208 ダンジョン
「ここがダンジョンだよ。」
「すげー!」
到着したダンジョンは、高い壁に囲まれており、まるで要塞の様だった。
「ここはね、ダンジョンから魔物が出たときに、魔物を外へ出さないための砦になっているのさ。」
「なるほど。と言うことは、魔物ってダンジョンから出てくることが有るのか?」
「ほぼ無いと言っていいが、たまに出てくることがあるらしい。
後は、ダンジョンスタンピードが起こった場合の対策としてだね。」
「そんなのが結構起こるのか?」
「いや、前回のダンジョンスタンビードが起こったは50年程前と言われているし、その前はさらに100年程前らしいし、滅多なことでは起こらないらしいね。」
「へぇ~」
てっきり勝手にダンジョンに入られないための砦かと思ったが、逆だったのか。
しかしダンジョンスタンビードか、フラグじゃ無ければ良いのだが……
「こっちだよ。」
フィーネがスタスタと歩いて行ったので付いて行く。
入口は反対側だったらしく、そこには大きな門が有り、門番が立っていた。
フィーネは門番に頭を下げるとそのまま入って行った。俺はその後を付いて行くのだが、ギルドカードとかを見せる等の審査とかは無いのか?
「なぁ、このまま入っても良いのか?」
「ダンジョンはね、入るも出るのも自由なのさ。ただし、怪我や死亡は自己責任になるけどね。」
「犯罪者が居たらどうするんだ?」
「そもそも犯罪者になったら街には入れないし、街中で犯罪者になったのなら、すぐに警備兵に捕まるからね。
何の問題は無いから、安心すると良い。」
「ふ~ん。そう言うものか。」
世の中には法をすり抜ける輩もいるだろうから、そこまで信用は出来ないとは思うのだが、フィーネは信用しきっているみたいだし、とりあえずはそう言うものと理解しておくか。用心だけは心がけておこう。
門の中に入ると、広さは直径100m程の円形の広場だった。
一応門の脇に建物が建っており、おそらく門番のための休憩所と待機場所になっているのだろう。
「肝心のダンジョンの入り口は……あれか?」
広場の中央に穴が空いており、下へ行く階段が見えた。
「さて、ここを降りたらダンジョンだが、大丈夫なのかい?」
「もちろんだ。」
「武器も無いのにか?」
「い、今から出すんだよ!」
忘れてたので革のリュックから取り出すフリをしながら試作で作った鉄の小太刀を取り出した。
「……リュックの大きさとその武器の長さが合わないと思うのだが、僕の気のせいかな?」
「えっと……き、気のせいだよ。」
「・・・・」
フィーネはジト目でこっちを見ている。
リュックのサイズは約60cmなのだが、小太刀の長さは刃の部分だけで60cmだ。なのでリュックから持ち手の部分がはみ出ていなければ物理的にありえないのだ。しかも鞘が無いから刃が剥き出しになっているしな。
「ひょっとして、それはアイテムボックスと言うやつなのかい?」
「あーそんなとこだ。って、アイテムボックスって有るのか!?」
「君が使っているのがソレがそうじゃないのかい?」
「……もしかしてカマかけた?」
「その通りなのだが、本当にアイテムボックス持ちだったとは……本当に驚いたよ。」
「確認なんだが、アイテムボックスって珍しいか?」
「珍しいも何も、1000年前に使えた人が居たと文献で読んだくらいだね。興味が有ったから覚えていただけさ。
実際に使える人を見たのは初めてになるね。」
「マジか……一応言っておくが、これも秘密だかんな。」
「そういう約束だからね。誰にも言うつもりは無いさ。
ただ、僕の荷物も預かってくれると助かるかな。商業ギルドに預けるのもお金が掛かるからね。」
「まぁ、それについては仕方ないか。構わないぞ。」
「助かる。ちなみにだが、アイテムボックスは僕にも覚えることは出来るのだろうか。商人にとっては正に夢の様なスキルだからね。」
「さあ? どうなんだろう?」
「君はどうやって覚えたんだい?」
「う~ん、説明が難しいのだが、知識として知っていたからとしか言いようが無いな。
