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110 開店準備


書かれている地図の通りに歩いているんだが、どんどん賑やかと言うか華やかな場所になって来た。

と言うか、此処は花街と言われる場所では無かろうか。俺、子供だけど此処に居ても良いのか?

そんな心配をしていたが、周りの大人は特に気にすることも無く、何か言って来ることも無かった。



「ここかな?」


「だね。」


「さっさと入ろーぜ。」



到着した酒場は、いかにも冒険者御用達な感じの酒場だった。

西部劇に出てくるような両開きの扉を開けて中に入ると、まだ営業時間目だからか、ガラガラだった。

俺達が入って来た音が聞えたのか、店の奥から男性が顔を出して言ってきた。



「まだ営業前だから、お昼過ぎてから来てくれ。」


「あ、いえ、僕達は依頼を受けてやってきました。」


「何だ、そうならそうと早く言ってくれ! 俺はこの店の店主で、ガイルってんだ。よろしくな。

 お前たちは……野郎3人だけか? しかもガキもいるじゃねーか。」


「はい。僕はレリウス。こっちはサムで、この小さいのがシュウ君です。でも、シュウ君はこんな見た目ですが、しっかりとしているので大丈夫ですよ。」


「……まぁ、人手が足りねーからガキの手も借りたいから構わないが、結構大変だぞ? 本当に大丈夫か?」


「はい。大丈夫です。」



ガイルさんがこちらを見たので返事しておいた。



「まあいい。やってみて出来ることだけでも良いから手伝ってくれ。

 何をやることは、もうすぐ他の奴らが来るから、そっちから聞いてくれ。」


「わかりました。」


「あ、そうだ。折角だから店の掃除を頼む。道具はあそこの棚に有るからな。」


「わかりました。」


「俺は料理の下ごしらえが有るから奥に行く。何か有ったら呼んでくれ。」


「はい。」



ガイルさんはそう言うと、店の奥へと行ってしまった。



「じゃあ僕達は掃除でもしようか。手分けしてやった方が良いかな。

 サムは表を、僕は店の中をやるよ、シュウ君はテーブルを拭いてくれ。」


「おう。」


「了解。」



そうと決まれば各々動き出すことにした。

俺は、桶に生活魔法で水を入れ、布巾を濡らしてからテーブルを拭いて行くのだが、結構油汚れ等がこびりついていて取れない。

ベタベタするし、見た目的にも非衛生的だ。



「う~ん、これ何とかならないものだろうか。」



油汚れを落とすのってどうやるんだっけかな。重曹? クレンザー? どっちも持ってないから却下だ。

だったら、熱で油を溶かして落とすとかかな? ……そう言えば、深夜の通販番組で高温の水蒸気でフローリングの汚れを取っていたな。

よし、魔法で出来ないか挑戦してみよう!


えっと、どうやれば良いんだ?

高温の水蒸気を放出するだけなら何とかなりそうだが、それだと水浸しになっちゃうし、冷えることで再び油がこびりつくかもしれない。

なら、油を溶かして剥がしつつ回収できるのがベターだろう。


記憶の中のスチームクリーナーは掃除機の形をしていたな。だったら石で掃除機の形を作ってやれば行けるんじゃね?

俺は石を取り出すと、錬金術で掃除機の形を作った。先端から高温の水蒸気が噴出し、後ろ側の吸い込み口から汚れたお湯を吸い取る仕組みだ。

吸い取ったお湯は、オート解体と同様に謎の空間へと処分するイメージにした。よし!



「スチームクリーナー!」



創造魔法を発動すると、石の掃除機からシューって音とともに湯気が出てきた。

掃除機をゆっくりとずらすと、当てていた部分の汚れが新品同様に綺麗になっているのが確認できた。



「成功だ!」



頑固な汚れが綺麗になるのを見るのは気持ちが良いな。俺はテンションが上がった勢いで、掃除を頑張るのだった。



・・・・



「終わった~!」



大した時間も掛からずに掃除を終わらせることが出来た。流石はスチームクリーナーだ。

スチームクリーナーの魔法は時間の経過で停止する訳では無く、1つのテーブルが終わると停止した。

何を持って判断しているのか分からないが、俺的に都合が良いため、深く考えるのはやめておくことにした。


さて、俺の分は終わったが、レリウスとサムはどうだろうか。

レリウスは同じ部屋での作業だたので、周りを見渡してみると、俺をジッと見た状態でレリウスが固まっていた。

何時から見ていたのかは分からないが、半分くらいしか終わって無かった。おい! 掃除はどうした!!



