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第63話「子供たちの熱意」

 特注の鉄板をバルツさんに依頼してから、数日が過ぎた。収穫祭までは、あと一週間ちょっと。

 村の準備が日に日に熱を帯びていく中、僕はその喧騒から逃れるように、森の第一秘密基地の木陰で、のんびりと空を流れる雲を眺めていた。

 ここは静かでいい。鳥の声と風が葉を揺らす音だけが聞こえる、とても素敵なお昼寝スポットだ。


(……ん、なんだか騒がしいな)


 その静寂は遠くから聞こえてくる、けたたましい足音と子供たちの歓声によって、無慈悲にも打ち破られた。

 案の定、秘密基地の入り口から、ルカとリリィを筆頭にした村の子供たちが、興奮した様子でなだれ込んできた。


「メル!いたのか!探したんだぜ!」


「もう、ルカったら。メル様がお昼寝しているのは、大体ここだものね」


「それより大変なの、メル様!私たち、すごいことを思いついちゃったかも!」


 リリィの弾んだ声に、僕は欠伸を噛み殺しながら億劫そうに上半身を起こす。

 目の前には、ルカが仁王立ちになって胸を張っていた。


「なあメル様!大人たちだけずるいぜ!俺たちも、収穫祭でお店やりてえんだ!」


「そうなの!ハンナさんのお店みたいに、私たちも何かやってみない!?」


 どうやら、楽しそうに準備をする大人たちの姿を見て、すっかり感化されてしまったらしい。

 子供たちの熱意は暴走気味だ。


「俺、かっけえ木の剣を売りてえ!」


 ルカがそう言うと、別の男の子が「それなら、村で一番でっかいカブトムシを売るのはどうだ!」と続く。女の子たちも負けてはいない。


「えー、私は綺麗なお花で作った髪飾りとかがいいな!」と、全くまとまりのない意見が飛び交っている。


(うわあ……面倒な流れになってきた)


 僕の安眠は、どうやら完全に過去のものとなったらしい。


「ええー……面倒だよ。僕は見てるだけでいいや。みんなで頑張れば?」


 僕が、あからさまに乗り気でない態度で言うと、子供たちから「えー!」「そんなこと言わないで!」とブーイングが飛んでくる。


「お願い、メル様!メル様がいないと、きっとまとまらないと思うの!」


「そうだそうだ!頼むよ、メル様!」


(うわ、ルカのやつ、こういう時だけ『様』付けだ……)


 僕はリリィとルカに両腕を掴まれ、ぶんぶんと揺さぶられながら、呆れた声で言った。


「ルカ……。困った時だけ、僕のこと様付けで呼ぶの、やめてくれないかな」


「なっ!?そ、そんなことねえよ!いつだって、メル様はメル様だぜ!」


「うふふ。でも、本当のことじゃないかな、ルカ?」


 リリィの優しい追撃に、ルカは「うぐっ……」とばつが悪そうに黙り込んだ。


 このまま放っておけば、収穫祭当日に大混乱が起きるのは目に見えている。

 そうなれば、巡り巡って、僕の平穏が脅かされることになるだろう。


(……はあ、仕方ない。今ここで、ちゃんとした遊び方を考えてやらないと、後でもっと面倒なことになるのは目に見えてる……)


 僕は大きなため息を一つついて、ゆっくりと目を閉じた。

 周りからは、「メル様が考えてくれてる!」「静かにするのよ!」という、期待に満ちたひそひそ声が聞こえる。


『ナビ、聞こえてるでしょ。この子たちが安全に、かつ僕にこれ以上迷惑をかけずに、そこそこ満足できるような、最も効率的で楽ちんなプランを提案して』


《了解。ミッションは児童の満足度と安全性を確保しつつ、メルの労力を最小化するプランの策定。これより最適解を構築します》


 数秒後、ナビが完璧なプランを僕の脳内に提示した。

 僕は、いかにも「うーん、仕方ないなあ」という雰囲気を出しながら、ゆっくりと目を開けた。


「……分かったよ。じゃあ、二つのお店に分かれよう。食べ物チームと遊びチームだ」


 僕がナビが弾き出したプランを説明していくと、子供たちの顔がぱっと輝いた。


「もちろん、僕たちだけじゃ危ないから、大人にもちゃんと手伝ってもらわないとね。それで僕が思うんだけど……」


 僕は監督役にぴったりの二人の顔を思い浮かべた。


「食べ物チームには優しくてお菓子作りも上手なメイドのエリス。遊びチームには元気で面倒見のいい庭師のソフィアがいいと思うんだ。二人には僕から後で手伝ってほしいって、ちゃんとお話ししてみるよ。だから、まだ決まったわけじゃないけど……いいかな?」


