そしてカウンターの奥には扉が有って、この扉の先は住居スペースだ。
とは言ってもベッドとテーブル。あとちょっとした棚が有る程度の部屋だけどな。
廊下をさらに進むと右に2つの扉を設けてある。1つは男性用、もう一つは女性用だ。まぁ、ぶっちゃけて言うと風呂場だな。
扉を開けてすぐに脱衣所が有り、ここで着替えて先の扉を抜けると、洗い場と湯舟が有る感じだ。
2人ならゆっくり足を延ばして入れる大きさだ。一応頑張れは4人同時に入ることも出来るがお勧めはしない。
実はこの風呂にはちょっとした仕組みが有るのだ。
何となく火と水の複合魔法で、付与魔法を試してみたら常にお湯が沸き続ける風呂が完成してしまったのだ。
温泉かけ流しと同じになったため、お湯が汚れたとしても勝手に流れていくだろう。
一応お湯抜き用の栓も作ったので、湯船にゴミが溜まったら、この栓を抜くことでお湯と一緒にゴミも流す仕組みだ。我ながら良い出来だと自負している。
ちなみに風呂の利用は予約制だ。10分の利用で大銅貨1枚だ。
ダンジョン内で貴重なお湯を大量に使用できるのだから、これでも安いくらいだ。ちなみに時間内であれば何人でも利用が可能だ。
ただし、男性は男湯のみの利用で、女性は女湯のみの利用とさせてもらう。混浴は不可だ。
もし男女混合パーティの場合は申し訳ないが大銅貨2枚を支払ってもらうか、入らないか、片方だけが利用するかだな。
風呂場の先を進むと右に2階へ上がる階段があり、その先の右側に男子トイレと女子トイレを配置した。、便座は作ったがボットン仕様だ。
水洗にしても良かったのだが、基本24時間でダンジョンに吸収されてしまう関係上、あまり気にしなくても大丈夫だろうと思った結果だ。
トイレの正面には仕切りも何もない大部屋になっている。頑張れば50人は寝れるスペースになるが、基本早い者勝ちだ。
ある程度の人数になった時点で制限を設ける必要は有るだろう。とりあえずは40人くらいで様子を見るのが無難かな?
すぐそばにタダで寝れる場所が有るのに、雑魚寝のスペースが必要なのか? と思われるかもしれないが、階段と違って平らな場所で寝れるだけでもずいぶんと違うと思う。トイレも近いしな。
物が盗まれる可能性も無くは無いのだが、それは階段でも同じことだし、そこは見張りと立てるなど工夫して欲しい。
代わりと言っては何だが、宿泊代は1人大銅貨1枚と安くしておくつもりだ。
えっ? 安くないって? ダンジョン内で何を言っているんだ? 別に嫌なら泊まらなければ良いだけの話だ。文句を言う筋合いは無いと思われる。
次に2階だ。2階は全て部屋になっているだけで、特段変わった特徴は無い。とりあえず個室が10部屋、2人部屋が8部屋、4人部屋を4部屋を用意した。
追加で男女共用の個室のトイレも2ヶ所程設置しておいた。なぜ個室にしたのかと言うと、単に空きスペースの問題であって、深い理由は無い。
2階の部屋は下の雑魚寝大部屋とは違って、すべての部屋にベッドとクローゼットは設置させてもらった。
ベッドは特に拘らせてもらった。まず土台にもなるベッドは、ダンジョン土を合成させた特別性だ。これでダンジョンに吸収されなくなった。
次に作ったのはマットレスだ。木を燃やして出来た炭から炭素を取り出し、ルビーから取り出したクロムと、鉄を使ってステンレスを合成させた。
これを針金状にしてスプリングを作る。後は布を加工してその中にスプリングを入れたら完成だ。
ただ、問題が1つだけ有った。それは……材料が無い。結局ベッド2個分しか作れなかったので、1階のカウンター奥の部屋に設置して、従業員用のベッドにすることにした。
仕方が無いので、他のベッドのマットレスは、木を薄く削った状態にしたものを詰めておいた。これでも十分柔らかいから寝やすいだろう。
もちろんどちらのマットレスも、ダンジョン土が微量入っている安心設計だ。
基本、2階の部屋は半分の部屋しか利用できないようにして1日毎に交互に利用することにする。理由は1日経過による吸収で、部屋やマットレスの清潔に保つためだ。
毎日掃除すれば良いじゃんと思うだろうが、それについては人を雇うなどをしてからおいおい変えて行けば良いだろう。
ちなみに個室の利用は大銅貨5枚にした。前にも言ったが嫌なら泊まらなければ良いだけだ。その代わり誰にも邪魔されずに快適に寝れることだけは保証しよう。
次に2人部屋だが、こちらは大銅貨8枚にした。そして4人部屋は銀貨1枚と大銅貨2枚だ。基本1人当りの単価を下げた感じにさせてもらった。
言い忘れていたが、基本すべての部屋にはライトの魔法で常時明かりが点灯している状態にした。これで松明やカンテラ等で明かりを確保する必要が無くなった。ただ、個室等の部屋は寝る際にまぶしくないようにカバーを被せることで明かりを遮断できるようにしておいた。
唯一雑魚寝部屋だけは他の人も居る関係上、明かりは無しにした。ダンジョン特融のうっすらとした光は有るし、それで足りない場合は、個人で持っている明かりで対応して貰うつもりだ。
「とまぁ、こんな感じだな。」
「ふむ。金額についてはダンジョン内ってことを考えると悪くないとは思うのだが、ダンジョンにお金を持って入る人ってあまり居ないのだが?」
「そうなのか?」
「全く居ないとは言わないが、単純に余計な荷物になるからな。普通は冒険者ギルド等に預けているだろうね。
ただ、ダンジョン内で使えると分かると、次からは持ってくる人は増えるだろうとは思うけどね。」
「なるほどな。」
「そこで僕は、お金の代わりの物で支払ってもらうことを提案させてもらおう。」
「代わりの物って何をだ?」
「魔石だよ。オークの魔石を大銅貨1枚分として換算するのさ。」
「それだと不公平じゃないのか? 確かオークの魔石だと、冒険者ギルドでの買取が、大銅貨1枚と銅貨2枚、大鉄貨5枚じゃなかったか?」
「そこは手数料ってことで。と言うか文句を言う輩は、最初から現金を持ち歩くようにすれば良いだけの話だ。問題無いだろう?」
「ふむ……悪くないな。」
「だろう?」
こうして、ダンジョン宿の大まかな経営方向が決定したのだった。




