151 遭遇
馬車はのんびりとは言っても馬にとってはであって、大体時速7~8kmくらいだろうか。人が歩くよりは早く、小走り程度の速度だ。
思ってた以上に道が整備されている御蔭で揺れは少ないのは良いのだが、乗り心地は今一つである。
やっぱりサスペンションやダンパーが搭載されている自動車の様には行かないよな。
作るとしても、スプリングとショックを吸収する油圧か何かの組み合わせが必要ってくらいの知識しか無いから無理だろうけどね。
・・・・
「と、まぁ、こんな感じだね。」
馬車の操作は簡単で、大した説明が必要無いため、あっという間に終わってしまった。
「何だ、全然簡単じゃんか。その程度なら直ぐにできそうだ。貸してみろよ。」
「良いけど、次の休憩の後はサムが御者をするんだよ?」
「良いから貸せよ。」
「はいはい。」
まぁ、楽できるから良いか。俺は手綱をサムへと渡した。
「よし、見てろ! はっ!」
パシン!
「あっ!」
手綱で叩かれた馬は走り出した。
「サム、ダメだって!」
「大丈夫大丈夫。」
だが、案の定というか何と言うか、ある程度整備されているとは言えデコボコ道なので、馬車は激しく揺れていた。
「きゃあ!」
「な、何だ?」
馬車の中からアリスの悲鳴が聞こえたのを聞いたサムは慌てて減速し、手綱を俺へと渡した。
その時、御者席のすぐ後ろの小窓が開いた。
「シュウ君! 危ないじゃないか。」
「俺じゃ無くてサムが!」
「サム? 手綱を持ってるのはシュウ君だよね?」
「今渡されたんだよ。」
「……サム?」
「わ、悪かったよ。」
流石に長年連れ添っているだけ有って、サムの誤魔化しはレリウスに通用しないみたいだ。
「ご令嬢が乗っているんだから、安全で頼むよ。」
「へいへい。」
再び俺達は街道を進むことにした。もちろん御者は俺だ。
しばらく何も無い暇な時間が流れている……
「なぁ。」
「何?」
「シュウって孤児なんだよな?」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「いや、孤児らしくねーなと思ってさ。」
「そう? 逆に聞くけど、孤児らしいってどんな感じ?」
「俺のイメージだと、暗くて、やせ細っていて、いつも腹を空かせてる感じなんだよな。」
「う~ん。俺の居る孤児院にはそんな子居ないけどなぁ~」
「そう言えばそうだったな。そう考えると、あそこの孤児院が特別なのかもしれねーな。」
そーいや、俺が冒険者になってから、それなりの大金を納めたり、毎日肉を持ち帰ったりしてたっけ。
言われてみれば、あの時期から食事の内容がマシになった様な気がするな。うん、もしかしたら俺のせいなのかもしれない。
そりゃあ、俺が居なくなった後を孤児院長が孤児院の将来を心配するのも分かる気がするわ(汗)
もうすぐ前に野営した場所まで来たところで、森の中に1つの反応を見つけた。反応が1つと言うことははぐれゴブリンかな?
木々が邪魔で狙撃では確認出来ないため、ドローンを飛ばすことにした。
上空から確認してみると、皮の鎧を着ていて狩人の様な恰好をした人だった。狩りでもしているのかな?
俺の何かを調べている様な行動が気になったのが、サムが聞いて来た。
「何か有ったのか?」
「えっと、森の中に人が居たんだけど、弓を持ってるみたいだし、多分狩人かな?」
「なんだ。」
それを聞いたサムは興味を失ったみたいだ。俺も見ていても仕方が無いし、ドローンを解除しようとしたら狩人に動きが有った。
慌てて矢を番えると同時に矢を放つと、街道と言うか、俺達の方へと逃げる様に走り出した。
「何か有ったみたいだ。こっちに向かってくる!」
「何!」
その時、俺の感知範囲に新たに反応が現れ、例の狩人へと移動していた。
俺はドローンを移動させてその反応を確認する。あれは!
「サム! レリウス! オークがこっちに来るぞ! どうする?」
「1匹だけなら、僕達3人で戦えば何とか行けるかな? 何匹なの?」
「多分、1匹だけみたいだけど鎧も着ているし、多分上位固体だと思う。」
「はぁ? そんなの無理だろ!」
「シュウ君、逃げないと!」
「げっ! 俺の索敵範囲にも反応したぜ。確かに真っすぐこっちに向かって来てるな。」
その時、追いかけられている狩人の反応が消えたが、俺達を見つけているのか、オークはそのままこちらへと来るみたいだ。
「狩人がやられたみたいだ。オークもこっちに来るぞ!」
「と、とにかく急いで此処を離れるんだ!」
「う、うん!」
俺は手綱を操作して馬を走らせた。
パシン!
