142 発見
「じゃあ、開けるぞ?」
「うん。」
蓋は釘でしっかりと固定されていたので、錬金術の変形で開けることにした。
「こ、これは!?」
「うわぁ~ 可愛い子だね!」
「そうだね、じゃねーよ!! 何処からどう見てもお前じゃねーか!!」
「えっ? 私? 私ってこんなに可愛いかったの?」
何と棺桶から出てきたのはアリス本人だった。
他人のそら似って可能性も無くも無いが、金髪のロングヘアだし、目はつぶってるから瞳の色までは分からないが、白いワンピースも着ていて裸足だった。
今、そこにいるアリスと全く同じ格好をしているし、恐らく本人で間違い無いだろう。
それにしても、自分の顔を見ても分からないって、本当に記憶が無いみたいだな。
「まあいい。とりあえずお前の体だし、さっさと戻ったらいいんじゃないのか?」
「戻るって、どうやって戻るの?」
「知らん。とりあえず体に入ってみたら良いんじゃね?」
「う、うん。やってみるね。」
アリスはそう言うと、自分の体へとダイブした。
「あれ? 通り抜けちゃった。」
「駄目か。」
そうすると、どうすれば良いのか分からない。
「それじゃ、帰るか。」
「待って待って待って~!!」
「何だ?」
「どうして帰っちゃうのよ! 助けてくれないの?」
「いやだって、どうしたらいいのか分からないし。」
「もしかしたら他に原因が有るかもしれないし、調べてみようよ。」
「仕方ないなぁ。」
調べて分かるものでも無いとは思うが、確認だけしてみるか。
ピラッ!
「白か。」
「ちょちょちょちょっと! 何をしてるのよ!!」
「何って確認だが?」
「どうして最初に確認する場所がそこなのよ! もっと他に調べる場所が有るじゃない!」
「無い!(断言)」
「嘘よ嘘! もうお嫁に行けない~!(涙)」
「大丈夫だ。問題無い。」
「そ、それって、シュウがお嫁さんにしてくれるって……」
「ここには俺とアリスしか居ない。俺が黙っていれば問題無い。」
「シュウの馬鹿あああぁぁぁぁぁ~~~~~!!」
アリスが大声で泣きながら走って行ってしまった。
「おちょくり過ぎたか?」
真面目に調査してみることにした。
何となく予想だが、よくこういったことの有りがちなパターンとして、体に戻れない原因は、何かアクセサリーか何かみたいな呪いの道具なんかで妨害されているからでは無かろうか。
まずは髪飾り……は付けて無いな。イヤリングも無し。ネックレスと言うかペンダントを付けているな。これか?
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【形見のペンダント】
リリス=リルディルが生前着用していたサファイヤのペンダント
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リリス? アリスのお母さんか何かか?
形見とは言え、単なるペンダントみたいだ。
他には……指輪か。どれどれ?
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【離魂のリング】
このリングを着用すると魂が肉体から離魂し、徐々に衰弱して死に至る。
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「これだ~!!」
どうやらこれを付けたことで生霊となったのだろう。
衰弱死されるのもアレなので、指輪を外すことにした。
「いやああぁぁぁぁ~~~!! 引っ張られるうううぅぅぅ~~~!!」
どうやら指輪を外したことで、魂が肉体に引っ張られたみたいで、アリスが飛んできたのだ。
そして、アリスの体へと吸い込まれていった。
「どうだ?」
俺が息をのんで見つめていると、アリスの目が開いた。
「起きたか。」
「ここは……何処なのでしょうか? それに貴方は?」
「はぁ? 何を言ってるんだ? その歳でボケたか?」
「あ、あの、言っている意味が良く分からないのですが。」
「えっ? マジ?」
そう言えば、さっきとは雰囲気が違うような?
「あ、あの、アリスだよね?」
「はい。アリス=リルディルと申します。お見知りおきを。
もし宜しければ、貴方様のお名前を教えて頂きたいのですが。」
「えっ? あ、は、はい。俺……いや私はシュウと申します。」
「シュウ様ですね。」
アリスはそう言うと、ニッコリと微笑んだ。
何だコレ、生霊の時と性格が変わりまくりなんだけど?
