第223話:パジャマ
豪邸の中にあるお風呂は、やはり大きかった。それは十一月末に私たちが訪れた宿の温泉と比べれば勿論遥かに小さかったのだけれど、それでも一般的なそれと比べると十分に広かったのだ。
とはいえ、そんな広いお風呂であっても体が大きくなった私たち四人同時の入浴は流石に無理があった。体を洗う際にはぎゅうぎゅう過ぎて上手く洗えなかったし、湯船に皆で入った瞬間お湯が物凄い勢いで溢れ出したし・・・。
でもまあ、そんな感じの入浴ではあったのだけれど、それはそれで楽しかったというか・・・。こんな風にバカができるのも何だか新鮮というか・・・。
「うふふふふ。今夜は寝かせないぜぇ~~?」
そう言ってニヤリと笑う眞鍋さんを、私は見遣る。彼女はお嬢様らしからぬ超普通のスウェットタイプのパジャマに身を包み、楽しそうに笑っていた。
「くくくくく、望むところだぜぇ~~?」
そう言って眞鍋さんに負けないくらい不敵な笑みを浮かべる甲山さんは、ヒラヒラで可愛らしくて、生地の薄いネグリジェっぽいパジャマを着ていた。今の季節は冬だからそれは寒くないのかとか、そもそも似合わなうおっほんとか、色々と突っ込みたいところなのだけれど、じゃれ合う二人は本当に楽しそうで自然体で・・・。
「なっちゃん、どうしたの?モジモジして」
「ん、いや、何でもない・・・」
「もしかしてだけど、今更色々と気にしてんの?」
「いや、そんなことは・・・」
正直な話、未だに女子と一緒に着替えとかお風呂に入るのには抵抗のある私なのだけれど、それは私目線の話であって、もしも私が逆の立場だったならば、私は眞鍋さんたちみたいに笑って過ごせただろうか?
今私の目の前で笑っている彼女たちは、かつて私が男として過ごしてきたその事実を知っている。それを知っていてなお、このように私と接してくれているのだ。
とはいえ、どこか呆れた様子のともちゃんの言う通り、全てが今更ではあるのだ。私は既に彼女たちの裸を見ているし、一緒にトイレへと行ったり体育の際に下着を晒しながら着替えたりと、本当に今更なのである。
「もうさ、いい加減割り切りなよ。それが難しいことだってのは理解できるけどさ、なっちゃんにはもう、アレだってないんだし」
パジャマというかただのジャージというか・・・。超絶ラフな格好をしたともちゃんは私の股間へと視線を固定しながら、そう小声で呟く。
「それにさ、今はそんな格好してるんだし」
「・・・・・」
「ね?」
「・・・・・」
ともちゃんの視線を追うように、私はその視線を自身の着ているそれへと向ける。
「これは、そのぉ・・・」
「ん?」
「いや、えぇと・・・」
お風呂から上がり、脱衣所で着替え、そうして私が今着ているそれは、ピンク色を基調としたふわモコのパジャマ・・・。
「何だかんだ気にしてる割りには、可愛らしいパジャマ着てるじゃん?」
「ぐっ・・・」
「んん?」
「・・・・・」
違うんです?!これは本当に違うんです?!
「こ、これは母さんが買ってきたやつで、だから仕方なく着てるだけで・・・」
「ふ~~ん?」
「眞鍋さんの家でお泊り会するって話をしたら、その翌日には準備されてたもので・・・」
「・・・・・」
普段、食品等の買い出しすら私に頼むほどに忙しい母さんが、どうやってこのパジャマを手に入れたのか・・・。てか、そんな暇があるのであれば、もっと早く家に帰って来てゆっくりとしてくれればいいのにさ・・・。
「まあ、だから、仕方なく?」
「・・・・・」
「だから、これを着るのは今日が初めてで・・・」
「・・・・・」
どことなく言い訳っぽい言い方になってしまったけれど、それが真実なのである!だからこのパジャマは決して私の趣味などではなく、勿体ないから仕方なく着ているだけなのである!!
「まあ、別にいいんじゃない?似合ってるし」
「・・・・・」
「てかさ、せっかくだから写真撮っていい?あとで陽介とかにも見せるから」
「いや、それだけは・・・」
スマホを手に持つともちゃんから、私はその身を隠そうとする。でもこの部屋は眞鍋さんの部屋だから、逃げ回ったり隠れたりなんてできなくて・・・。
「むふふふふ」
「・・・・・」
こうしてまた、私の黒歴史は新たな一ページを刻むのであった。