「レリウス?」


「……はっ! ご、ごめん。何かな?」


「俺の分は終わったんだけど。レリウスはずっと見てたみたいだけど、どうなのよ。」


「うぅ……思わずシュウ君の作業に見とれちゃってたよ。すぐにやるから!」



レリウスがそう言うと、一生懸命掃除を開始した。仕方ないさっさと終わらせるためにも手伝うとしますか。

その時サムが酒場の中へと入って来た。



「表は終わったぞ~!」


「ご、ご苦労様。」


「おつかれ~」


「まぁ、大した手間じゃなかったから直ぐに終わったぜ。こっちはまだみたいだな。遅っせーな。」


「ご、ごめん。」


「俺ばっかり働いてるじゃんかよー……って、テーブルが見違えるほど綺麗になってる!? だからこんなにも時間がかかってるのか。悪ぃ! 勘違いした。」


「い、いや、それはシュウ君がやったことで、遅れているのは僕がサボってた訳で、その……」


「ああん? シュウじゃなくて、レリウスがサボった!? マジかよ……」


「ごめん……」



サムが信じられない目でレリウスを見ていた。何となくその気持ちはわかるな。

でも、俺がサボってる様に見えるってのは、少し納得いかないんだけど。



「チッ、ほら道具を寄越せ! さっさとやるぞ!」


「あ、うん。」



さすがに3人でやると、あっという間に掃除を終わらせることが出来た。



「店長~、おはようございま~す!」


「店長、おはよう。」



そこに2人の女性が酒場へと入って来た。もしかしてこの2人が、さっき店長が言ってた人になるのかな?



「あれ? お客さん?」


「まだ開店してない。後で来て。」


「えっと、僕達は、冒険者ギルドの依頼で来たんですよ。」


「そうだったんだ。私、ナナよ。短い間かもしれないけど宜しくね。」


「私はリリ。」


「僕はレリウスです。宜しく。」


「お、俺は、さ、サムだ。よ、宜しく。」


「俺はシュウ。宜しく。」


「レリウス君とササム君、そしてシュウ君ね。」


「……サムです。」


「ごめんごめん。サム君ね。覚えたよ~」



今のやり取りで思ったんだが、もしかするとサムって年上好きなのかもしれない。ナナさんもリリさんも大人だしね。

ナナさんは陽気な感じのお姉さんで、リリさんはクールな感じな女性だ。何となくカレンに似たタイプかな。



「さて、挨拶も済んだことだし、準備しちゃおうか。まずは掃除なんだけど……もしかしてやってくれたの?」


「はい。店長に言われたので先に済ませておきました。後はナナさん達が来たら何をするか聞いてくれって。」


「そうなんだ。ありがとうね。でも、このテーブルってどうやったらこんなに綺麗に出来るの? こんな色だって知らなかったよ。」


「それは、シュウ君が頑張ってくれたから。」


「へぇ~そうなんだ。すごいね~」


「凄い。掃除の天才?」


「いえ、魔法でちょちょっとやっただけです。」


「そうなんだ。魔法って凄いんだね~」


「凄い。」


「あははっ(汗)」



創造魔法様様です。ありがとうございます。



「さて、掃除が済んでるし、まずは仕事を教えちゃおうか。

 う~んどうしようかなぁ……そうだ! レリウス君は料理出来る?」


「いえ。出来ないです。」


「じゃあ、サム君は?」


「ぼ、僕も、で、出来ないです。」


「そっか~、じゃあウェイトレス……君たちの場合はウェイターか。そっちをやってもらおうかな。」



俺、もしかして無視されてる? 何か気が付かない内にやらかしてる!?



「あ、あの!」


「シュウ君? どうしたの?」


「俺、料理出来ます。」



前世の記憶だけど、1人暮らしの自炊で、それなりに料理していた様な記憶が有ったのだ。



「そうなの? だったらシュウ君は、店長の手伝いして貰えると助かるかな~

 正直言うと、こんなにウェイターが居ても仕方ないしね。」


「分かりました。」


「向こうにキッチンが有るから、店長に声をかけてね~」


「はい。」


「じゃあ、レリウス君とサム君はウェイターの練習だね。」


「はい。」


「が、頑張ります。」



接客の練習が始まってしまったので、俺は店長の所へ向かうことにした。


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