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108 屋台


「そうと決まれば、帰りの依頼を受けておくとするか。」



アランさんがそう言うと、依頼掲示板の方へと歩いて行った。

一通り掲示板を眺めていたみたいだが、丁度良い依頼が無かったみたいで戻って来た。



「アラン~、依頼は無かったの?」


「ああ、隣にあるガルスの街だったら有ったんだが、一度通り過ぎてから戻ってくるのもな。」


「そっか~」


「2,3日は依頼が無いか確認をして、見つからなかった場合は依頼無しで帰ることにするか。

 シュウ達もそれで良いか?」


「「「はい。」」」


「よし、ならここで解散とする。朝9時に此処に集合な。」


「あれ? 解散? 一緒に行動しないで良いの?」


「スマンがちょっと個人的に用事が有ってな。帝都では『銀の盃』って宿に泊まっているから、何か有ればそこに来てくれ。」


「わかりました。」


「じゃあ俺達は行くぞ。」


「じゃあね~♪」



そう言うと、アランさんとエレンさんは冒険者ギルドを出て行った。

確かにアランさんは、もともと帝都に用事が有るって言ってたっけ。そして俺達がそれに便乗したって形だったな。



「さて、僕達はどうしようか。」


「腹減ったし、まずは飯でも食おーぜ!」


「そうしようか。シュウ君もそれで良いかな?」


「うん。」



俺達は、食事をするために冒険者ギルドを後にすることにした。



「来た時にも思ったが、やっぱり帝都は都会だな。人が多いぜ!」


「そうだね。こんなにも人が居るんだもん、ビックリだよね。」



確かにリーデルの街に比べれば多いっちゃ多いが、東京の人混みを知っている俺としては、大した数には感じないけどね。



「おい、あそこで良いんじゃね?」



サムが指差した方向には、1つの屋台が有った。

ここからだと何を売っている屋台なのかまでは分からないが、それなりに客が居るってことは、人気店なのだろう。



「そうだね、行ってみようか。」


「なら行くぞ!」


「はいはい。」



サムが駆けだしたので俺とレリウスもそれを追いかけるのだった。

屋台に近づくと、何とも腹が減りそうな良い匂いが漂ってきた。



「この酸味と香辛料が混ざった様な懐かしい匂いは……ソース?」



それを理解した俺は、全力でその匂いに向けてダッシュした!



「くっ! 負けるか!」


「2人共早いよ~!」



何か後ろから聞こえたが、俺は気にせず走るのだった。

屋台へと到着したので何が売られているのかを確認すると、どうやら鉄板の上で肉が焼かれており、その味付けにソースが使われているみたいだ。



「さあさあ、我が秘伝のタレによる焼肉は如何かな? 美味しいよ~!」


「1枚くれ!」


「こっちは2枚だ!」


「まいど!」



どうやらそれなりの人気店みたいだ。確かにソースが焼ける匂いがたまらないから気持ちは分かるけどね。



「くそっ、負けた!」


「はぁはぁ……や、やっと追いついた。」



2人も到着したみたいなので、さっそく注文することにした。



「おっちゃん、俺にも肉を1……いや2枚くれ!」


「じゃあ、僕は1枚で。」


「俺も1枚たのむ! ハリーハリー!」


「まいど!」



屋台のおっちゃんは、注文を受けると、肉を4枚取り出して焼き始めた。


ジュ~~~~~~~!


良い具合に焼き目が付いたところで、ハケでソースを塗ってひっくり返した。

書の瞬間、辺りにソースの匂いが広がった。こりゃたまらん!

ある程度焼き目が付いたら、反対側にもソースを縫ってひっくり返した。


ジュ~~~~~~~!


さらに匂いが強くなる。辛抱堪らん!

まだか、まだか、まだかああぁぁぁぁ~~~~!



