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148 馬車


「ではアリス様、明日から宜しくお願いします。」


「はい。お願いしますね。」



俺達はアリスと別れて冒険者ギルドを後にした。



「それじゃあ、帰って旅の準備をしないとね。」


「ねぇ、リーガンの街の街までってどのくらいかかるの?」


「う~ん。僕も行ったことは無いから正確な日数とかは分からないけど、多分帝都に行った時と同じくらいじゃないかな。」


「なるほど。そうすると何回かは野営が必要と。……あれ? 俺達って移動は馬車? それとも徒歩?」


「伯爵令嬢様を歩かせる訳には行かねーだろうし、ギルドで馬車を用意してくれるんじゃねーのか。」


「う~ん。一応確認した方が良いかもしれないね。」



俺達はUターンして確認することにした。

丁度イザベルさんが戻って来たところだったので、そのままレリウスが質問してみることにした。



「すいません。聞き忘れたのが有ったのですが、良いでしょうか?」


「はい。どうぞ。」


「アリス様の移動手段って馬車になるのですか?」


「いいえ、馬車は用意していません。」


「えっと、徒歩で行くのでしょうか?」


「それを決めるのはあなた達ですよ。例え馬車を使ったとしても、そのお金も支払って頂けるとのことですしね。」


「なるほど、わかりました。」


「他に聞きたいことは?」


「馬車でリーガンの街までは何日くらいかかるのでしょうか?」


「そうですねぇ~ 途中で野営が3回ほど必要になりますから、順調に行ったとして8日でしょうか。」


「わかりました。質問は以上です。」


「色々と大変かもしれませんが、これも経験だと思って頑張ってください。」


「はい。」



俺も他に聞くことも無いため、その場を後にした。



「とりあえず聞くことは聞けたかな?」


「そうだね。」


「って言うと、何を用意すれば良いんだ?」


「まずは野営時にアリス様が安心して休んでもらうためにも馬車は必要だね。後は野営時の食料や飲み物、毛布や食器類だね。」


「それじゃ、手分けして用意するのか?」


「その方が早いよね。」


「こっちもそれで構わないよ。」


「じゃあ、野営に必要な道具関係はサムにお願いするよ。僕は食料と水を買いに行くから、シュウ君は馬車をお願いしても良いかな?」


「任せろ。」


「うん。それで構わないんだけど、馬車の運転ってやったことが無いんだよね。大丈夫かな?」


「それほど難しいものじゃないし、多分借りる所で教えてくれると思うから大丈夫だと思うよ。」


「ん、了解。」


「じゃあ、ここで別れて各々に行動しよう。」


「「おう。」」



さて、俺も馬車を借りに……馬車って何処で借りるんだ? こういう時は、困った時のイザベルさんだな。



「次の方どうぞ……って、シュウ君じゃない。どうしたの?」


「何度もすいません。馬車って何処で借りるのでしょうか?」


「そう来ると思ってたから用意しておいたわよ。はい。」



イザベルさんがそう言うと、地図を渡してくれた。



「あ、ありがとうございます。」


「いえいえ。また何か聞きたかったらいらっしゃいね。」


「はい。」



どうやら俺達の誰かが聞きに来るのは予想済みだったらしい。流石はイザベルさんだ。でも、分かっていたのなら事前に教えてくれてても良かったのにな。もしかして聞かないとダメなのか? 何となくそんな気がするな。

