118 交渉再び
帝都を出て少ししてから、くそ親父が声を掛けてきた。
「さて、依頼をお願いしよう。それにしても今回はすんなりと受けてくれたな。」
「そりゃあ、反論するだけ無駄だと分かってたからな。と言う訳で、前回同様で受けようと思う。」
「いやいやいや! キチンと契約を決めてからお願いするぜ。」
さすがに騙されなかったか。なら、ここからが勝負だ!
「まず最初に確認だ。今回は幾つあるんだ?」
「さすがに今回は日にちが足りなかったせいで数が集まらなかったからな。全部で30個だな。」
「何でそんなに急ぐ必要が有ったんだ? ゆっくり集めりゃいいじゃん。」
「そりゃあ、坊主の帰りに合わせるとすれば、この日程が限度だったからな。」
「何で? 十分に数を集めてから、別の日にリーデルの街に来りゃいいじゃん。」
「今回の依頼中じゃなければ依頼を受けないだろうが。」
バレテーラ。
「恐らく確実にやってもらうのは、この依頼が最期って可能性が高い。だから無理してでも集めたんだよ。」
「へいへい。なら依頼料はどうするんだ?」
「正直、俺もピンクサファイヤの数を減らしたくない。だから多少足が出たとしても数だけは揃えたい。
なので今回は本気で交渉させて貰おう! 1個銀貨5枚だ。これでどうだ!」
ふむ、今回30個だから、銀貨5枚×30個だから、金貨1枚と大銀貨5枚になるのか……って、マジか!? 日本円で1500万だぞ?
この値段が高いのか低いのかが全く分からん。こんなことなら相場を調べておくべきだった……
「本気で交渉と言うなら聞くが、このピンクサファイヤって幾らで売れたんだ?」
「前回のピンクサファイヤだが、大きさにもよるが加工前の宝石だからな。大体銀貨4枚から6枚の間だ。だから平均の5枚を依頼料としたい。」
「マジで? その値段で依頼するって、そっちに何の利益が有るんだよ!」
「商人はな。金額以上に伝手が何よりも価値がある場合が有るんだよ!」
くそ親父が真剣な目で俺を見ながら言ってきた。
「なるほど。よし、そう言った理由なら、それで受けるとするよ。」
「交渉成立だな。」
親父はニッコリと嫌らしい笑顔を浮かべると、例の金庫から箱を取り出してきた。
箱の中には確かに30個の程の赤黒い石が入っていた。
「……おい!」
「何だ? 数は合っているハズだが?」
「確かに数は合っている。でも大きさが全然違うじゃんかよ!」
「そりゃあ、確認しない坊主が悪い。」
「くそっ!」
「が~はっはっはっは~!! これも勉強だと思って、まぁ、頑張ってくれたまえ!」
くそ親父は楽しそうだ。マジムカつく!
何がムカつくかって? 今回用意されたルビーもクズルビーなのは間違い無いが、大きさが一番小さな物でも5カラットは有るからだ。前回の最大サイズ以上だ。
おそらく売った宝石は、0.7~1.5カラット位の大きさだっただろうから、平均すると銀貨5枚程度の値段だったのだろう。
でも、今回はこのサイズの大きさだ。きっと値段も格段に跳ね上がるのだろう。
金貨1枚なんてのは、この大きさからすると、はした金になるのだろう。ヤラレタ……
とは言え、契約は契約だ。俺は泣く泣く作業をするのだった。
・・・・
「終わったぞ。」
「ご苦労ご苦労。これが約束の金だ。」
「へいへい。そりゃどーも。」
くそ親父は物凄く良い笑顔でお金を支払ってくれた。その顔にムカついた俺は、仕返しをすることにした。
俺は前に加工したルビーを取り出して、くそ親父に見せびらかすことにした。
ピンクサファイヤにしてから見せても良かったが、くそ親父はルビーの状態でも理解できるだろうから問題無い。
「なっ! 何だその大きさは! しかも加工済みだと!?」
「さてね~?」
「お願いだ!! それを俺に売ってくれ!!」
くそ親父は土下座をして俺に頼み込んでいる。
「えっ? 嫌だけど?」
「金貨1枚、いや10枚出す!」
「金貨10枚って、そんなに持ってるの?」
「今は無いが、何とかする!」
「まぁ、用意したとしても売らないけどね。」
「くっそぉ~!!」
だいたい金貨10枚とアッサリと言うくらいだ。それ以上の価値があるに違いないしな。
それをくそ親父に売るなんて勿体ない。
くそ親父は、俺が売ってくれないことを理解したのが、項垂れるのだった。ざまーみろ。




