224 習得
「俺の方はこんな感じだったが、そう言うフィーネこそ今日は何をしていたんだ?」
「僕かい? 市場に行って商売になりそうな物を見てきただけだよ。」
「それで何か良い物でも見つけたのか?」
「残念ながら無かったとしか言えないね。一応他の街へと持っていけば高く売れそうな品物は有ったが、すぐに移動する訳でも無いからね。
買っても荷物にしかならないだろうし、アイテムボックスが本気で欲しいと思ってしまったよ。」
「そうか。」
「……もう一度じっくりとアイテムボックスを見てみたいのだがお願いしても良いだろうか? ダンジョンではゆっくりと見ていられなかったからね。」
「良いけど。」
俺はフィーネの前にアイテムボックスを開いてあげた。
「ちなみにだが、僕が物を入れても収納できるのかい?」
「多分ね。」
俺がそう言うと、フィーネは先ほどバラバラになった鉄貨をアイテムボックスへと放り込んだ。
「本当に入れられたね。」
「まぁ、空間に穴を開けているだけだからな。特に制限は設けて無いし。」
「ところで、先ほど入れた鉄貨を取り出すことは出来るのかい?」
「待ってろ。……えっと、どれだ?」
鉄貨の数は増えていないってことは、お金として認識はされなかったってことか。
そうすると、先ほどのバラバラの鉄貨は鉄として認識されたっぽいな。
試しに鉄を取り出すと、やはり例の屋敷で回収した鉄屑が出てきた。どうやらリストとして表示されていない物は、先入先出のキュー形式になるっぽい。
「すまん。取り出すのにも時間がかかるかもしれない。」
「まぁ、使えなくなってしまったお金だし、鉄貨1枚だからね。君に進呈してあげよう。頭を下げて末代まで感謝すると良い。」
「へいへい、ありがとよ。だけど鉄貨1枚分でよくもまぁ、それだけのことが言えるものだな。」
「商人にとっての鉄貨1枚を笑う奴は、鉄貨1枚に泣くことになるのさ。そう考えると、鉄貨1枚がどれだけ貴重なのかを理解できない訳でも無いだろうに。」
「なるほど、すげー納得した。」
流石は商人だな。ドワーフで言うところの酒の1滴は、血の1滴と同じってやつだな。
「ちなみにゴミを入れるとどうなるんだい?」
「紙のゴミなら紙屑になるし、木のゴミなら木屑になる。そう言えば、薪になる木の枝も木屑だな。」
「そういうものか。」
「もしかしたら詳細に区別させることも出来るのかもしれないが、多分とんでもないことになると思うぞ?
例えば、鉄貨は1枚1枚がリスト化させられるとかな。」
「確かにそれだと面倒かもしれないね。」
「だろ?」
「1つ確認したいことが有るのだが、構わないかな?」
「良いぞ。」
「では。」
フィーネが握りこぶしを作ると、アイテムボックス内へと突っ込んだ。
「なるほどね。」
「何をしたんだ?」
「いや、穴に入れるだけではダメと言うことが確認できたのさ。」
フィーネがそう言って手を前に出すと開いた。そこには鉄貨が1枚有った。
「そういうことね。言われてみれば身に着けている物も収納出来なかったな。」
俺が赤ちゃんの時に、自分の下にアイテムボックスを展開した際、着ていた服とかは脱げなかったからな。
でも、体に触れていた布団は収納出来たと言うことは、体に引っかかるかして落ちるかどうかが判断基準なのかな?
俺はスプーンを1本取り出すと、糸で縛ってからアイテムボックスへと放り込んだ。
その後糸を引っ張ってみると、スプーンはそのまま戻ってきた。
「なるほど、完全に落ちることで収納できるってことか。」
「逆に言えば、何かに繋がっている限りは、収納できないってことになるみたいだね。」
「その通りだな。」
その後も色々と確認と言う実験をし続けた結果。
「あ、出来たみたいだね。」
「おぉ!」
何とフィーネがアイテムボックスのスキルを習得出来たみたいだった。どれどれ?
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名前 :フィーネ
年齢 :28
種族 :ホビット族
状態 :普通
LV :8
HP :52/52
MP :148/148
STR:22
VIT:10
AGI:17
INT:18
DEX:26
LUK:4
スキル:弓術、算術、交渉術、鑑定、索敵、罠解除、魔力感知、魔力操作、水魔法、アイテムバッグ
称号 :商人
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「ん? アイテムバッグ?」
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【アイテムバッグ】
時間停止の空間に物を保管することが出来る。生き物不可。1立方メートルまでの物を収納できる。
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どうやらアイテムボックスの下位互換みたいだ。アイテムボックスとして習得するには、何かしらの条件が足りなかったみたいだ。
容量が1立方メートルと言うと、フィーネが普段背負っているリュックの4倍くらいの収納量か? なら馬車程では無いとしても、十分な量を運べるっぽいな。
「覚えられたのは、君が色々と協力してくれた結果だよ。ありがとう。」
「ど、どういたしまして。」
「どうしたんだい? 何か気になることが有るのなら言って欲しいのだけれど。」
「えっとだな。どうやらフィーネが覚えられたのは俺のアイテムボックスの下位互換のスキルらしい。」
「何が違うんだい?」
「単純に容量が違うな。俺のは容量に制限は無いが、フィーネのは1立方メートル程度らしい。」
「それは少し残念だが、それだけ入れられて時間も停止出来るのならば、十分すぎる成果だと思うのだが?」
「フィーネがそれで満足してくれるのなら良いんだけどね。」
「満足しているに決まっているじゃないか。」
「そっか。なら良かったよ。」
まぁ、正確に言うと、俺のアイテムボックスは(改)となっているため、アイテムボックス内の解体作業をやってくれる機能が付いているけどな。
「フィーネ、アイテムバッグのスキルを習得する際に思ったことや、感じたことをメモか何かで貰えないか?」
「なるほど、他の人にも習得できるか試すんだね。」
「あぁ、一応信用できそうな人に頼むつもりではあるけどね。」
「わかったよ。任せてくれたまえ。」
今のところの教えても良い候補としては、アランさんかエレンさんだろうな。次点でルイス団長か?
えっ? レリウスやサム、アリスはって? あいつらは今一つ口が軽いからなぁ……
「さて、検証やらで時間も遅くなっちゃったし、そろそろ寝ようか。」
「そうだね。」
俺はベッドへと入り、寝ることにしたのだが……
「何で俺のベッドに入ってくる。」
「何でって、抱きま……君が寂しくないようにだな。」
今、抱き枕って言いそうになったな。俺がジト目でフィーネを見ていると、ふぅ~とため息を吐いた。
「降参だ。仕方が無い、自分のベッドで寝ることにするよ。」
「そうしてくれ。」
こうして今日も1日が終わるのだった。




