104 お金を求めて
くそ親父との話し合いが終わったアランさんが帰って来た。
「今夜はこの村で泊まるので、ここで一度解散する。もちろん見張りの必要は無い。
夕食は出るがいつものアレになる。もし、違う物が食べたい場合は自費になるし、宿に関しても同じだ。
その辺については各自で自由にしてくれ。」
「シュウ君、一緒に泊まろ~♪」
「えっ? 嫌ですよ。」
「……えっ?」
エレンさんが、まさか断られると思って無かったらしく、唖然としていた。
だってねぇ? アランさんに悪いし、色々と大人の事情もあるだろうから、2人っきりにしてあげたいじゃん?
夕食は材料が有るから作れるし、寝る場所は最悪馬小屋か軒下でも良いしな。
「シュウ、良いのか?」
「大丈夫です。」
「そうか。俺達はあそこの宿を利用するから、何か有れば言えよ?」
「はい。」
「ほら、エレン行くぞ。」
「えっ? シュウ君は? アラン~?」
少し混乱しているエレンを連れて2人は宿へと向かって行った。
「じゃあ、僕達も宿に行こうか。」
「そうだな。」
レリウスとサムも宿に移動するみたいだ。
「シュウどうしたんだ? 来いよ。」
移動しない俺に気が付いたサムが聞いてきた。
「俺は、野営するから、2人は気にしないで泊まってきなよ。」
「そういや金が無かったんだったな。なら俺が貸してやるよ。」
おや、サムの様子が……まさかデレた!?
「う~ん。いや、良いよ。金の切れ目が縁の切れ目とも言うし、出来るだけ仲間内で貸し借りは遠慮したいしね。」
「俺達が行きにくいんだよ!」
「あーうん。そういうことね。だったら金策するアテが有るから、それをしてから宿に行くよ。」
「なら良いが、一人で野営はすんじゃねーからな!」
「はいはい。」
「シュウ君、本当に大丈夫なのかい?」
「何とかなりますって。」
「なら良いけど……
じゃあ、僕達は先に行ってるからね。」
「はい。」
後ろ髪を引かれる感じだったが、レリウス達は宿に向かって歩いて行った。
さて、ああ言ってしまったからには野宿は出来なくなったか。仕方がない、金を作りに行くとしますか。
アイテムボックスの中にある物を売れば、何とかなるだろう。
俺は、買い取ってくれるお店を探して村の中を歩いてみることにした。
・・・・
小さな村だったため、少し歩いただけで、村の反対側へと出てしまった。
と言うか、この村には宿屋以外のお店が何も無かったんだが。えっ? マジ!?
だとしたら、どうやってお金を作れば良いんだ?
「坊や、見かけない子だね。迷子かい? 親はどうしたんだい?」
俺が途方に暮れていると、農作業の帰りらしい男性が声を掛けてきた。
「いえ、迷子では無いです。これでも一応冒険者なので。護衛の依頼でこの村までやってきました。
ただ、物を売ってお金を稼ごうと思ったのですが、売るためのお店が見つからなくて途方にくれていました。」
「そうか……だが、この村にはそんなお店は無いよ。この村では通過する商人に売買してもらってるのが現状さ。」
「そうだったんですね。」
なんてこった。予定が狂ってしまったぞ。
くそ親父に売れば買い取ってくれるのか? 別の何かを依頼されそうだから、あまり交渉したくないんだが……
「何を売るつもりだったんだい?」
「ホーンラビットのお肉と毛皮、後は角ですね。」
「さっきも言ったけど、この村にはお店は無い。
何でお金が必要なんだい? 急ぎじゃないのなら別の村か街にでも行ったときに売ったら良いんじゃないかな。」
「えっと、実は宿に泊まるお金が無くて(汗)」
「そういうことか。
よし! だったらオイラがガイに交渉してやろう。」
「ガイさんって誰なんですか?」
「ガイは宿屋の主人だよ。」
おっ? これは売れると同時に宿にも泊まれるってことになるのか? だったらお願いするしかないじゃないか。
「良いんですか?」
「任せなさい。」
「お願いします。」
俺は他に方法も無いため、男性に交渉をお願いしてみることにした。
「おや、商人が来ているみたいだね。そっちと交渉してみるかい?」
「あ、いや、あれにお願いするのは、ちょっと遠慮したいです。」
「どうしてだい?」
「今、この馬車の護衛依頼で来てまして……その……」
「なるほど、そりゃあ気まずいわな。
じゃあ、予定通りにガイに話をすることにするよ。」
「お願いします。」
男性は宿屋に到着すると、裏口へと行き、勝手に扉を開けると中に向けて声を掛けた。
「おーい。ガイ! 居るか?」
「何だ、今忙しい……って、ゴンじゃないか。どうしたんだ?」
「この子がお金が無いって困ってるんだ。ホーンラビットの素材で泊めることは出来ないか?」
「ふむ……今丁度、団体の客が来て材料に困っていたんだ。2匹分で食事込みで泊めてやるが、どうだ?」
「えっと、解体済みで肉と毛皮と角しか無いですが、良いですか?」
「そりゃ願ったり叶ったりだ。もちろんOKだ。」
「なら、それでお願いします。」
「よし、契約成立だ。それでホーンラビットは何処にあるんだ?」
「あ、今出します。」
俺は皮のリュックを経由してホーンラビット2匹分を取り出して宿主に渡した。
「こりゃあまた見事に解体されているじゃないか。血抜きもしっかりとしているみたいだし状態も良い。うん、これなら問題無いな。」
「な、なぁ、ガイよ、野菜をやるから、オイラにも少し分けてくれないか?」
「しゃーないな。客も居るから少しだけだぞ。」
「助かる。」
「えっと、俺はどうすれば良いんでしょうか?」
「おっと、悪いな。マリー! ちょっと来てくれ!」
宿屋の親父が大声で奥さんらしき人を呼ぶと、奥から恰好の良い女性がやってきた。
「うっさいよ! 忙しいんだから早く料理を作りな!」
「わーってるよ。それよりこの坊主の宿泊の手続きをしてくれないか? 対価はもう貰っているから。」
「あら。お客さんが居たのね。おほほほっ、ごめんなさいねぇ~」
「すまんがマリーについて行って手続きをしてくれ。マリー頼んだぞ。」
「では、お客様。こちらへどうぞ。」
俺はマリーさんに付いて行き、宿泊の手続きをすることにした。
「申し訳無いのですが、ただいま個室の空きが無いため、4人部屋の相部屋になってしまうのですが、大丈夫でしょうか?」
「えっと、はい。」
「では手続きをしますね。こちらに名前を書いて下さい。」
俺は出された紙に名前を書いた。
「こちらが部屋の鍵となります。相部屋のため貴重品は常に身に着けて下さい。
食事は夜と朝の2回、下の食堂で食べられます。何か質問は有りますか?」
「えっと、体を拭くためのお湯とかは貰えるんでしょうか?」
「庭にある井戸であれば自由に使って頂いて大丈夫です。ただ、お湯が欲しい場合は、桶1杯に大鉄貨5枚を頂く形になります。」
「わかりました。頼むときはお願いすることにします。」
「では、何か有りましたら私に声をお掛けて下さい。」
「はい。」
俺は鍵を受け取ると、2階に有る相部屋へと行ってみることにした。
どうか良い人と一緒の部屋で有りますように!




