107 依頼完了
宿の外に出た俺は適当に時間を潰すことにした。
とは言っても何処かに出かけるほど時間の余裕は無いため、宿屋の前での待機だけどな。
さて、どうしようかな。
ただ待っているだけってのもつまらないし、折角だから今回の護衛依頼を振り返ってみることにした。
最初に思い出したのは、俺とエレンさんの索敵範囲の違いだ。今のままでの距離でも十分と言えば十分なのだが、何となく負けたのは悔しいと思ってしまっている俺がいる。
スキル自体が違うなら仕方の無いことなのかもしれないが、サムが同じスキルで俺と同じ範囲だと考えると、多分熟練度の差なのだろう。
だが、俺にはチートが有る。なら、気配察知を改造すれば良いんじゃね?
俺は感知できる範囲を変更することを考えながら気配察知を発動すると、あまりの情報量の多さに、俺の意識は暗転したのだった。
・・・・
「……ん!」
何処からか声が聞こえる……
「……君!」
何だ?
「シュウ君!」
「はっ!」
俺は目を覚ました。あれ? いつの間に寝ていたんだ?
「シュウ君、良かった~!!」
目の前に涙目で、俺を抱きかかえているエレンさんが居た。
「あれ? 俺どうしたんだっけ?」
「私達が此処に来たら、シュウ君が気絶してたんだよ! 心配したんだからね!」
「ご、ごめんなさい。でも気絶? ……そうだ! 思い出した!!」
「何が有ったの?」
「えっと、怒らない?」
「話の内容にもよるかな。」
あ、こりゃ怒られるな。だけど仕方ないか。
「えっと、エレンさんに索敵範囲が負けていたのが悔しかったので、頑張って索敵範囲を広げてみたら気を失いました。」
「気絶するほどの索敵範囲? ちなみにどのくらいなの?」
「えっと、1km程までは覚えていたんだけど……」
「1km!? すご~い!!」
「でも、500m程を過ぎた頃から頭痛がしていたので、恐らく今の俺だと500mが限度みたいです。」
「それでも凄いじゃない! 流石シュウ君だね♪」
「ちなみにエレンさんの索敵範囲ってどのくらい何ですか?」
「私は120mが限度かなぁ~」
「そうなんですね。」
「シュウ君だから教えたけど、これは内緒だからね?」
「はい。」
確かにスキルの詳細は知られたら色々とマズイよね。心の中に留めておこう。
「それで、シュウは大丈夫なのか?」
「あ、アランさん。ご迷惑をお掛けしました。大丈夫です。」
「無理する必要も無いぞ。なんだったら馬車に乗せてもらえる様に頼むが。」
「いえ。大丈夫です。」
頭も居たくないし、特に体の不調も無いし、大丈夫だろう。
「そうか。もし調子が悪くなったら直ぐに言うんだぞ。無理をして動けなくなるのは依頼としても迷惑が掛かるからな。」
「わかりました。」
「よし、遅れ気味だから急いで出発するぞ! シュウは俺と一緒だ。」
「はい。」
俺達は村を出て帝都に向けて出発した。
旅は順調に進み、1回野営と、2回村での宿泊をしたのち、何事も無く帝都へと到着したのだった。
フラグって言葉は、なんだったんだっけ?(汗)
「皆さんのおかげで無事に帝都に到着することが出来ました。ありがとうございます。」
「いえ、こちらも問題無く依頼が完了出来て良かったです。」
「また機会がありましたら護衛依頼を引き受けて頂けると助かります。」
「その時は是非。」
俺の方をジッと見ながら言うんじゃね~! 俺は二度と受けるつもりは無いぞ!