「はいよ! お待ちどうさん! 1枚銅貨1枚ね。」



焼きあがった肉を葉っぱに包んで渡してくれた。俺はさっき貰った依頼料の銀貨を取り出して渡すと、露店のおっちゃんは渋い顔をした。



「坊主、もうちょっと細かいの無いか?」


「すいません。今手持ちがこれしか無くて。」



確かに言われてみれば、1000円の買い物に10万円を出してお釣りをくれと言われると、店ならまだしも、露店だと困るよな。

俺がどうしようか悩んでいると、



「シュウ君、ここは僕が払っておくよ。」


「良いの?」


「もちろん。でも、後で返してね?」


「あ、はい。」



なんだ、奢りじゃ無いのか。残念だ。

お金の貸し借りは、この前も言った通りで少々抵抗が有るのだが、注文しちゃったものをキャンセルするのも露店に迷惑が掛かるし、今回だけは甘えさせてもらうことにしよう。

レリウスに代わりに支払ってもらい、焼きたての肉を受け取った。



「この葉っぱも食べられるのかな?」


「もちろんだ。一緒に食べてみろ。旨いぞ!」



屋台のおっちゃんがそう言ってくれたので、肉と一緒にかぶり付いた。

ふむ、ピリッとした辛みにソースの味が加わっていて予想以上に旨いな。贅沢を言えばもうちょい甘みが欲しい所だが、リンゴみたいな果物をすりおろしたのを加えるともっと美味しくなるんじゃね? そう考えるとちょっとだけ残念だ。

そして、葉っぱはレタス? いやサンチュか? そんな感じの葉っぱで、これ自体の味はそれほどでは無いが、シャキシャキの触感と瑞々しさが口の中をサッパリさせてくれる。最高だ。

俺はあっという間に平らげるのだった。



「ふぅ、旨かった。」


「美味しかったね。」


「もぐっ、はふっ、旨めぇ!」



俺とレリウスは食べ終えたが、サムは2枚目に突入したみたいだ。ちょっとだけ羨ましい。

サムが食べ終わる間、暇つぶしに露店のおっちゃんに声を掛けてみることにした。



「おっちゃん、このソースって何処で売ってるの?」


「このソースは俺のオリジナルだ。何処にも売ってないな。」


「へぇ~そうなんだ。じゃあ少し売ってもらうってのは?」


「駄目だな。欲しいんだったらまた此処に買いに来ればいい。」


「そっか。」



確かにこの露店での売りがこのオリジナルソースなのだろう。商売のタネをそう簡単には売ってはくれないか。

なら仕方がない、今度自分で作ってみるとするか。一応、簡単なソースの作り方は知識として持ってるしな。何で知っているのかまでは知らんけどね。



「ふぅ~食った食った。」


「じゃあこれからどうする?」


「まずは宿を決めた方が良いじゃないかな?」


「そうだね。そうしようか。」


「だったら、とりあえずアランさんが言っていた『銀の盃』にでも行ってみよーぜ。」



他に意見も無いみたいなので、とりあえず『銀の盃』へと向かうことにした。

……と言うか場所を知らないんだけど?



「なぁ、おっちゃん、『銀の盃』って宿を知ってる?」


「もちろん、あそこの宿で出る酒は旨いからな。まぁ、値段もそれなりに高いけどな。」


「ふ~ん。まあいいや。それで、場所を教えてくれる?」


「この通りを真っすぐ行くと、左側に銀の盃の絵が描いてある看板が見える。それがそうだ。」


「ありがとう。行ってみるよ。」


「おう、また買いに来てくれよな。」


「次はソースを売ってくれると嬉しいな。」


「そりゃ難しい相談だ。ガハハハッ!」



まぁ、何にせよ宿の場所も分かったことだし、行ってみることにした。



・・・・



「「「無理!」」」



俺達は一致団結した。それは何かって?

『銀の盃』って一番安い部屋でも1泊大銅貨2枚だったんだぞ? しかも素泊りでだぞ?

こちとら貧乏なんだよおおおぉぉぉ~~~!!(血涙)

と言う訳で、俺達は改めて宿を探すことにしたのだった。


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