何はともあれ、場所が分かったことだし、さっさと借りに行くとしますかね。


地図に書かれていた場所は、街の外れの牧場みたいな場所だった。

馬が何匹か放牧されているので、恐らくあれが馬車を引く馬なのだろう。

とりあえずあそこにある建物へ行ってみることにした。



「いらっしゃい。」



中に入るとカウンターが有り、男性が立っていた。



「あの、ここで馬車を借りられると聞いたのですが。」


「もちろん貸しているぞ。どんな馬車が必要なんだ?」


「えっと、主な目的は人を運ぶのですが、途中で野営もする必要が有るので、馬車の中で寝れるタイプの物が有れば良いのですが。」


「それだったら2人乗りと4人乗りのが有るが、どっちが良いんだ?」


「いちど見せて貰ってからでも良いですか?」


「いいぞ。裏の車庫に有るから行ってみるか。」


「お願いします。」



案内された場所には、色んな馬車が置いてあった。

屋根も何も無い単なる荷運び様から幌馬車、貴族様が使う様な箱型の馬車まで色々だ。



「2人乗はこいつだな。」



紹介された馬車は、一応屋根は付いているが左右の壁は無く、観光地に有る様な人力車の様な形だった。

一応御者用の席も有るので、頑張れば4人は乗れそうだが、周りの壁が無いため、雨は防げるとしても野営で寝るのにはちょっと向かなそうだ。



「これだとちょっと長旅では辛そうなので、違うのを見せて貰っても良いですか?」


「なんだ。長距離ならそう言ってくれれば良かったのに。だったらコイツだな。」



あれ? 野営するって言ったよね? 良いけどさ……

そして男性が次に紹介してくれたのは、最初に貴族様が使いそうだと思っていた箱型の馬車だった。



「中を見せて貰っても?」


「かまわんぞ。」



馬車の中は電車のボックス席みたいな作りで、前に2人、後ろ2人が向き合う感じで座る感じの作りだった。



「こいつには、ちょっとした機能が付いていてな。これをこうすると……どうだ?」



ふくらはぎが当たる部分が持ちあがる仕組みになっていて、前と後ろどちらも持ち上げると足が出て固定出来た。そうすることで椅子全体がフラットになる構造だった。

背もたれの部分とかで多少ボコボコしてはいるが、ベッドとして利用するには問題無さそうだ。



「良いですね。コレは幾らになるんですか?」


「大銀貨3枚って所だな。」


「高く無いですか?」


「まぁよく聞け。一応こういった馬車は貸したら帰ってこない可能性が有るんだ。だから一度売ることにしているんだ。

 もし、またココに売りに来てくれるのなら状態にもよるが、最高で大銀貨2枚と銀貨7枚で買い取ってやろう。」


「なるほどね。」



一応1割の使用料で買い戻してくれるみたいだ。

まぁ、おそらく1割引きの値段では買い取ってくれないとは思うけどね。



「ちなみに馬は?」


「馬は1頭銀貨5枚だな。こっちも状態にもよるが返却時に銀貨4枚と大銅貨5枚が帰って来るが、ここと同じ様な場所ならどこでも同じ値段で買い取ってくれるぞ。

 長期滞在する場合は、エサ代も掛かるし、一度売ってしまうってのも手だな。」


「だったら、馬車もそこに売っても良いんですよね?」


「別に構わないが、買取値段は単なる中古扱いになるから、ここで売るよりはずいぶんと安くなってしまうと思うぞ?」


「なるほど。」



おそらく返却されるのを前提に貸し出したいのだろう。

売ったら売ったで儲けは出るが、戻ってきて繰り返し使用する方が儲けが大きいから、出来るだけ戻ってくるように高めで買い取るのだろう。



「馬は1頭で足りますか?」


「2頭にした方が引く力が強くなる分早く移動は出来るぞ。もちろんエサ代は2倍になるがな。」


「だったらこの馬車と馬2頭を買いたいと思います。」


「紹介した自分が言うのも何だが、その、お代の方は大丈夫なのか?」



そりゃあお客様とは言え、7歳の子供が来たんだから心配にもなるよな。

移動に関する料金はアリス持ちだと言う話だからな。手持ちに余裕が有るならば、ケチる必要も無いだろう。



「大丈夫です。」


「なら準備させるから待っててくれ。」


「あ、出発は明日なので、明日の朝に用意してもらうでも良いですか?」


「そうか? なら、明日の朝までに準備しておこう。」


「あの、実は馬車を操作したことが無いので、出来れば教えて頂きたいのですが。」


「そうだなぁ……それほど複雑でも難しい物でも無いし、今から馬車に取り付けるのもなぁ……明日の朝にちょっとした説明でも問題無いし、それでも構わないか?」


「わかりました。」


「よし、じゃあ契約しちゃうからカウンターに来てくれ。」


「はい。」



俺はカウンターに戻って手続きをすることにした。



「馬車が大銀貨3枚と、馬2頭で大銀貨1枚だ。全部で大銀貨4枚だな。馬のエサ代はおまけしてやろう。」


「ありがとうございます。」



俺は大銀貨4枚を取り出すと、支払った。



「本当に支払えるとは……」



買えなきゃ最初から買うとは言わないと思うんだが、どうして驚くんだろうか。



「よし、これで契約成立だな。そして、こいつが証明書だ。

 これが無ければここで売っても単なる中古での買取になるか気を付けてな。」


「はい。」



渡された紙を受け取り、中身を確認する。

馬車の形状、損傷等の状態と値段が書かれていた。

なるほど、買い取る際の判断に使われるんだな。



「じゃあ、また明日の朝に来ますね。」


「おう、待ってるぞ。」



用事が済んだので、この場を後にすることにした。


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