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121 買い出し


次の日になり目が覚めた。日はすでに登っており、相部屋の孤児達の姿は無かった。

どうやら、何だかんだ言っても疲れていたのか、随分と遅い時間に起きたみたいだ。



「起きるか。」



着替えて顔を洗った後は、朝食を食べるために食堂へ向かう。

もちろん片付けが終わっていたので何も置いてなかった。



「シスター、朝食は?」


「えっ? 食べて無かったの? もう片付けちゃったし、何も無いわよ?」


「マジか……」



仕方がないので、街へ繰り出して何か食べることにした。

道を歩いていると、美味しそうな匂いがしている屋台を見つけた。



「あそこで食べるとしますか。」



屋台の前まで行って気が付いた。俺、大銀貨と金貨しか持ってない。

さすがに串肉を買うのに100万円を出されたら、屋台のおっちゃんに迷惑が掛かりそうだ。

思わず帝都での二の舞を踏むところだったぜ。



「そうすると、何処かで両替しないとな。」



この世界には銀行が無いから両替って何処ですれば良いんだ?

一応冒険者ギルドで預かってくれるシステムが有るが、銀行では無くて、あくまで代わりに預かってくれるだけなので、利息は付かない。

まぁ、大金を持ち歩くよりは安心だからで預ける人も居るみたいだが、たいていの人はお金持ちの上位ランクの人達だ。

俺みたいなEランクの冒険者が大金を預けているのを知られたら、色々と問題になりそうだから、冒険者ギルドを使用するのは難しそうだ。



「そうすると、どうすっかなぁ~」



アイテムボックスの中を確認すると、ゴブリンの耳が有ったが、これはレリウス達と一緒に報告する物だから却下だ。

後は、手持ちのホーンラビットの肉とかか。まぁ、これを売るのが無難かな。

そうと決まれば冒険者ギルドへと向かうことにした。


肉はいざという時の食料になるし、孤児達へのお土産にもなる。なら余っている角と皮は全部売っちゃおう。

俺は、事前にアイテムボックスからホーンラビットの角と皮を全部取り出すと、納品カウンターへと向かった。



「これをお願いします。」


「あ、うん。今回もす、凄い沢山よね。お肉は前と同じで良いのかな?」


「はい。」


「……相変わらず完璧な解体…ね。文句の付けようも無いわ。はい。」



ティアナさんがメモにサラサラと記入をして判子を押した物を渡してくれた。



「ありがとうございます。」



メモを受け取った俺は、早速受付カウンターへと向かうことにした。

イザベルさんは……何となく昨日の件で気まずく、行きにくかったので、別の受付カウンターにすることにした。



「次の方どうぞ。」


「すいません、これをお願いします。」


「はい。……えっと、ホーンラビットの角と皮だけですか。これだと常時依頼の対象外になりますが、構わないでしょうか。」


「はい。問題有りません。」


「では、ホーンラビットの角が38本、ホーンラビットの毛皮が38枚で、解体済みで品質に問題無しと。

 全部で大銅貨7枚と銅貨6枚になります。お確かめください。」



俺はお金を受け取り確認する。



「大丈夫です。」


「本日は冒険者ギルドのご利用ありがとうございました。私、イリーナが対応させて頂きました。

 またのご利用をお待ちしております。」



十分な軍資金を得た俺は、朝食……にはちょっと遅いが、何か適当に食べるために街へと繰り出すのだった。



「さて、何を食おうかな。もうお金を気にする必要も無くなったしな。」



今まで買い食いとかをしていなかったせいで、若干の後ろめたさを感じなくも無いが、稼いだお金を自由に使えるってのは、やっぱり気持ちが良いものだ。



「軽く食べるならハンバーガーとかホットドックが良いんだが、こっちの世界で見たことが無いんだよな。いっそのこと自分で作ってみるか?」



少々手間が面倒くさいが、大した料理じゃないから作れなくはない。

……いかんいかん。この前、つい、から揚げやポテトチップを作ってしまったせいで、大変な目に有ったばかりじゃないか。

やっぱり人が作った物を食べる方が楽で良いよな。うん。



「でも、食えないとなると、ハンバーガーが食いたくなるよなぁ~」



どうせ今日は1日暇だし、いっそのこと本当に作ってみるか?

誰にもバレなきゃ、面倒なことにはならないだろうし。よし!