乗り心地は最低だが、贅沢を言ってる余裕はない。馬は頑張って全力で走ってくれた御蔭で、オークとの距離が徐々に離れて行った。
「いいぞ!」
このまま逃げ切れると思ったのだが、突然ガクンと馬の速度が落ちた。
「何が有った?」
よくよく馬を見てみると、涎を垂れ流して苦しそうにしていた。もともと長距離での移動で疲れてきていた所に全力疾走させたら、そりゃ辛いよな。
速度が落ちたことで、折角離したオークとの距離が縮まって来た。
「追いつかれる!」
「殺るしかねぇな!」
「こうなったら覚悟を決めるしかないね。シュウ君、馬車を止めてくれ。」
馬車を停止させると、俺達は馬車を飛び降りてオークを待ち構えることにした。
残り100mまで近づいて来たところで、ようやく鎧オークの姿が確認できた。俺は即座にオート射撃で先制攻撃を仕掛けた。
ガイン!
「なっ!」
真っすぐ飛んで行った俺の攻撃は、鎧オークの盾に防がれてしまった。あんな盾、前は持っていなかったのに……まさか!?
あの盾には何となく見覚えが有った。多分だけど最後まで残っていた盾役の人が持っていた盾だろう。殺したついでに奪いやがったな!
俺の攻撃で多少勢いは減ったみたいだが、ダメージは期待出来なそうだ。
「ここは僕が前に出るから、サムとシュウ君は隙をついて攻撃してくれ!」
「「おう!」」
レリウスが前に出て鎧オークに向かって盾を構える。サムは右へ、俺は左へと移動しつつ、弓と魔法で攻撃をしかけるが、どちらの攻撃も鎧と盾に防がれてしまった。くそっ堅いな!
そしてレリウスと鎧オークがぶつかった。
「うわああぁぁ~~!」
鎧オークの強烈な一撃をレリウスは盾で防いだにも係わらず、そのまま3m程吹っ飛ばされた。なんちゅー力だ!
そう言えば討伐隊の大人の人でも吹っ飛ばされてたっけ。そりゃあ、大人でもアレってことは、まだ成長段階のレリウスの体重じゃ耐えられる訳が無い。納得の結果だ。
そして鎧オークは倒れたレリウスへと向かう。マズイ!!
「レリウス!」
「くそっ! やらせるかよ!!」
アイスアローと矢程度じゃ鎧オークには足止めにもならない! このままじゃレリウスが危ない!!
鎧オークが武器を振り上げてレリウスを攻撃する!
カッ!
その時、レリウスと鎧オークの間で真っ白な光が溢れた。これはあの時のライトの魔法!?
俺は鎧オークの背後の位置に居たたため、ちょうど鎧オークの背中に隠れていて、その光を直視しなかったのは幸いだった。
「ウガアァァ~~!!」
「目が、目があぁぁ~~!!」
サムと鎧オークが強い光を直視したため、目を抑えて叫び声をあげている。
レリウスは発動タイミングに目をつぶったらしく、視力に問題無いみたいでその場を離れていた。これはチャンスだ!
「アークシェイク!」
俺が魔法を発動させると、オークは地面へと沈み始めた。
「ウガァ!」
抜け出すために手をバタバタとさせているが、逆にそれが仇となって、もがけばもがくほど底なし沼の様にズブズブと沈んでいく。
鎧オークは体を抜け出すことに必死になったため、隙だらけだ。
「アイスアロー!!」
俺は鎧オークの顔面目掛けて特大のアイスアローをお見舞いした。
狙撃手の効果も有ったのか、見事アイスアローは鎧オークの顔面を貫いた。
「やったか!」
思わず叫んでしまったが、フラグは……まぁ、立たないよな。どう見ても即死だし(汗)
「レリウス! 大丈夫か! くそっ、目が見えねぇ!」
「サム、僕は大丈夫だよ。」
「オークはどうなったんだ?」
「シュウ君が倒してくれたよ。」
「そ、そうか。良かった……」
それを聞いて安心したのか、サムはその場に座り込んでしまった。
「サム、有難う。君の御蔭で助かったよ。」
「ケッ!」
レリウスがお礼を言うと、サムはそっぽを向いていたが、耳が真っ赤になっていたから照れているのだろう。
「ようやく何とか見えるようになったぜ……それにしても、あの光は何だったんだ?」
「この前の野営の時に、シュウ君が使った魔法だね。咄嗟に思い出して全魔力で使ってみたけど、どうやら上手くいったみたいだね。」
「そんな魔法が有ったのかよ、それなら使う前に言って欲しかったぜ。」
「ごめんごめん。次からは言うようにするよ。」
「頼んだぜ。」
「うん。」
こうして俺達は、無事に鎧オークを倒すことが出来たのだった。




