105 その夜
相部屋の前に到着したので、入る前にノックをしてみた。
コンコン。
「どうぞ。」
中から許可の声が聞えたので、扉の中へ入ることにした。
部屋に入ると同時に頭を下げて挨拶をすることにした。
「今日一晩同じ部屋になります。宜しくお願いします。」
「おう、宜しくな。」
ん? 何処かで聞いたことが有るような……
俺が頭を上げると、そこにはくそ親父が居た。
「何でお前がここに居るんだよ!」
「何でって、宿を取ったからだが?」
「普通商人って、個室を取るんじゃねーのかよ!」
「こっちの部屋の方が安いからな。それに護衛も居るから問題無いだろ?」
くそ親父がそう言うと、例の護衛の1人がその後ろに立っていた。
「あれ? もう一人の護衛は?」
「もう一人は馬車で待機だ。当然だろ?」
「ふ~ん。まあいいや。
こっちはこっちで休むから、ちょっかい掛けて来るなよな!」
「今のところ頼むことも無いし、何もしないさ。」
「なら良いけどね。」
とりあえず空いているベットに荷物を置くと、お腹も空いていることだし夕食を食べに行くことにした。
食堂に到着すると、レリウスとサムが居たのでそちらへ向かうことにした。
「何だ、宿を取れたのか。べ、別に心配なんかしてないんだからな。」
「何はともあれ無事に合流出来て良かったよ。ここに居るってことは、アテは何とかなったみたいだね。」
「いやぁ~実はアテは外れて、お金は作れなかったんだよね。
だけど、知り合った男性が宿屋の親父と交渉してくれてさ、ホーンラビット2匹で泊まらせてくれることになったんだ。」
「そっか、それは良かった。」
「はぁ? いつの間にホーンラビットなんて狩ったんだよ!」
「村の近くにたまたま居たんだよ。」
実際はアイテムボックス内の在庫からだけどな。
「まぁ、シュウ君だからいつもの様に狩ったんだろうね。」
「けっ! 運のいい奴だ。」
「そーいや、レリウスとサムはどの部屋に居るんだ? てっきり俺と同じで、安い相部屋だと思ったんだけどな。」
「結構迷ったんだけど、知らない人と一緒だと色々と不安も有ったからね。少し高いけどサムと一緒に2人部屋を取ることにしたんだ。」
「なるほどね。こっちはそのお陰で依頼人の商人と一緒に相部屋だったよ。」
「知ってる人と一緒で良かったじゃん。」
「全然良く無いけど?」
「まぁまぁ。……そうか、相部屋だったらシュウ君と一緒に泊まれたのか。ちょっと勿体ないことしちゃったかな。」
「今更おせーよ。」
「もともと俺が泊まらないとか言ったのが原因だし、悪かったな。」
「高いと言っても銅貨2枚分くらいだし、気にしなくても大丈夫だよ。」
その時、マリーさんが夕食を持ってやってきた。
「夕食2人前だよ。待たせたね。」
「来た来た。」
「美味しそうだね。」
「あ、すいません。俺も食事良いですか?」
「はいよ。少し待っててね。」
「お願いします。」
食事を置いたマリーさんは戻って行った。
「食うぞ!」
「先に頂くよ。」
「どうぞ。」
俺がそう言うと、2人が夕食へとかぶり付いた。
「野営の時と違ってうめぇ~!!」
「そうだね。でも、使ってる材料も違うんだし、仕方ないんじゃないのかな。」
夕食は1日目の食事と全く同じで、パンにステーキとスープだった。
ただ、パンは黒パンじゃ無いし、スープも具が沢山で見た目も美味しそうだ。
「美味しく無くて悪かったわね!」
「「「えっ?」」」
声がした方を振り向くと、エレンさんがご立腹で立っていた。
「あ、あの、そ、そんなつもりで言った訳じゃ……」
「えっと、その、あの、違うんです。」
「お、俺は何も言ってません!!」
「あっ、シュウ! 1人だけズルいぞ!!」
「僕達は仲間で、一蓮托生じゃないですか。」
「そんなものは知らん!」
「ぷっ……あはははっ、あー可笑しい~♪」
「シュウ達をからかうのはそこまでにしておけよな。」
そこにアランさんもやってきた。
「ゴメンね~ちょっと悪ふざけしちゃった♪
あんな材料しか無いんだもん、誰が作っても同じ味になっちゃうよね。
別に怒って無いから安心してね~」
「「「よ、良かったぁ~!」」」
何だ冗談だったのか、マジで良かったぁ~!
「はいよ、お待たせ。」
俺の分の夕食もやってきたみたいだ。
俺の前には配膳してくれた。こりゃ確かに野営とは違って旨そうだ。
「女将、俺達にも夕食とエールを頼む。」
「私はハチミツ酒をお願い~」
「はいよ、ちょっとまっててね。」
マリーさんががそう返事すると、戻って行った。
「すいません。お先に頂きます。」
「こっちのことは気にするな。」
「そうだよ~食べて食べて~」
そうは言っても断りを入れるの礼儀ってもんだ。
さて、頂くとしますか。
まずはパンからを頂くとする。うん、さすがに黒パンと違ってこのままでも食べられる柔らかさだ。まぁ、味はそこそこだけどな。
次にスープだ。ゴロゴロと入った野菜から出た出汁に加えて、塩とそれ以外の調味料も入っているから味の深みも出ている。こりゃ旨い!
最後にホーンラビットのステーキだが、これに関しては野営時に食べたのと大して違いは無いな。あの環境で食堂と同等の物が出せるとは、さすがはエレンさんだ。
「食べ終わったし、僕らは先に休むとするよ。」
「シュウ、またな。」
「おつかれ~」
先に食べ終わったレリウス達は自分の部屋へと戻って行った。
俺もさっさと夕食を済ませることにする。
ぱくぱくもぐもぐずずっ……ごくん。
「じゃあ、俺も戻ります。アランさん、エレンさん、おやすみなさい。」
「おう、ゆっくり休めよ。」
「またね~」
部屋に戻ると、くそ親父は部屋に居なかった。まあ俺には関係無いか。
体を綺麗にした後は、明日のためにもさっさと寝るのだった。




