230 迷子
少し進むと分かれ道に出た。
「どっちに行く?」
「君の好きな方へ進んで構わないよ。」
「ん~、じゃあ右に行くか。」
俺は右の道へ進むことにした。
オークが出たのでサクッと倒して先に進む。
「また分かれ道だ。」
次も右の道へと進んだ。
・・・・
この階層に来てからすでに3時間程の時間が経過している。時々他のパーティとすれ違うことが有ったが、基本挨拶する程度だ。
まぁ、たいてい驚かれるけどな。
「なぁ。」
「どうした?」
「さっきもここを通らなかったか?」
「似たような通路だから間違えやすから仕方ないけど、確かに通ったみたいだね。」
「下への階段って何処になるんだ?」
「さあ? 前にも言ったが、この階層のマップは持っていないから分からないね。」
「……もしかしてだが、俺達って、今迷子?」
「そうとも言えるし、違うとも言えるかな。」
「マジか……って、違うってどういうことだ?」
「そりゃあ、僕がマッピングはしているからだね。」
「じゃあ、帰ろうと思えば帰れるんだね!」
「そうだね。」
「よかったぁ~ちなみにその地図を見せてもらうことは可能か?」
「構わないよ。」
フィーネはそう言うと、1枚の紙を手渡してきた。
俺はそれを受け取ると、確認することにした。地図は歩きながら描いているためか、かなり簡易的な記号の様な地図だった。
「……あれ? これって本当に合っているの?」
「僕は専門のマッパーじゃないからね。間違っていないとは断言は出来ないかな。」
「いや、考えなしに歩きまくった俺も悪かったから同罪だけど……何となく違う気がするな。」
「それは困ったね。」
「さっき、通ったと思われる場所が此処だよね?」
「そうだね。」
「じゃあ、ここを左に進むと入口の方に向かえる訳だから……一度行ってみるか。」
俺は地図を片手に通路を進んでみた。
「あの、もしもしフィーネさん? ちょっとお聞きしたいのですが宜しいでしょうか?」
「どうしたんだい?」
「この地図だと、まっすぐ進む道と左に曲がる道になっているのですが、実際は丁字路で左右に分かれているのですが、これはどういうことなのでしょうか?」
「それはおかしいね。何か間違ったのだろうか。」
「うん。間違ったんだろうね。間違いなく……」
「そうみたいだね。どうしたら良いだろうか。」
「どうしようね。」
どうやら俺達は完全に迷子となったらしい。適当なマッピングはダメってことか。
とりあえず今できることは、知っている場所まで戻ることだ。さてどうするか……
「知っている人に聞くしか無いだろうね。」
「教えてくれるものなのか?」
「もちろんタダは難しいだろうね。対価次第では、教えてくれると思うよ。」
「対価か……何が良いかな。」
「ここでは貴重な、水か食料が無難だろうね。」
「仕方が無い。次に会ったパーティに聞いてみることにしよう。」
「そうだね。」
とりあえず真っすぐ進んでみることにした。オークの集団に出会ったのでサクッと倒す。
「おぉ! 肉が出た!!」
「おめでとう。」
「ありがとうで良いのかな?」
「君の場合だと、素直に喜んだら良いんじゃないのかな。」
「そうだね。きゃっほ~い!!」
「さすがにそれは、わざと過ぎると思うよ?」
「すまん。」
フィーネの話だと、10~20匹に1個は落とすと言っていたが、実は今の戦闘で23匹目だったからな。20匹は超えたが誤差範囲か。
「ちなみに肉だと幾らで売れるんだ?」
「確か大銅貨3枚で売れたと思うよ。」
「魔石は?」
「そちらは大銅貨1枚と銅貨2枚に大鉄貨5枚と言うところだろうね。」
「やっぱり肉の方が高いと言うことはレア物になるんだな。」
「そうかな? 大きさから考えると、魔石の方が運ぶのも楽だし、稼げると思うのだが?」
言われてみるとオーク肉は20kg程の量が有った。要はかなりの量だと言うことだ。