俺達が今いる3次元空間に時間の概念を加算した4次元空間でユークリッド空間って言っても分からないだろうなぁ……正直俺も良く分かって無いし。」
「分からないのに知っているって矛盾していないかい?」
だってアニメや漫画の知識ですとは言えないし。興味が有って調べたことは有ったが、正直チンプンカンプンだったしな。
「良かったら見せて貰っても良いかな。もしかするとそれで僕も理解できるかもしれないしね。」
「うーん。まあ良いか。」
確かに俺も知識として知っている訳じゃなのに使えているからな。『一見は百聞にしかず』と言う言葉も有るくらいだしな。
俺はフィーネの前にアイテムボックスの穴を開けてあげた。
「これがそうなのかい?」
「あぁ。」
「手を入れてみても?」
「構わないぞ。」
俺が許可すると、フィーネは手を穴に突っ込んだ。
「……何も入ってないが?」
「入っている物をイメージしないと取り出せないんだ。」
「もし忘れてしまったら、そのまま永遠に取り出せなくなると言うことか。」
「大丈夫だ。その穴自体を鑑定してみなよ。」
「……もしかしてだが、君は僕が鑑定持ちと言うことを知っていたのかな?」
「今更隠す事でも無いからな。知っていたぞ。」
「でも、何で知っているんだい? 君は鑑定では……いや、アイテムボックスだって持っていたな……なるほど、隠蔽か。」
「正解。」
「なるほどね。私の鑑定で見えないと言うことは、その隠蔽は、かなりの熟練度ってことなんだね。」
「まぁ、四六時中使っているからな。」
他にも理由は有るかもしれないが、とりあえずその説明はしなくても良いだろう。
「君だけ知っているのは不公平だ。隠蔽の解除を申請する。」
「却下だ。」
「どうしてもか?」
「どうしてもだ。もし見たいんだったら俺の隠蔽熟練度以上の鑑定熟練度を上げるんだな。」
「ぐうの音も出ないとはこういうことを言うんだろうね。わかったよ。」
俺のステータスを見ると、色々と知られちゃマズイ情報が出てくるからな。さすがに教えられない。
「じゃあ、鑑定してみるかね……なるほど、これほどの量が収納できるのか。やはりこのスキルは是非とも欲しいな。」
「まぁ、実際にどういったスキルなのかを知れたんだし、運が良ければ覚えるんじゃないか?」
「ちなみに呪文は有るのかい?」
「知らん。」
「……そう言えば君は、魔法を使う際に呪文を使っていなかったね。」
「そう言う訳だから教えられないんだ……ん?」
向こうの方か5人組が歩いてきた。
「フィーネ。人が来たからとりあえずアイテムボックスを閉じるぞ。」
「了解した。」
俺は急いでダンジョンボックスを閉じると同じくらいに、その5人組はダンジョン入り口に到着した。
どうやらその5人組は冒険者で、これからダンジョンへと入るみたいだ。大盾持ち、長剣持ち、槍持ちが各1人ずつと、スカウトが1人、最後の1人は大きなリュックを背負っているから荷物持ちのボーダーらしい。全員男性だ。
先頭を歩いていたリーダーらしき人物が、ちらりとこちらに目を向けると驚いていた
「ん? 子供が2人?」
「僕は子供じゃ無いんだけどね。」
フィーネが思わず不満をぶつけていた。確かに大人の女性が子ども扱いされたら怒るよね。
「あぁ、何だホビット族のねーちゃんか。すまんかったな。じゃあそっちのもそうなんだな。」
「いえ、俺は違いますよ。」
「って、そっちは本当に子供だったのかよ! ダンジョンになんぞに入って大丈夫なのか?」
「こう見えてもDランクの冒険者なので大丈夫です。」
「「「「「Dランク!?」」」」」
パーティ全員に驚かれた。まーそうなるよな。俺はギルドカードを取り出して見せた。
「本当にDランクだ。マジかよ……」
「安心しましたか?」
「あ、あぁ。」
「まぁ、今日は初めてのダンジョンなので、日帰りで戻れる程度しか入りませんけどね。」
「そっか。まぁ、気を付けて行けよ。」
「そっちもお気をつけて。」
「おう。」
挨拶を済ませると、そのパーティは階段を下りて行った。
「さて、そろそろ俺達も行こうか。」
「そうだね。」
俺は刀を構えると、階段を降りるのだった。