 僕の提案に、子供たちは顔を見合わせ、そして力強く頷いた。


「うん、わたしはそれがいいと思うな。エリスさんは優しいし、安心だもの」


「ソフィアさんなら、俺たちの遊びにも付き合ってくれそうだしな!」


 監督役については、みんな賛成のようだ。だが、リリィはまだ少しだけ不安そうな顔をしている。


「でも、メル様……。やっぱり、お金の計算が、私にできるかどうか……」


 リリィの不安そうな声に、僕は静かに頷いた。


(そうだよね。子供だけでお金の計算は、難しいよな……)


『ナビ、子供でも簡単に、間違えずに計算ができるような、何かいい方法はない?』


《はい。メルの前世における、初等教育で使用された簡易計算機そろばんの原型モデルを推奨します。構造が単純で、材料は木、小石のみで製作可能です》


『それだ!設計図を見せて!』


《了解。簡易版アバカスの設計データをメルに転送します》


脳内に表示されたシンプルな設計図を確認し、僕はリリィに向かってにっこりと笑った。


「それなら、大丈夫だよ、リリィ。お金の計算が、誰でも簡単にできるようになる便利な板を、僕が作ってあげるから」


「え?便利な板?」


 僕は、その辺に落ちていた木の枝を拾うと、ナビに表示された設計図を元に、地面に簡単な図を描いてみせた。


「こういう板に溝を掘って小石を並べるんだ。この石をこうやって動かすだけで、足し算と引き算が誰でも間違えなくなる」


「うーん……よくわからないけど、それを使えば私でも本当に計算できるの?」


「大丈夫!少し練習すれば絶対にできるようになるよ!」


 僕が完璧な計画の全貌を語り終えると、子供たちは、ぽかんとした顔で僕を見つめ、やがて今日一番の歓声を上げた。


 みんなは、僕が面倒ごとを避けるために全力を出したとは露知らず、僕を英雄のように称賛すると「よーし、準備するぞー!」と、それぞれのチームに分かれて元気よく秘密基地を飛び出していった。


 嵐が過ぎ去り一人残された秘密基地で、ようやく静けさを取り戻した僕は、大きなあくびを一つ。


「……ふあぁ……。これで、またお昼寝できるかな」


 やるべきことはやった。あとは計画の最後のピースを埋めるだけだ。


 ◇


 屋敷に戻った僕は、さっそく監督役をお願いしたい二人を探した。

 幸運なことに僕の身の回り担当のエリスと、庭師のソフィアは中庭で休憩をしていた。


「……というわけで子供たちがお店を出すことになったんだ。それで二人にお願いがあるんだけど」


 僕が事情を説明すると、ソフィアは「まあ、面白そうですね!」と快活に笑った。


「子供たちの遊びの監督ですか!お任せください!」


「待ちなさい、ソフィア」


 対照的に、エリスは穏やかながらも、困ったように眉を下げた。


「素敵なお話ですけれどメルヴィン様。私たちには日中のお仕事がございます。旦那様と奥様の許可なく持ち場を離れるわけにはまいりませんわ」


「分かってる。その許可は僕がもらうから大丈夫だよ」


 僕は、二人ににっこりと笑いかける。


「父様には僕から上手く話しておくから。二人とも、安心して引き受けてほしいんだ」


「わかりました。旦那様の許可が下りるのであれば喜んで協力させていただきます」


「うん。よろしくね」


 その足で僕は父様の執務室へ向かった。

 僕から子供たちの計画とメイドたちの監督役の件を聞いた父様は、最初は驚いた顔をしていたが、やがて、くつくつと喉を鳴らして笑い出した。


「はっはっは!なるほどな、子供たちにも役割を与えるか!面白い!実に面白い!」


 父様は、機嫌よく僕の頭を撫でる。


「よかろう、許可する!エリスとソフィアには、収穫祭の期間、特別休暇を与えよう。その代わり子供たちの監督という、最も重要な任務についてもらうとな!」


 こうして子供たちの一大プロジェクトは、領主である父様からの正式な許可も得て面倒くさがり屋がひねり出した平和のためのプランによって、その幕を開けたのだった。

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