そうと決まればまずは材料集めからだ。

市場の露店から必要な物を買い漁ることにした。牛豚の合挽き肉が有れば良いんだが、そんな都合が良い物は無いため、ホーンラビットとウルフの2種類で代用しよう。

丸ネギと塩、胡椒はすでに持っている。後はケチャップかそれに準するソースが有れば良いんだが、無いなら作るしかないか。そして一番大事なのはバンズだな。


この世界のパンは、硬くて微妙に酸っぱい保存の効く黒パンか、発酵させないで焼いたナンか膨らんでいないもちもちしたパンケーキみたいな感じのパンが主流だ。

俺が欲しいのは白くてあの柔らかいパンである。と、言うことはイースト菌みたいな酵母が必要だ。

確か果物を使って作れるんだっけかな。果物は手持ちに無いし、小麦粉も無いな。よし買いに行こう!


市場へ行くと、色んな種類の果物が売っていた。グーレイプにリンゴーン、オウレンジにキューイとかだ。確かレーズンとかで作ってたな。ならグーレイプ、君に決めた!

どの店も同じ値段だったので、見た目で一番いい物を買っておいた。ついでにトゥメイトウとレトゥースも買っておく。全部で銅貨3枚だった。

後は牛乳とバター、砂糖も有るとベストだな。売ってるかな?


駄目だ! 砂糖は高かったが売ってはいたが、牛乳が無い! 牛乳が無いとバターも無いってことだ。なんてこった……

仕方がない、味気なくなるがバターと牛乳無しで試してみることにしよう。何時か手に入れた時に挑戦すれば良い。

最期の材料は小麦粉だが、売っている小麦粉が薄力粉なのか強力粉なのかがさっぱり分からない。まぁ、分からなければ店員に聞けば良いか。



「すいません。この小麦粉ってどんな種類なの?」


「どんなのって言われてもなぁ、普通の小麦粉だぞ?」


「何て言ったら良いかな。えっと、水と一緒に練って焼いた時にサクサクになるのか、モチモチになるのかが知りたいんだ。」


「サクサク、モチモチがどういったのかは分からないが、食べ応えの有る感じになるぞ。」


「ふむ。と言うことは強力粉かな? おっちゃん、これ下さい。」


「はいよ。どのくらい欲しいんだ?」


「在庫はどのくらいあるの?」


「今はそこに有るだけだな。」



だいたい10kgの袋が5個か。



「この袋1つで幾ら?」


「大銅貨1枚だな。」



10kgで1万円か。思ってたより高いな。でも、この世界だと普通なのか?

周りで小麦粉を扱っている出店は……無いか。判断が付かないな。



「全部買うからオマケしてよ。」


「これを全部か? ウチとしては助かるが、持てるのか?」


「多分。」


「そうだなぁ……なら大銅貨4枚と銅貨9枚でどうだ?」


「大銅貨4枚と銅貨5枚。」


「そりゃないぜ、大銅貨4枚と銅貨8枚。」


「大銅貨4枚と銅貨6枚。」


「う~ん。大銅貨4枚と銅貨7枚。」


「大銅貨4枚と銅貨6枚と大鉄貨5枚。」


「よし、売った。」



俺はお金を払って小麦粉を受け取った。

袋を担いで出店を後にすることにした。



「本当に持って行けるのか。大人だったらまだしも、こんな子供なのに凄いな。」


「また機会が有ったら買いに来るよ。」


「おう、まいどありな。」



俺は人での無い場所まで行くと、アイテムボックスへと収納した。

一応持てたとは言ってもかなり重かったので、結構辛かったのは内緒だ。



「残りはマスタードだけだ。」



まぁ、マスタードは最悪無しでも問題無い。見つけたらラッキー程度に考えておこう。

マスタードを探して歩いていると、前方に人が集まっている屋台を見かけた。

興味本位で覗いてみると……



「なんてこった……」



そこには、なんと、ナンドッグが売っていた。味はシンプルに塩コショウのみだが、トゥメイトウとレトゥースが挟まっていて、見た目的にも美味しそうだ。そして、その時俺の腹がぐぅ~っと鳴った。



「もうこれで良いや。すいませーん、1つ下さい。」


「はいよ。大鉄貨7枚だよ。」



俺はお金を支払い、ナンドッグを受け取るとかぶりついた。



「旨い!」



シャキシャキのレトゥースに、トマトの酸味がソーセージの塩コショウと合わさって、かなり旨い! 人気店になっているのも頷ける旨さだ。

お腹がいっぱいになった俺は、満足してその場を離れるのだった。

ハンバーガ? 今日はもうどうでもいいかな?(笑)


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