171 盗賊?
その後の旅は順調に進んでいった。
次の村で1泊し、その次の野営も無事に済まし、いよいよリルディル領へと入る場所まで来たときに事件が起きた。
「ん?」
どうやら向こうの茂みに隠れていると思われる集団が居るのを発見した。盗賊かな?
ドローンを飛ばして確認してみる。ふむ、それっぽい恰好の集団みたいだし、盗賊で確定かな。
「レリウス止まって!」
御者をしていたレリウスに声を掛けて馬車を止めさせた。
「シュウ君、どうしたんだい?」
「……なるほどな。レリウス、どうやら敵のお出ましみたいだぜ。」
「サムもそう言うのならそうなんだろうね。状況を教えて貰えるかな?」
「ここから500m程先の茂みの両側に10人ずつの計20人が待ち伏せしている。多分だけど盗賊かな。」
「ふむ……その人数だと僕達では無理そうだね。迂回する?」
「いや、向こうも気が付いてると思うぞ。」
サムが言ったとたん、草むらから盗賊の集団が出てきた。
どうやらこっちが停止していることで、見つかったのがバレたため隠れるのを止めたみたいだ。
「どうする? 逃げた方が良いかな?」
「まぁ、向こうもやる気みたいだし、今更逃げるのは無理じゃね?」
「だよね……シュウ君頼めるかな?」
「へいへい。とりあえず前と同じで良いよね。」
俺は馬車を含めた周囲に対し魔力盾を展開する。
そして盗賊が俺たちのところまでやってきた。
「お前たちは盗賊か!」
「そうともさ。残念だったな。お前たちは全員皆殺しだ! やれ!!」
交渉する暇も無く相手が襲い掛かってきた。
ドカッ!
「うぐっ!」
「な、なんだこれ!」
「壁が有る!」
相変わらず理不尽なほどに異常な硬さの壁だよな。
「団……お頭! どうします!?」
今団長って言いかけなかったか? もしかしてこいつら盗賊じゃない?
よくよく見れば動きが統率されている!? しかも武器がそこそこ良い感じのロングソードだし、デザインも統一されているな……ひょっとして!
「レリウス、こいつらアリス様を狙う敵だ!」
「やっぱりそうなんだね。」
「まー領内に入られると色々と面倒になるし、そうなんだろーな。」
バレたことで必死に剣を叩きつけているが、今のところ魔力盾が破られる気配はない。
落ちついて先ほどのお頭……もとい団長を調べてみることにした。
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名前 :ルイス
年齢 :35
種族 :人族
状態 :普通
LV :25
HP :658/658
MP :192/192
STR:112
VIT:38
AGI:70
INT:10
DEX:62
LUK:5
スキル:剣術、盾術、指揮
称号 :リルデイル第五騎士団団長
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うおっ、めちゃくちゃ強いじゃん!! ステータスで3桁の数字を見たのは初めてだぞ!
「あれ? リルデイル第五騎士団……団長!?」
「「えええぇぇ~~~!!」」
「なっ! バレただと!? いや、俺が強くて有名なのがアダとなったか。こうなったら生かして帰すわけにはいかない! お前らこの壁を壊せ!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
いや、あんたのことなんか知らんよ? 正直に言ったら可哀そうだから言わないけどさ。
そしてバレたことで開き直ったらしく、盗賊は辞めて騎士らしい動きとスキルを使い始めたみたいだ。
ドン! バキ! ドカ!
「こ、壊れないぞ! 何なんだこれは!」
何って単なる魔力盾です。まぁ、異常なのは認めるけどね。
「シュウ君、そろそろ楽にしてあげたら良いんじゃないかな。見ていて可哀そうになってきたよ。」
「……そうだね。」
騎士たちは、全力で叩きまくっているせいで息も上がって涙目だった。
「アークシェイク!」
前回同様、魔力盾の外に対して魔法を発動させた。
「し、沈む!?」
「助けてくれ!」
「うわあぁぁ~~!!」
盗賊改め騎士たちは地面に埋まり、首だけの状態になった。
俺は即座に錬金術で土を固めることでミッションクリアー!
バキッ!
と思ってたら、ルイス団長が地面を砕いて這い出してきた。さすがはSTRが3桁だ。
「この程度でやられてたまるか!」
そして再び魔力盾を殴り始めたのだった。どうやら岩程度ではこの人は捕まえられないらしい。
「……これ、どうしよう?」
「「う~ん……」」
その時、馬車の中からアリスが出てきた。
「アリス様、まだ外は危険です。馬車の中でお待ちください。」
「……そうでしょうか?」
ルイス団長以外は埋まっているし、その動けている隊長も魔力盾を破れる雰囲気が無さそうなので、安全と言えば安全なのかもしれない。
「あら? そこに居るのは……ルイス様!? 何故あなたがここに! 迎え……では無さそうですが……」
「チッ!」
アリスに正体がバレたことで舌打ちをしたが、ゴメン俺も知ってた。
とは言ってもこのままにしておく訳にもいかないので、何かしらの対処しなくては……そうだ!
俺は風属性の魔法を習得することにした。
そして、ルイス団長を中心にドーム型に空気の層を作ると、そこから酸素を抜いていった。
「はぁ、はぁ、はぁ、何だ力が入りにくい……まさかもうバテたのか?」
通常、空気中の酸素は20%程だが、ここから5%程減ると、身体に異常が現れるのだ。
徐々に酸素が減っていくならまだしも、一気に減ったためより顕著に異常が出たみたいだ。
「あ、倒れた。」
さらに5%程減らしたら、そのまま気を失ったみたいだ。
良い子のみんな、本当に危険だから真似すんなよな?
俺はドームを解除して通常の酸素濃度に戻した。呼吸は停止していないため、少ししたら元に戻るだろう。
「レリウス、岩で固定してもダメだったからロープで縛ってもダメな気がするけど、どうする?」
「どうしようね。」
「いっそのこと殺すか?」
「だ、駄目です!」
サムが物騒なことを言ったら、アリスが止めた。
「でもよ、前の黒装束の時も結局は殺されたんだろ? こいつらもそうなるんじゃね?」
「「「う~ん……」」」
全員が悩んでしまった。
「と、とりあえず動けないうちになんとかしようよ。」
「シュウ君、何とかならない?」
「何とかと言ってもなぁ……」
岩を力づくで砕く人だよ? どうすんのさ……
ふと、落ちている武器が目に入った。
「そうか、これを使えば良いか。」
俺はロングソードを拾うと、錬金術の変形を使って加工した。
「うわっ、えげつねー」
「だね。」
「シュウ様、それはひどすぎるのでは無いでしょうか?」
「そ、そうかな? でも、このくらいしないと逃げられそうだから。」
何をしたのかと言うと、ロングソードの刃を内側にして首輪ブレスレットを作り、それを数珠つなぎにしたのだ。これで力づくで解こうとしたら、首か手首が落ちる仕組みだ。
もちろんそのまま刃を使ったらマズイので、少しだけ刃を丸くしておいたが、力を入れれば怪我をする程度には鋭くしておいた。まぁ、作る際少し間違ってルイス団長の首を少し切ってしまったのはご愛敬である。




