147 指名依頼を受けました
次の日になり、俺は冒険者ギルドへとやってきた。
レリウス達は……いた。どうやら依頼掲示板を確認しているみたいだ。
とりあえず声を掛けることにした。
「レリウス、サム、おはよう。」
「おはよう。」
「おう。」
「何か良い依頼でも有った?」
「いや、昨日と同じで碌な依頼しかねーな。」
「どうやらまだ制限が掛かっているみたいなんだよ。」
「そうなんだ。」
まぁ、オーク討伐の依頼が失敗したからな。しばらくは街の外の依頼は解除されないのかもしれない。
「仕事がねーならどうするんだ?」
「しばらくは大丈夫だけど、何日も続いたらGランクの依頼でも受けなきゃ駄目かもしれないね。」
「そうだな。」
「あ、あの。」
「シュウ君どうしたんだい?」
「実は、指名依頼を受けることになってしまって、レリウスとサムも一緒なんだけど、良いかな?」
「へっ? 僕達に指名依頼?」
「マジかよ! すげえじゃん!」
「と、とりあえずイザベルさんに話を聞きに行きたいんだけど、良いかな?」
「もちろんだよ。」
「へへっ、楽しみだぜ!」
とりあえず了解が得られたので、受付カウンターへと向かうことにした。
「次の方どうぞ。」
「シュウ君に聞いたのですが、指名依頼の件で来ました。」
「待ってたわよ。ここでは説明は出来ないので、奥の部屋に行ってください。」
「わかりました。」
俺達は奥の会議室へと移動することとなった。
会議室へと入り、席について待つと、イザベルさんがアリスを連れてやってきた。
「うぉ! めちゃくちゃ可愛い子じゃん!」
「そうだね!」
アリスを見たレリウスとサムは、テンションが上がったみたいだ。
確かにアリスは可愛い。気持ちはよく分る。でも、生霊の時の性格からすると、根本的な中身はポンコツかもしれない。それはそれで良いんだけどね。
「お待たせしました。それでは指名依頼について説明しますね。」
「えっと、そちらの女性は?」
「はじめまして。アリス=リルディルと申します。リルディル伯爵の娘になります。」
「えっ? き、貴族様……ですか?」
「マジかよ。」
「はい。」
「それで、アリス様は何で僕た…いや、私達に指名依頼を?」
「それは、あなた達がシュウ様のお仲間だからですわね。」
「お、おい、シュウ。どう言うことだよ。」
「えっと、たまたまアリス…様を発見したのが切っ掛けで、その……」
「発見って、何だよそれ!」
「眠らされて埋められてたんだ。多分だけど、お家騒動か派閥争い?」
「それって、どう見ても厄介ごとじゃねーかよ!」
「そうとも言うかも?」
「……お前なぁ~」
サムがため息をついているが、その気持ちはよく分る。
「シュウ君。私もそんな話だってことを聞いて無いんだけど?」
「・・・・」
イザベルさんもごめんなさい。だからそんな目で俺を見ないで下さい。お願いします。
「と、とりあえず話を聞いてからにしないか? 多分だけど、シュウ君も悪気が有った訳じゃなくて、成り行きでそうなったんじゃないかな?
それに、貴族様の依頼だし断るにも断れなかったんじゃないかな。」
「レリウス……チッ! しゃーねぇな!」
「2人共ごめん。」
「大丈夫だよ。」
「貸し1つだかんな。」
「うっ……分かったよ。」
とりあえずこちらの状況も理解してくれて、話を聞いてくれるみたいだ。
「みなさん、ありがとうございます。
決してご迷惑はお掛けしませんので大丈夫です。」
「それで、私達は何をすれば良いのですか?」
「私を、リルディル領にあるリーガンの街まで連れて行って欲しいのです。」
「リーガンの街と言ったら、確かここから5つほど先の街の名前ですよね?」
「はい。」
「5つ? あれ? 昨日の話だと3つ先じゃなかったっけ?」
「3つ先だと、リルディル領に入るだけですね。」
イザベルさんが補足説明してくれた。
「マジか……」
往復で6日かと思ったら、それ以上だった。いや、3日は俺が勝手に思ってただけで、実際はもっと日数がかかるのかもしれないけどね。
まぁ、何だかんだ言っても、断る権限は無いんだけどな。
「状況は分かりましたが、一つ質問良いでしょうか?」
「はい、どうぞ。」
「あっ、これはどちらかと言うと冒険者ギルドに聞きたいのですが、リルディル領と言うと、ガルスの街の方へ向かうのですよね?