依頼完了のサインを受け取った後は、くそ親父の馬車は離れて行くのだった。
「よし、冒険者ギルドへ依頼完了の手続きに行くぞ。」
「「「はい!」」」
・・・・
冒険者ギルドへと到着した。流石は帝都の冒険者ギルドだ。リーデルの街とは比べ物にならないほど広かった。
「スゲー!」
「うん、凄いね。」
「あれ? レリウスもサムも、帝都って初めてなの?」
「そりゃあ、帝都なんてそんな簡単には来れないだろーが。」
「サムの言う通りだね。僕達が住んでいた村とリーデルの街以外は知らないよ。」
「そうなんだ。」
「そう言うシュウはどうなんだよ。」
「俺? 俺は、リーデルの街以外は知らないよ。」
「そりゃそうか。そーいや、まだガキだったっけな。」
「ガキで悪かったな。」
「シュウ君は見かけによらず落ち着いてるからね。サムも年下と思って無かったんだよ。」
「ばっ……ち、違うぞ。俺はただ忘れて勘違いしてただけで……」
「まぁ、そう言うことにしておくよ。」
「レリウスてめぇ~!」
「お前達、依頼完了の手続きに行くぞ。」
「「「はい。」」」
その後は無事に手続きを完了することが出来た。
「ふふん。これでシュウに大きな顔はさせねーぜ!」
「やっとシュウ君と同じになれたね。」
「サムもレリウスもおめでとう。」
「ありがとう。」
「へっ、当然の結果よ。」
「よく頑張ったな。」
「おめでと~」
「あ、あ、あ、あり、あり、ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
何と今回の依頼で、2人ともEランクへと昇進したのだった。
「さて、依頼料の話をするぞ。今回の依頼は、日数ではなく一人銀貨1枚だ。
今回は天気も良く、襲われることも少なかったからすんなりと来れたし、良い稼ぎだったな。」
「だね~」
どうやら護衛依頼には、日数で出る場合と、金額が固定の2種類が有るみたいだ。
どちらが得になるかは、その時の状況次第ってことか。
「やっぱり上手く行かない時も有るの?」
「もちろんだ。状況にもよるが、大雨になったりすると、下手したら10日でも帝都に着かない場合も有るぞ。」
「そうなんだ。」
「それにな、今回は出なかったが盗賊が出た場合は、討伐か捕獲にもよるが、それによっても結構変わるな。」
「何で?」
「そりゃ、討伐した後の調査とか、運搬とか色々有るからな。手間はかかるが儲けは多くなるぞ?」
「そうなんだ。」
「まぁ、殆どの場合はちょっとした武器防具と、討伐料くらいだけどな。金が無いから盗賊になるんだろうしな。」
「納得です。」
金を貯め込むってのは、所詮は物語の話ってことか。
「さて、此処で解散となるが、お前たちはどうする? バラバラで帰っても良いし、帰りも一緒に依頼を受けるって言うなら考えなくも無いぞ?」
「レリウスとサムは、どうする?」
「う~ん。僕達だけだとリーデルの街までの依頼は受けられないし、アランさん達と一緒に帰る方が色々と助かるのは間違い無いよね。」
「でもよぉ~、俺達だけでの旅ってのも経験した方がいいんじゃねーのか?」
「ちょ、ちょい待ち! 旅の経験なら別に帰ってから隣町までの護衛依頼を受けるでも良いじゃんか。まずは近い所から始めようよ。」
「それもそうだね。シュウ君の言う通りだね。」
「なんでぇ~、俺達なら大丈夫じゃねーの?」
「サム、僕達はまだ初心者を抜け出したばかりの冒険者だよ。慌てると大変な目に合うかもしれないし、コツコツ頑張ろうよ。」
「……そうだな。レリウスの言う通りだな。わかったよ。」
「そう言うことなので、アランさん、帰りもお願いしても良いでしょうか?」
「大丈夫だ。逆にお前達だけで帰ると言ったら殴ってたけどな。」
「ひっ!」
アランがジロリとサムを睨むと、サムが背筋をピンと伸ばして直立不動になっていた。殴られずに済んで良かったな。




