ぶりっぶぶりっぶっぶりり
彼はうんこであった。
その前は米であったのかもしれぬ。蕎麦であったのかもしれぬ。
しかし、今、自分は疑いようもなくうんこであることを彼は知っていた。
彼は揺れていた。
人の尻穴にぶら下がり、便器の中に垂れ落ちるのを待っていた。
──あと少しで、自分はあの狭く、静かな水面に溶けて消えてしまうのだろう。
どうしようもない無情が彼の心を刺した。
――せめて、暖かな土と草の上に生まれ落ちていたのなら……。
柔らかい感触があった。暖かな光が草原に注いでいた。
彼はすぐにここが自分の知る世界ではないことを諒解した。
「うんこにも楽園はあるのか……」
呟いて、気づく。自分の身体がうんこではなくなっていることに。
声が出る。二つの足で土を踏む。
――人間!
大地の上を歩く。それは彼にとってなんとも奇妙な感覚であったが、不思議と戸惑いはなかった。
その言いようのない感情に身を委ね、あたりを歩いていると、不意に大きな影が彼を覆った。
声が空から降りてくる。
「なぜ人がここへ立ち入っている。ここは人の存在が許されている領域ではない……」
上を見上げると、大きな白い鳥が頭上を飛んでいた。
彼は答える。
「私は確かに人だ。しかし、かつてはうんこであった。そして、今も私の心はうんこそのものだ」
鳥は彼の眼前に降り立ち、彼の瞳をじっと見つめた。
「……なるほど、しかしここにお前の生活はない。北へ向かうといいだろう」
鳥はそう言い残し、再び空へ飛び去っていった。
「北……」
そこに何があるのか、彼はまだ知らない。




