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145 指名依頼


お腹も満足したことだし、冒険者ギルドへ向かうことにした。



「着いたぞ。」


「ここが冒険者ギルド……」


「あそこに受付カウンターが有るから、そこにいる女性に言えば依頼を受けてくれるハズだ。じゃあな。」


「待ってください! 手続きも良く分らないので、最後まで付き合ってくれても良いんじゃないですか?」


「受付で聞いたら教えてくれるから大丈夫だ。」


「お願いします!」


「……仕方ないな。」


「ありがとうございます!」



まぁ、基本任せっきりになるだろうし、俺は行くだけで済むだろう。ここまで連れて来た責任も有るし、最後まで付き合うことにした。



「次の方どうぞ~ってシュウ君じゃない。どうしたの?」


「この子の話を聞いて欲しいんだけど。」


「えっと、そちらの方は?」


「私はアリス=リルディルと申します。リルディル伯爵の娘ですわ。」


「えっ? 貴族様!? 何でシュウ君がそんな方と一緒に居るの!?」


「色々と深い理由が有るんだよ。」


「そ、そうなんだ。えっと、アリス様でしたよね。当冒険者ギルドにどういった御用なのでしょうか?」


「訳有って、今は手持ちが有りません。後払いと言う形で依頼を出すことは可能でしょうか?」


「何か身分を証明する物はお持ちでしょうか?」


「持ってないです。」


「そうすると代わりに価値のある物が必要になるのですが……」



アリスは、胸元に有るペンダントを手に取ると、イザベルさんへ見せた。



「これをお渡しすることは出来ないのですが、これを仮の依頼料として、屋敷に戻った時に金品と交換するってのは可能でしょうか?」


「拝見させていただきます。」



イザベルさんはペンダントを手に取ると、確認した。



「この中央の石はサファイヤみたいですので、宝石としての価値が有るため依頼料の替わりとして受けることは出来ます。

 後は依頼を受けて頂く冒険者が、交換に納得してくれるかですが……もしかすると吹っ掛けられる可能性も有るかもしれません。」


「大丈夫です。」



アリスが自信満々にそう答えた。まぁ、アリスがそう言うなら大丈夫なのだろう。



「分かりました。では、どういった依頼を出すのか教えていたけないでしょうか?」


「はい。私をリルディル伯爵領の御屋敷まで連れて行って欲しいのです。」


「それは……今すぐには難しいかもしれません。」


「どうしてでしょうか?」


「まず、リルディル伯爵領となりますと、ここから3つ先の街になりますので、Dランク以上の依頼となります。

 今、Dランク以上の冒険者は、オーク討伐の緊急依頼でほぼ全員が出払っている状態なのです。

 何人かは残っていますが、街の安全を考えると受けさせる訳には行きません。」


「そうですか。」


「オーク討伐が終了した後ならば、お受けすることが出来ますが、それで宜しいでしょうか?」


「一つ確認ですが、宜しいでしょうか?」


「はい。何なりと。」


「その依頼はEランクでは駄目なのでしょうか?」


「申し訳ありませんが、Eランクの護衛依頼は、隣町までしか受けることは出来ない決まりとなっております。」


「それでは、指名依頼でしたら?」


「指名依頼ですか? 確かに指名依頼でしたら、その冒険者が実力的に問題無いと冒険者ギルドで判断したのであれば、特例で許可が出せる可能性は有りますね。」


「それでしたら、私は、シュウ様を指名したいと思います。」


「はぁ? 何で俺が!」


「確かにシュウ君はアラン達と一緒とは言え、王都までの依頼を完了したし、今回のオークの調査でも予想以上の成果を出しました。

 それに、狩りでウルフを余裕で狩れる実力も有るし、何よりシュウ君だし?」



何やらイザベルさんがブツブツと言っているのだが、嫌な予感しかしないんだけど……



「分かりました。シュウ君のパーティなら依頼を受けても大丈夫でしょう。」


「ありがとうございます。」


「ちょっと待った! 俺は受けるとは一言も言って無いぞ!」


「シュウ君、ちょっとちょっと。」



イザベルさんがこっちへ来いと手招きをしている。

とりあえず言われたとおりに向かうと、耳元で内緒話をされた。



「あのね、貴族様が指名依頼を出した場合、その冒険者の実力に問題無いと判断された場合は依頼を受けなければならないのよ。」


「断った場合は?」


「よっぽどの理由が有るなら別だけど、そうでなければ冒険者ギルドからの除名となるわね。」


「よっぽどの理由? なら俺、まだ7歳なんだけど? これってよっぽどの理由にはならないの?」


「あっ! ……で、でも、シュウ君は、中堅の冒険者以上の実力が有るし、問題無いわ。」


「今、『あっ!』って言いましたよね? と言うことは、それってよっぽどの理由になるってことですよね?」



俺はジト目でイザベルさんを睨んだのだが、イザベルさんは明後日の方向を見てこっちを見てくれなかった。



「ほ、ほら、シュウ君はしっかりしていて7歳っぽくないと言うか、何と言うか、十分に実力者冒険者だしね!」


「だいたい、アリスが本当にリルディル伯爵令嬢なのかも不明ですよね? 貴族様の依頼じゃ無かったらどうするんですか?」



まぁ、鑑定で分かってはいるから間違いないとは思うが……言わないけどね。




「それは大丈夫よ。もし貴族だと偽っていたのなら、打ち首か、犯罪奴隷に落とされるから。嘘はつかないでしょ。」


「もし偽物だとしたら、俺の依頼料ってどうなるんですか?」


「その時は、ペンダントが依頼料になりますよ。」


「はぁ……分かりましたよ。受ければ良いんでしょ、受ければ。」


「さすが、シュウ君♪」


「ありがとうございます。」


「でも、レリウスとサムとも相談しなくちゃいけないし、旅の準備も有るから、出発は明後日以降になるけど、それは構わないよね?」


「はい。では、明日は依頼の詳細を説明させて頂きまして、出発を明後日とします。アリス様、それで宜しいでしょうか?」


「はい、問題有りません。ですが、それまで私はどうすれば宜しいでしょうか?」


「当ギルドに、職員用の休憩室が有りますので、そちらで宜しければご利用できますし、食事も用意いたします。」


「職員用の休憩所ですか……」



アリスが何かを期待する様な目でこっちを向いた。何を言いたいのか分かったので注意しておくことにした。



「言っておくが、俺は孤児院に住まわせて貰っている立場だから無理だぞ? と言うか、そもそも孤児院なんて場所は、貴族のお嬢様が泊まるような場所じゃないからな。」


「そうですか。残念です。」



とは言ったけど、昔、某国の姫様が住んでいたけどな。言わないけど。



「ではシュウ君は、明日の朝にパーティで受付カウンターまで来てください。

 アリス様はこのまま残っていてください。お部屋へと案内させて頂きます。」


「「はい。」」


「本日は冒険者ギルドのご利用ありがとうございました。私、イザベルが対応させて頂きました。

 またのご利用をお待ちしております。」



用事が終わったので、俺は冒険者ギルドを後にした。

少々面倒なことになってしまったが、仕方ないか。


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― 新着の感想 ―
[一言] いや、いくらなんでもギルド職員、トチ狂い過ぎじゃ? 7歳児に護衛としての責任を求めているって、ある意味気が狂ったと思われてもおかしくないレベルで非常識。 異世界においてもそう、なんですよね?…
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