例のオーク討伐は済んだのでしょうか?」
「はい。一応ですが終了しております。」
えっ? あの鎧オークって倒されたの? いつの間に……
「一応って何か有ったのですか?」
「オークの村は壊滅させることが出来たのですが、1匹だけ取り逃がしてしまったとのことです。後、冒険者の方にも1名の死傷者が出てしまいました。」
倒されてないのに大丈夫なのかな? アレに出会ったら危険だぞ?
「そうですか。亡くなってしまった方が出たのは残念です。それで、その取り逃がした1匹の方はどうなったんですか?」
「索敵能力を持ったスカウトに調べて貰ったところ、街道沿いには居なかったとのことです。
おそらく仲間がやられたことで森の奥へ逃げたと判断したため、規制の解除を行うことにしました。」
「わかりました。そう言った理由でしたら、その依頼受けさせて頂きます。」
レリウスがそう言うと、アリスに対して頭を下げたので、俺とサムも慌てて頭を下げた。
「宜しくお願いしますね。」
アリスはニッコリと伯爵令嬢の如く微笑んだ。
レリウスとサムはそれを見て頬を染めたが、俺はしてやったりの笑顔にしか見えなかった。まあ良いけどね。
「では、依頼を受けると言うことで、手続きをするので全員のギルドカードを出して下さい。」
「「「はい。」」」
俺達がギルドカードを出すと、イザベルさんはそれを持って部屋を出て行った。
「これでシュウ様と一緒に行けますね。」
「そうでございますね。
アリス様、精一杯頑張りますので、宜しくお願いします。」
俺がそう答えると、アリスは頬を膨らませた。これは……ハムスターみたいで可愛いかも。
多分だけど、俺の言葉遣いが気に食わないのだろう。
「シュウ様は意地悪です。」
「何でそうなる! あっ!」
俺がそう言うと、アリスはニッコリと微笑んだ。くそっ! こっちも可愛いな。でも2人で居る時以外は勘弁して欲しい。
そこにイザベルさんが戻って来た。
「はい。手続きが完了したわよ。」
そう言ってギルドカードを返してくれた。
「では、出発は明日の朝7時に冒険者ギルド前になりますので、それまでに集合して下さい。
依頼内容は先ほども言いましたが、アリス様の護衛で、領都リーガンのリルディル伯爵様の御屋敷まで連れて行くこと。
何か質問は有るかしら?」
「護衛に対する食事や宿泊等はどうなるんですか?」
「申し訳ないけど、アリス様は、現在訳有って手持ちが無いとのことです。
なので、移動に関するお金は後で依頼料に上乗せで支払って頂ける話になっているから、悪いけれど立て替えておいてね。」
「立て替えですか? 僕達もそれほどお金に余裕が無いのですが……」
「俺も持ってねーな。」
「冒険者ギルドで借りることは可能ですか?」
「はい。ですが、返却時に借りた金額の1割を追加で返却する必要が有ります。」
「そうなんですか?」
「マジかよ……」
どうやら世の中そんなに甘くは無いらしい。しかたないか。
「でしたら俺が立て替えておきます。」
「だったら僕も出すよ。」
「仕方ねーな。俺も出すぜ。」
「いえ、割り勘にすると精算時に分かりにくくなりそうなので、とりあえず俺が出しておきます。
もし、金銭的に余裕が無くなった時は、その時はお願いします。」
「わかったよ。」
「シュウ様、宜しくお願いしますね。」
「お任せください。」
まぁ、よっぽどのことが無ければ足りなくなることは無いだろう。
「では、本日は冒険者ギルドのご利用ありがとうございました。私、イザベルが対応させて頂きました。
またのご利用をお待ちしております。」
こうしてアリスの護衛になることが正式に決定したのだった。




