183 食事会
部屋で待つこと数時間して、ようやく動きが有った。
コンコン……
「ど、どうぞ。」
レリウスが答えると、扉が開き、メイドさんが頭を下げたまま部屋に入ってきた。
「お客様。リルディル伯爵様が、食事がてらお会いになりたいとのことです。」
「ど、どうするんだ?」
「どうするって、どうするの?」
「行くしかないんじゃないの?」
「だ、だな。」
「そうだね。」
「では、私の後に付いて来て頂けますでしょうか。」
「わ、分かりました。」
俺達が了解の意を示すと、メイドは部屋を出て行ったので付いて行くことにした。
長い廊下を進むのだが、さすがは貴族様のお屋敷だな。ずいぶんと広いぜ。
そして、ある両開きの扉の前でメイドさんが停止した。
「こちらの部屋です。」
メイドさんがそう言って下がったので、レリウスが扉をノックすることにした。
コンコン……
「お客様が到着されました。」
「入れ!」
中から入室の許可の声が聞こえたので、扉を開けて中へと入ることにした。
そこは食堂だったらしく、中央に長いテーブルが置かれており、上座に30代くらいの男性と、向かい側に20代後半あたりの女性が座っており、その隣にアリスが座っていた。おそらくあの人達が、アリスの両親だろう。
そして、少し離れたテーブルの反対側に3人分の食事が置かれていたので、おそらく俺達があそこに座るのだろう。
「こちらへどうぞ。」
部屋の中に居たウェイターみたいな人が椅子を引いたので、とりあえずそこに座ることにした。
俺たちが着席すると、アリスパパが話しかけてきた。
「私がこの屋敷の主人でもあるトーマス=リルディル伯爵だ。
堅苦しい挨拶は後にするとして、まずは食事を楽しもうじゃないか。」
一瞬、「やぁ! 僕トー(省略されました)」と、蒸気を吐く何かを想像したが、気のせいだろう。
トーマス伯爵はワイングラスを手に取ったので、俺達も同じ様に手元に会ったグラスを手に取った。
「アリスを無事にここまで連れてきてくれたことに感謝と、勇気ある少年たちを称えて、乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
とりあえずグラスを口に持って行ったのだが、ほのかにアルコールの匂いがした。……俺、7歳。子供にアルコールは駄目じゃね?
ふとアリスを見ると、同じグラスの中身を飲んでいた。アリスもまだ13歳だったよね?……まぁ、異世界なんだし、食前酒として飲むのは普通のことなのかもしれない。おそらく甘酒と同程度のアルコールなのだろう。
俺はおそるおそる飲み物に口を付けてみた。
アルコールの味は殆どなく、ブドウらしき果物のジュースとしか感じられなかった。これなら問題無く飲めそうだ。とは言っても未成年なんだし、自粛して口を濡らす程度にしておこう。
グラスをテーブルに置くと、料理が運ばれてきた。
まずはオードブルとして野菜のサラダだ。何かドレッシングらしきものが掛かっている。
パクリ……ふむ、オリーブっぽい油に酢と塩を混ぜた感じだが、絶妙なバランスで配合されいるからか、ドレッシングとしては素朴なお味にも係わらず、野菜の味そのものを引き出してくれる上品な味になっていた。旨い、さすがはプロが作った料理だな。
サラダでこの味なら次の料理も期待できそうだ。ワクテカしながら待っていると、トーマス伯爵がニコニコした顔をしながら質問してきた。
「ところで、シュウと言う少年は誰になるのかな。」
何となく厄介ごとの気がしたので、一瞬知らんぷりをしてごまかそうと言う考えが頭を過ったが、レリウスとサムが一斉に俺を見たので無理そうだ。
俺はおそるおそる手を上げると、トーマス伯爵へと返事した。
「私奴がシュウとなります。お見知りおきを。」
「そうか、お前か……」
ん? トーマス伯爵が持っているフォークがブルブルと震えている!?
「お前がアリスを誑かした輩かああぁぁぁ~~~!!」
ヒュン! ……カッ!
何とトーマス伯爵は手に持っていたフォークを俺に向かって投げたのだった。
思いっきり油断していたので全く反応が出来なかったが、フォークは俺の頬を掠って後ろの壁へと刺さった。
ツーっと温かい液体が頬を伝ったのが分かった。完全無効が仕事をしていない!? マジ? こ、殺される!?
「お父様!!」
「あなた! 何を!!」
「うるさい! こいつは、こいつだけは許しては駄目なんだ!!」
これは逃げた方が良いだろうか。でも、逃げたら逃げたで犯罪者にされそうな気がする……
と、とりあえず、トーマス伯爵を落ち着かせるのが先決か。
「と、トーマス伯爵様。私奴が何かご気分を害することをしましたでしょうか。」
「うるさいうるさいうるさ~い!! 私の可愛いアリスを、アリスを、傷物にしたくせにいいいぃぃぃぃ~~~~!!」
呪いでも掛けられそうな血走った目で俺を見ていた。マジで怖すぎる。と言うか、何でこんなに怒っているんだ?
「私奴は、何もアリス様に手をだしてはおりませんが?」
「嘘を付くな! すべてアリスから話は聞いたぞ!!」
俺はアリスを見ると、目を逸らされた。まさか!?
「アリス様?」
「……ごめん、全部話しちゃった。てへぺろっ♪」
「誰にも言わないって言ってたのにいいいいぃぃぃ~~~~!! この嘘付きいいいいいぃぃぃ~~~!!」
「ごめんね♪ 大丈夫、責任取ってくれれば良いから。」
「貴様あああぁぁぁぁ~~~~!!」
アリスパパ、激おこだ。と言うか、いつの間にか剣を抜いてる!
「死ねええぇぇぇ~~~!!」
思いっきり切りかかってきたので避ける!
「避けるなぁ!」
「いや、避けなきゃ死ぬじゃん!」
「殺すつもりで切りかかったんだ! だから避けるなああぁぁ~~!!」
「無茶言うなあぁぁ~~!!」」
その後は食事会どころじゃなくなったのは言うまでも無かった。