「あ、あの、もしかしてここが何処なのかも、お……じゃなくて私のことも分からないのでしょうか?」
「大変申し訳ありませんが……」
「そうですか。」
アリスは、ものすごく申し訳ない顔でそう言った。
どう言うことだ? そう言えば生霊の時のアリスも記憶喪失だったな。もしかして肉体と魂では記憶が違うとでも言う感じなのか?
「ここはリーデルの街から西に10km程進んだ森の中です。私はアリス様の捜索依頼を受けたので、ここに探しに来ました。」
「そうだったのですね、こんな離れた場所に何故私は……
そ、その、後でお礼をしなければならないので、依頼をして頂いた方はどなたなのか教えて頂いても宜しいでしょうか?」
「あーえっと、その、依頼人は、あ、アリス様ご本人……なんですけど……覚えてないんですよね?」
「私……ですか!?」
「はい。」
記憶が無いから当然だろうが、かなり混乱しているみたいだな。
「あ、あの、詳しく教えて頂けると助かるのですが。」
「あ、はい。実は……」
俺は、アリスと出会ってから今までのことを詳細に話すことにした。
もちろん、スカートを捲ったのだけは内緒だ(笑)
「そんな有り得ないこと、信じられません!」
「とは言ってもなぁ……そうだ! これをはめて貰えませんか?」
俺は手に持ったままだった指輪をアリスへと差し出した。
「これは……ロゼッタが私に渡してくれた指輪? 何故、シュウ様がコレを持っていらっしゃるのでしょうか?」
「この指輪は、アリス様の指から俺が外したからです。この指輪は『離魂のリング』と言いまして、付けると魂が肉体から強制的に離されるみたいなのです。
そして、どうやら肉体から魂が離れると、それまでの記憶が無くなるみたいですし、その逆も有るみたいなのです。」
「そうなのですか? 確かに指輪を付けた後の記憶が……っ!」
アリスが頭を押さえて蹲った。
「アリス様?」
「だ、大丈夫です。今何かを思い出しそうな感じがしたのですが、駄目だったみたいです。」
「そうですか。」
「シュウ様、その指輪を。」
「あ、はい。」
俺は指輪をアリスへと渡しすと、アリスはそれを指へとはめた。
すると、アリスは突然力が抜けた様になり、倒れこんだのだった。
「おっと!」
俺は咄嗟に腕を伸ばして、アリスの体を受け止めることが出来た。ギリギリセーフ。
「あれ? シュウ? 何してるの? はっ! ま、まさか! さっきみたいに私の体にイタズラしようとして無いでしょうね!」
「おぉ! 出てきた出てきた。」
アリスの体から魂バージョンのアリスが出てきたのだった。
「確認するが、何処まで覚えてる?」
「確認? 何の話? 確か突然体が引っ張られたと思ったら、シュウが私の体を抱きしめてたんでしょ?」
「そうか。」
やっぱり肉体の時と魂の時の記憶は別みたいだが、何で別人格になるんだろうな。もしかして魂の時は素が出るのだろうか……
「良くは分からないが、だいたい分かった。サンキューな。」
「それって、どういう……きゃあ!」
俺は、アリスの指から指輪を抜き取ると、魂のアリスは再び体へと入り込んだ。
「あれ? 私は……はうぅ! しゅ、シュウ様!?」
「あ、ごめん。」
そう言えば抱きしめたままだった。俺はアリスを起こし上げて立たせてあげた。
「あ、ありがとうございます。」
「今さっき、生霊のアリスにも聞いたけれど、何処まで覚えてる?」
「えっと、指輪をはめたら、いつの間にかシュウ様に抱きしめれていました。……ぽっ。」
「やっぱり生霊の時の記憶は無いと。どういう仕組みなんだろうな。」
「これはシュウ様に責任を取って貰うしか……」
今気が付いたんだが、何か物騒なことを言って無いか?
「アリス様?」
「ひゃい! な、何でしょうか?」
「すいませんが、最初にこの指輪を装着した時の話をして頂いても宜しいでしょうか?」
「わかりました。すべてお話しいたします。」
アリスはそう言うと、その時の状況を話し始めるのだった。




