129 調査
地平線が明るくなってきたので、そろそろ夜明け前みたいだ。
「ふあぁ……」
流石に少し眠くなってきたが、さすがに今から寝る訳にも行かないし、若い体で無理も利くみたいなので我慢することにした。
「ちょっと眠気覚ましに散歩してきても良いかな?」
「かまわないけど、あまり遠くに行かないでね。」
「了解。」
レリウスの許可も貰えたので、少し散歩に出かけることにした。
適当に森の中を進んでみると、向こうの方に小山が見えたので行ってみることにした。
小山のふもとまで到着したので見上げてみると、だいたい50m程の高さしか無かった。
「折角だし登ってみるか。」
ちょっとした山登り……いや、ハイキングの気分で颯爽と登るのだった。まぁ、5分程度で山頂に到着するんだけどな。
「ほぉ! ちょっとした眺めだな。」
この小山以外に高い場所は無いため、結構遠くまで見渡すことが出来た。
周りは森が広がっており、まるで緑の絨毯の様だった。
「あの辺りが野営した場所かな?」
煙が上がっているので間違い無いだろう……ん? そのまた先の方にもいくつか煙が登っているのが見えるな。森林火災じゃ無さそうだから、村でも有るのかな?
俺達の野営した場所がこの丘から500mくらいで、そこからさらに5km程先の場所に煙が見えたのだった。
「こんな森の中で生活ってどんな風なんだろうな。」
少し森の中の生活に興味を覚えた俺は、オート狙撃で煙の場所を見てみることにした。
「やっぱり木が邪魔で見えないか。残念。」
見えないものは仕方がないし、そろそろサムも起きる時間だろうから野営地へ帰ることにした。
「ただいま~」
「おかえり。」
「ったく、朝っぱらから何処行ってたんだよ。」
野営地に戻るとサムはすでに起きていた。
「ちょっと散歩に行ってたんだよ。」
「ふ~ん。」
サムがそっけない返事をした。聞いておいてそれは無いんじゃないかな? 別に良いけどね。
「シュウ君、何かオークに関するものでも見つけられたかい?」
「いや、オークに関する物は見当たらなかったかな。あ、でも、この近くに村が有るのは見つけたよ。
こんな森の中で生活するってどんなんだろうね。」
「「!?」」
その瞬間、2人の様子が変わった。それを見て俺は状況把握の範囲を限界まで広げてみた……が何も見つけることは出来なかった。あれ?
「シ、シュウ君、その村って何処に有ったんだい?」
「えっと、向こうに小山が有って、そこから見てこの野営地を挟んだ先だから……向こうの方だね。」
俺は指を差してその場所を示してみた。
「おい、レリウス! この辺りって村は無かったよな?」
「うん。もしかすると、オークの村かもしれない。」
「えっ? あの煙ってオークのだったの? 開拓地とかじゃなくて?」
「新しく開拓村が出来たって話は聞いたことは無いから、その線はありえねーな。
オークじゃなければ盗賊だろうな。」
「なるほどね。でも、もし本当にオークの村が有ったとしたら、俺達だけじゃ無理じゃない?」
「無理だな。」
「無理だね。」
「じゃあ、報告に戻る?」
「う~ん。戻りたいのは山々なんだけど、オークって証拠が無いと厳しいかな。」
「でも、見つかったら終わりだよ?」
俺は完全無効があるからまだしも、レリウスとサムは死ぬかもしれない。無理はさせられない。
「……サム、調べられるか?」
「無理だな。オークは鼻が良いから俺の索敵範囲程度だとバレる可能性が有るな。」
「シュウ君なら、何とかならないかな。」
「どうだろう? 実際にやってみないと何とも言えないかな。」
「「「う~ん。」」」
流石に危険なので全員がどうするべきか悩んでしまった。
オート狙撃は対象との間に障害が有ると見えない。障害物が無い空から見れれば良いんだけど……
そう言えば、確かそう言った目のスキルが有ったよな。確か『鷹の目』だっけかな? ドローンみたいなやつ。
ふと意識を空に向けると視界が変化した。
「あっ!」
「どうした?」
「何か思いついたのかい?」
「ごめん、ちょっと黙ってて!」
ふむふむ、よくTVで見かけるドローンの映像と同じだな。俺の意識に合わせて高度も変えられるみたいだし、これなら行けそうだ。
まずは100m程上昇して目的地を探す。向こうの方に煙が登っているのが見えた。
俺は煙に向けて視線を移動させた。
「おぉ! 速い速い!」
これって軽く時速100kmは出てるんじゃないか? 滅茶苦茶気持ちが良い!
あっという間に目的地へと到着してしまった。そしてその場所には……
「あっちゃー!」
「どうした?」
「オークの村だった。」
「何だって!」
「ひーふのみー……見える範囲だけで15匹程いるね。家の中までは分からないけど。」
某3匹の豚が出てくる話の次男の家っぽいのが7件建っていたのだ。オオカミさんが来て吹き飛ばしてくれないだろうか?
このまま家の中まで見ることは出来ないだろうか? ……だめだな。壁で止まってしまった。どうやら障害物は通り抜けられないみたいだ。
「よし、撤収しよう!」
「だな。」
「それで良いの?」
「良いも悪いも、俺達には無理だろうが。」
「命が有ってこその冒険者だからね。さすがにそんな冒険は出来ないよ。」
サムとレリウスが無謀をことをしない現実主義で助かったな。
よくお話しの中では、正義感丸出しで、殲滅だとか言う英雄志望の馬鹿が多いからな。
「そうだね。あ、その前に地図と何か書く物を貸して貰えるかな。」
「いいよ。はい。」
俺はレリウスから地図と黒炭みたいな塊を貰ったので、地図にオークの村の位置に印を付ける。
そして裏側に村の形や、家の場所を描いて行く。
「こんな感じかな。」
地図が完成したので、視線を切ることにした。
後は野営の後片付けをして、俺達はリーデルの街に向かって帰るのだった。




