226 交渉
冒険者ギルドを後にした俺達は、昨日に引き続き市場へとやってきた。
「それで、どこに行くんだ?」
「まずは、昨日目星をつけていた屋台に行ってみようと思う。今日も居れば良いのだがね。」
フィーネがスタスタと歩いて行くので着いて行く。
「何を売ってたんだ?」
何となく気になったので聞いてみた。
「聞いて驚くなよ。何と僕が買おうと思っているのは屑ルビーの原石なのさ。」
「えっ!?」
「そりゃあ驚くよね。仕方が無いことだと思う。これは商人の間による噂話で聞いた話なのだが、何と屑ルビーが宝石へと変わる技術が発見されたらしいんだ。
その技術を使うと、銅貨1枚しか価値のない宝石が銀貨5枚になるって話みたいだしね。」
「へ、へぇ。」
うん、俺その話って、よーく知ってるぞ。
「さすがにその技術の内容までは分からなかったが、実際に屑ルビーを集めている輩がいるらしく、屑ルビーでもそこそこの値段で取引されているって話だ。」
「な、なるほどね。」
恐らく集めているのはあのくそ親父だろう。会ったとしても、もうやってやるつもりは無いけどな。
「どうした? 何かソワソワしているみたいだが、トイレなのかい?」
「だ、大丈夫だ。気にしないでくれ。」
「そうか。」
どうやら考えが態度に出ていたみたいだ。
「あれが目的の屋台だ。どうやら運が良かったみたいだな。今日も売っているみたいだぞ。」
フィーネがホクホク顔でその屋台へと向かうので付いて行く。
その屋台では大した量では無かったが、確かに屑ルビーを売っているみたいだ。
「すまないが、この屑ルビーを全部買いたいのだが、売っては貰えないだろうか。」
「はいよ、1個大銅貨1枚だから、全部で10個だから銀貨1枚だ。」
「なっ! 昨日は銅貨1枚で販売していたでは無いのか?」
「いやね、置けば置くだけ売れるもんでね。値段を上げても売れるとなりゃ、金額も上がるってもんだ。」
「それはそうだが、さすがに10倍はやりすぎでは?」
「最初は銅貨2枚だったんだが、それでもすぐに売れたんだ。1枚づつ増やしていったら今のこの値段になったのさ。」
「むぅ……」
フィーネが悔しそうな顔をしていた。おそらくだが、昨日の内に買っておくんだったって顔をしていた。
「もしかしてだが、まだ在庫は残っているのか?」
「あると言えば有るがね。だが、次の10個は大銅貨1枚と銅貨1枚にするぞ?」
「チッ! 守銭奴が!!」
「そりゃあ、こっちも商売だからな。売れるときに高く売る。商人として当たり前だろ?」
「……その通りだな。」
フィーネは腕を組んで悩んでいる。その値段で買って高く売れれば良いが、確実じゃないからな。
そこに別の客がやって来た。
「親父、この屑ルビー全部売ってくれ。」
「ちょっと待ちたまえ! 今は僕が交渉中だぞ。」
「交渉中か……親父幾らで交渉中なんだ?」
「1個、大銅貨1枚だな。」
「その値段で構わない。売ってくれ。」
「待て、なら僕がその値段で買う!」
「なら俺はさらに銅貨1枚追加するぜ。」
「なっ! なら、さらに銅貨1枚追加する!」
「1枚追加だな。」
「くっ! さらに1枚追加だ!」
「大銅貨2枚で良いぜ。」
「えぇい! 大銅貨3枚で良い!」
「4枚。」
「なら!」
「フィーネ、その辺で止めとけ。」
「でも!」
「そんなに値段を上げて元が取れるのか?」
「……そうだね。どうやら頭に血が上りすぎていたみたいだ。降りさせてもらうよ。」
「じゃあ、俺が買い取らせてもらうぞ。」
「全部で銀貨4枚だ。」
「ほらよ。」
「まいどあり。」
男性はホクホク顔で、商品を受け取ると、屋台から離れて行った。
そして屋台の親父はすぐさま、新しい屑ルビーを取り出した。
「参考に聞くが、幾らだ?」
「大銅貨4枚と銅貨1枚だな。」
「分かった。行こうか。」
「おう。」
どうやら諦めたらしい。俺たちはその場を後にした。
フィーネは市場の通りをドシドシと歩いている。どうやら少し怒っているみたいだ。
「余計なことを言ったか?」
「いや、逆に止めてくれて助かったよ。あのまま購入したとしたら、きっと後悔していたところだ。」
「銀貨5枚になったかもしれないのに?」
「それはあくまでも噂だからね。確実性は無いし難しいところだね。」
「そうだな。」
「何、別の安い屋台を探せば良いだけさ。これだけの屋台が有るんだし、他にも掘り出し物が有るかもしれないだろ?」
「あの男が買い占めてそうだけどな。」
「その時は諦めるさ。」
「そっか。」
「まぁ、君とダンジョンに潜る方が儲かりそうだし、それほど気にはしていないさ。」
「お、おう。」
フィーネが凄く良い笑顔で笑った。俺は思わず顔を背けるのだった。不意打ちでその笑顔は卑怯だと思う。
結局他の屋台で屑ルビーを見つけることは出来なかったが、フィーネと色々と食べ歩きをしたりと、それなりに楽しい休みになったし、これはこれで良かったかもしれない。