それに比べて魔石だと、1個100gくらいだろう。単純に重さだけで換算すると魔石200個分だ。金額にすると大銀貨2枚と銀貨5枚か……比較にすらならないな。
「なるほど、ハズレと言われる理由が良く分かったよ。」
「納得してくれたみたいで良かったよ。」
「参考に聞きたいのだが、この肉が串肉として味付けされて焼かれた状態で売ってたら幾らになる?」
「そうだなぁ……地上だと1本銅貨1枚だろうけど、ダンジョン内なら2枚……いや、3枚でも買う奴は居るだろうね。」
「銅貨3枚か。それでも魔石の方が儲けは多いか。」
「そういう物さ。まぁ、スープにでもするのなら5枚は行けるだろうね。」
「スープなら5枚? 何でだ?」
「そりゃあ、水は貴重だからね。」
「あぁ、なるほどね。」
それでも結局魔石には敵わないか。商売なんてせずにオークを狩った方が儲かるのは仕方が無いことなのか。
「多分だけど、見当違いのことを考えていると思うのだが。」
「ん? 何の話だ?」
「君が思っているより魔石を集めるのは大変だと言うことさ。」
「25回くらいの戦闘でほぼ同じくらいの稼ぎが出るんだろう? そんなに大変じゃないと思うが。」
俺がそう言うと、フィーネはため息をついた。
「何回同じ説明をしないと駄目なんだい? それとも、君のその頭の中は空っぽなのかい?」
「失礼な。」
「良かい? この階層をメインにしている様な人達は、1度の戦闘で時間も掛かる上に、かなりの体力を消費するんだ。1日に行える戦闘は10回前後くらいが限度だろうね。
ポーターを雇う余裕は無いだろうから、5人のパーティだとして食料、水を分担して持って行くとなると、精々5日間が限度だろう。
10回の戦闘を5日間として、儲けはどのくらいだ?」
「魔石が150個だな。1人頭で換算すると、銀貨が約4枚弱ってところか。」
「そういうことだね。まぁ、宿代や、メンテナンス代。次の攻略のための準備とかを考えると半月程度しか生活が出来ないだろうね。」
1度のダンジョンアタックで半月生活出来ると言っても、贅沢をしたらすぐに無くなるだろうし、それを考えるとそれほどの儲けとは思えないか。
「納得した。」
「この説明はこれで最後にして欲しいね。」
「努力します……」
気を取り直して先に進むことにした。
少し進むと、前方よりカンテラの明かりが見えた。どうやら女性だけのパーティみたいだ。
俺はチャンスとばかりに道を聞いてみることにした。
「あ、あの!」
「あら? 子供? こんな場所で、どうしたのかな?」
「ちょっと道に迷ってまして、階段までの道を教えて貰っても良いでしょうか?」
「階段って地下5階に行くための階段で良いのかな?」
「はい。お礼の対価を払いますのでお願いします!!」
「えっと……」
「やっぱり駄目でしょうか……」
「あっ、ごめんね。ここで道を聞かれるとは思って無かったからね。対価は別に良いわよ。」
「でも!」
「だって、この先にある左の通路を進めば階段よ?」
「「えっ?」」
どうやら俺達は元の場所まで戻ってきていたみたいだ。全然この地図と違うじゃねーか!!
フィーネを見ると顔を背けて口笛を吹いていた。まあ良いけどさ。
「ありがとうございます。何かお礼をしたいのですが。」
「さっきも言ったけど、お礼を言われるほどのことじゃないわ。気にしないで。」
「……ありがとうございます。お……僕はシュウと言います。今度会った時にお礼させてください。」
「気にしなくてもいいのに。まぁ、そこまで言うのなら、楽しみにしているわね。」
「はい!」
「じゃあ頑張ってね。」
女性のパーティはそう言うと去って行った。
俺たちは言われた通りに進むと、無事に階段にたどり着くことが出来た。
「何とか帰ってこれたな。」
「先ほどのパーティに感謝だね。」
「だな……あっ! 名前聞くの忘れた。」
「済んでしまったことだし、仕方が無いね。」
まぁ顔はしっかりと覚えたので、会った時はお礼をしようと心に誓うのだった。




