143 今後の対応
「私が通っている学園が長期のお休みに入ったので、私の父が治めている領の実家へと帰る途中でした。」
「ふむふむ。」
「リーデルの街の官僚の御屋敷で宿泊させて頂き、次の街へ移動する最中で、私の側使いのメイドのロゼッタが、その指輪を付ける様にと私に渡してきたのです。後はシュウ様のご存じの通りだと思います。」
「なるほど。」
おそらくだが、そのロゼッタと言うメイドは、他の貴族の間者か何かで、リルディル伯爵様の敵対者から依頼されたのだろう。
間違い無く厄介ごとの予感しかしないな。
「それは大変でしたね。とりあえず無事に体が見つかったことですし、これで依頼は完了ですね。
それでは、私はこの辺で失礼致します。」
俺は逃げる様にその場を……
「待ってください!」
「ぐぇっ!」
思いっきり首の後ろの襟の部分を掴まれてしまい、首が締まった。前にも似た様なことが有ったような……
何はともあれ、どうやら逃げることは出来ないみたいだ。
「な、何でしょうか?」
「お願いです。私を安全な場所まで連れて行っては貰えないでしょうか?」
「安全な場所って、リーデルの街まででしょうか? それならば、私の後を着いてきていただければ直ぐですよ。」
「いえ、……出来ればリルディル伯爵領の屋敷までお願いしたいのです。」
「えっと、私はリルディル伯爵領が何処にあるのかさえ分からないのですが……」
「リルディル伯爵領は、ここから街を3つほど経由した先になります。」
「そうすると、街の間がどのくらい有るのか知りませんが、少なく見ても片道3日以上はかかりますよね?
それに見て分かる通り、私はまだ子供ですよ? アリス様を連れて行くのに無理が有りませんか?」
「いえ、シュウ様でしたら問題無いと思っております。」
「いや、だからね。……ええい! 面倒だ!!
俺、まだ見た目通りでまだ7歳で子供なの! 1人でアリス様を連れてそんな距離を連れて行ける訳無いじゃん。常識的に考えても分かるでしょ?」
「でも……」
「でもじゃない。連れて行って欲しいなら冒険者ギルドで護衛依頼でも出せばいいじゃん。
きっとどこかの冒険者が受けてくれるよ。」
「シュウ様も冒険者ですよね? だったら!」
「俺、Eランクだから隣街までの依頼しか受けられないの! だから無理!」
「Eランク……分かりました。」
「分かってくれたか。」
「はい。」
分かってくれたんだよな? 何となく怪しい感じがするんだが……
それにしてもアリスって、何となく予想でしか無いけど、貴族の皮を脱いだら生霊の時の性格になる気がするな。
そう考えると、ある意味貴族って種族は、窮屈で可哀相な生き物なのかもしれない……少しくらいは優しくしてあげても良いのかもしれないな。
一応言いたいこと言って落ち着いたことだし、今更かもしれないが不敬罪も怖いし、元の言葉遣いに戻すことにしよう。
「アリス様。とりあえず冒険者ギルドまで御案内しますので、ついて来て頂いて宜しいでしょうか?」
「・・・・」
「アリス様?」
「……です。」
「えっ? 今何と?」
「先ほどの話し方の方が良いです!」
「いや、あれは……さすがに、ちょっと……」
「今の私は唯のアリスです。だから2人だけの時だけで良いので、先ほどの話し方にして貰えませんか?」
まぁ、少しの間だし、構わないか。
「あーうん、分かった。じゃあ行くからついて来い!」
「はい!」
色々と有ったが、俺達は冒険者ギルドへと向かうことにした。
「っと、その前に、その足を何とかしなくちゃな。」
アリスは裸足だから、森や街中を歩くには辛いだろうし、何かを踏みつけて怪我をさせてしまうかもしれない。
俺はその辺に落ちている丸太を変形させて木靴を作った。後は、ボロ布を緩衝材として内側に貼り付けたら完成だ。
「無いよりはマシだろうから、これを履いてくれ。」
「えっと、あっという間に作っちゃった? 凄い……」
アリスは驚きつつも、裸足は危険だと判断してくれたので、素直に木靴を履いてくれた。
「どうだ?」
「堅い靴は、履きなれて無いので少し歩きにくいですが、大丈夫みたいです。」
「そうか。じゃあ行くぞ。」
「はい。」
俺達は街に向かって歩き出した。
2時間程歩き、街の入り口までやってきたところで、ふと気が付いた。
「なぁ、アリスって身分を証明する物って有るのか?」
「いえ、持って無いです。」
「なら入街税が必要になるな。銅貨3枚は?」
「お金自体を持ったことが無いです。」
そりゃあお嬢様がお金を持って買い物ってのは有り得ないか。ごもっともです。
「仕方がない。俺が立て替えといてやるよ。」
「ありがとうございます。」
俺はギルドカードを門番に見せながら話しかけることにした。
「この子、事故で持ち物と一緒に身分証を無くしたみたいなんだ。」
俺が門番に説明すると、門番はアリスを一目見て何となく把握してくれたみたいだ。
「それは大変な目に有ったみたいだな。一応決まりで、街に入るには確認しなくちゃいけないんだ。詰所まで来て貰えるかな?」
「分かりました。ほらアリス、行くぞ。」
「あ、は、はい。」
俺達は詰所へと行くと、前にも見た水晶が置いてあった。
「嬢ちゃん。この水晶に手を乗せてくれ。」
「あ、えっと。」
「大丈夫だ。これは犯罪歴を調べるだけだから。」
「は、はい。」
アリスが恐る恐る水晶へと手を伸ばして乗せる。まさかとは思うが、犯罪を犯していないよな? 貴族だし、もしかしたら!?
そんな俺の心配を余所に、水晶は青く光るのだった。ふぃ~
「犯罪歴は無しと。では入街税で銅貨3枚だ。」
「はい。これでお願いします。」
俺は銅貨3枚を取り出して門番へと支払った。
「よし、通って良いぞ。」
「ありがとうございます。」
手続きが済んだので俺達は詰所を後にしようと扉から出ようとしたら、門番の人が声を掛けてきた。
「お嬢ちゃん、これから良いことも沢山有るさ。頑張れよ。」
「ありがとうございます。」
こうしてアリスを連れて、無事にリーデルの街へと戻ってきたのだった。




