209 地下1階
「おー」
階段を下りた先は、広い空間だった。
何故広いのが分かったのかと言うと、前の方に先ほどのパーティが松明を持って歩いているのが見えるし、他にも遠くの方で松明らしき光が2つ程見えているからだ。
それ以外では、1m先がかろうじて見えている状況だった。まぁ、空間把握を使えば見えていなくても感覚的には分かるんだけどね。
「フィーネ。地下1階ってどんな感じなんだ?」
「地下1階は初心者用と言われているから楽なもんさ。
100m×100mの広さの空間で、壁も罠も無いし、出てくる敵もホーンラビットだけさ。」
「なるほどね。下への階段は?」
「ここが丁度角だろ? 階段は向こうの対角線上の角に有るんだ。
ほら、先ほどのパーティはまっすぐそっちへ向かっているだろう?」
「確かに。余計な戦闘をしたくない人は、さっさと下の階へ行くんだな。」
「そういうこと。僕達はどうする?」
「そうだなぁ……地上のホーンラビットとの違いを知りたいから、1度くらいは戦ってみたいかな。」
「じゃあ人の居なそうなこっちの壁沿いに移動しながら進もうか。松明を出すから待っててくれ。」
「いや、松明は大丈夫だ。」
俺はまずはライトの魔法で光源を確保しておいた。
「これはまた、ずいぶんと明るいライトの魔法だね。」
「そうか?」
「ああ。」
確かにローザやレリウスが使ったライトと比べると明るい気がする。向こうのライトは良いとこ10m程だが、俺のだと20mは余裕だ。
LEDライトを元にして想像しているからだろうか? ちなみに松明だと5mが限度みたいだ。
さて、ここからは気を引き締めないとな。まずは周りの状況を確認してみることにする。
左前に3人組のパーティと、その向こうに2人組みのパーティがホーンラビットと戦闘中みたいだ。先ほどの5人組は下に降りたのか反応が感じられなかった。どうやら下の階へ降りて行ったのだろう。後は中央と、右、右斜め前にホーンラビットが1匹づつ居る感じだな。
「あれ?」
「どうしたんだい?」
「いや、索敵でこの階以外の反応が感じられないんだが……距離的には外にいる警備兵も反応も分かりそうなんだけどな。」
「そういうことか。ダンジョンは何故か同じ階層でしか索敵が出来ないのさ。理由は分からないが階層ごとに別の空間になっているのではと予想している学者もいるけどね。」
「へぇ。」
そういうものと思っておけば良いか。
よし、まずは右側に居るホーンラビットを目指して行ってみるか。
「居たな。」
光源の範囲内に入ったため、ホーンラビットの姿を確認出来たのだが、逃げるどころか襲ってくる気配も無いな。
もしかして、攻撃をするまではノンアクティブ魔物ってことなのか?
さらに近づいた10m程の距離なった時に、ホーンラビットがこちらに気が付くと、角をこちらに向けて飛びかかってきた。
俺はそれを横に避けて、そのまますれ違いざまに切り付けた。
ザシュ!
「キュー!」
どうやら1撃で倒せたみたいだ。ホーンラビットが煙と共に消えると、1個の肉の塊が落ちていた。
「これがドロップか。解体を考えると楽だが、1つの部位しか手に入らないとなると、効率が悪いよな。」
俺は肉を拾ってポツリと呟くのだった。
「戦ってみた感想はどうだい?」
「そうだなぁ……さっき戦ってから気が付いたんだけど。」
「うん。」
「俺、剣でホーンラビットと戦ったのって初めてなんだよね。比べようも無かったわ。」
俺がそう言うと、フィーネは呆れた顔をしていた。
「で、でも、魔力を温存しなくちゃ行けないし、剣で戦うのも必要なことだよね? ね?」
「そうだが、僕も魔法が使えるようになったし、ある程度は使っても問題無いだろうね。
と言うか、次は僕が魔法で戦ってみたいのだが、構わないかい?」
「もちろん。えっと、コレはどうする?」
俺はホーンラビットの肉を持ったままフィーネに聞いてみた。
「アイテムボックスに入れておいたら良いんじゃないかな。」
「そうだな。」
俺はアイテムボックスにホーンラビットの肉を収納した。自由にこのスキルが使えるのは楽で良いな。
「じゃあ次行くか。」
周囲を把握すると、新たに1匹増えているのに気が付いた。
そして、別のパーティが丁度今戦闘が終わると、新たに1匹突然誰も居ない場所に増えたのだった。
「なるほど、この階層って、常にホーンラビットが5匹が存在しているんだな。」
「そういうことだね。と言うか、そんなに索敵をしていてMPは大丈夫なのかい?」
「俺のは正確には索敵じゃないからな。MPを使わないんだ。」
「なら索敵は君に任せても良いだろうか。
今までは魔法が使えなかったから索敵にしかMPを使わないので気にしていなかったのだが、これからは僕も魔法が使えるし、出来ればMPは温存したいんでね。」
「構わないぞ。」
「助かるよ。」
「よし、じゃあ向こうにホーンラビットが居るから行ってみるか。」
「ふふふっ、僕も魔法デビューか。楽しみだね。」
俺は次の獲物に向けて移動することにした。
「居たぞ。」
明かりの先にはホーンラビットが見えているが、やはりこちらには気づいてない感じだ。
地上のホーンラビットだとあり得ないだろうから、違いと言ったらこの辺りだろうな。
「ここからでも届くだろうか?」
「物は試しだし、やってみたら?」
俺のアイスアローなら視線が通っていれば、かなりの距離も当たるからな。
「では試してみようか。『水よ、矢となりて敵を打て、ウォーターアロー!』」
フィーネが呪文を唱えると、ウォーターアローがホーンラビットへと飛んでいき、命中すると、煙と共に消え、1枚の毛皮が落ちていた。
「すごいな……」
「おめでとう。」
「ありがとう。まさか1撃とは思わなかったよ。」
「矢だと違うのか?」
「当たり所が良ければ1本で済むが、戦闘中にそこに確実に当てられる自信は無いかな。」
「そっか。」
俺は毛皮を拾うと、アイテムボックスへと収納した。
「どうする? もう少し狩るか?」
「いや、実際に魔法の確認は取れたし、君さえ良ければ先に進んでも問題ない。」
「とりあえずこの先に1匹だけ居るから、それを倒したらそのまま下に行こう。」
「了解した。」
途中のホーンラビットは俺がサクッと倒してさっさと先に進むのだった。
ちなみに落としたのは肉だったとだけ言っておく。




