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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第十一章:冬の始まり
209/241

第209話:かち合っちゃいました

 十月も終わり、今は十一月の初旬。無駄に暑かった秋らしくもない秋は終わりを迎え、今はもう冬の気配が色濃く漂ってきている。


「最近、寒くなったねぇ~」

「うん、そうだねぇ~」


 今はまだ、ギリギリマフラーのお世話になる必要はない。今はまだ、スカートの下に体操服の短パンを穿いて防寒するにはちょっとだけ早い。

 とはいえ、それもあと少しのことだろう。もう十日もしないうちに、ブカブカのコートが恋しくなるくらいの気温になるに違いない。


「私はさ、やっぱ春が一番だと思うのよ。ほど良い気温だし、雨も少ないしさ」


 駅のホームで帰りの電車を待ちながらの、何気ない会話。それはもう何百何千と繰り返されてきた、幼馴染との会話。


「なっちゃんはさ、どの季節が好き?」

「う~ん、そうだなぁ~。やっぱり、無難に春かな。秋は何て言うか、暑かったり寒かったりで微妙だし」


 私たちの周りには、チラホラと人の姿が見える。それは険しい顔のままスマホを見つめるスーツ姿の女性だったり、同じく険しい表情を浮かべる武井君だったり・・・。


「・・・・・」


 あぁ~、帰りの時間がかち合っちゃったか・・・。


「前から思ってたんだけどさ、なっちゃんて何で武井君のことが苦手なの?やっぱ、怖いから?」


 小声で、ともちゃんがそう訊いてくる。チラチラと横目で武井君の方を確認しながら、私にそう訊いてくる。


「まあ、それもあるけど・・・。いや、寧ろそれしかないんだけど・・・」


 私と武井君が関わり合ったのは、中学時代の部活動の時だけだ。ワンチャン小学生の時にも関わりがあったのかもしれないのだけれど、私の記憶には残っていないのでノーカウントである。


「武井君ってさ、サッカー好きじゃん?」

「いや、そんなに知らないけど・・・」

「・・・・・。好きなんだよ、ともちゃんが梨を好きなくらいには」


 だから、ね?


「私ってさ、サッカー下手じゃん?」

「それは分かる。てか、なっちゃんて得意なスポーツ何かあるの?」

「・・・・・」


 いや、無いですけどそれが何か?


「武井君が部長になってから、いや、厳密にはそれ以前からなんだけどさ・・・。武井君、サッカー下手には当たりがキツくてさ」

「・・・・・」

「私は陽介がいたからそこまでじゃあなかったんだけど、それが原因で一年生の子とか泣いちゃってて」

「・・・・・」


 あれは、厳しい指導だったのだろうか・・・。あれは、愛のある鞭だったのだろうか・・・。


「直接的な暴力とかは流石になかったけど、言葉はキツかったし・・・。それに、練習の内容も上手い人と下手な人では露骨に違って、それが部長になってからは余計に酷くなって・・・」


 二年生たちが残っていた頃は、まだマシだった。キツい言葉は多かったけれど、それだけだった。

 だけど、武井君が部長になってからは・・・。特に池田先生が見ていないところでは色々と酷くて、何なら池田先生の目の前でもよく罵声を飛ばしてたりなんかして・・・。


「私もさ、ちょくちょく嫌味とか言われてたんだよ。下手な奴は邪魔だって、さっさと辞めろって・・・」

「ふ~ん?」

「だからまあ、いい印象はないよね?少なくとも私の中ではさ」


 あの怖い顔で、あの大きな体で、真正面から罵声を飛ばされて・・・。


「武井君としては、サッカー好き故の態度だったのかもしれないけどさ。でも、皆別に練習を不真面目にやっていたわけではないし・・・。ともちゃんみたいに露骨なサボリとか無かったし・・・」


 それでも、武井君目線では色々と足りなかったのかもしれないけれど・・・。


「だから私は、あまりお近づきにはなりたくないよねぇ~って」


 私は、横目でチラッと武井君の姿を確認する。そこには依然として不機嫌そうな顔のまま、眉間に深い皺を寄せる彼の姿があった。その姿は私がイメージする横暴な武井君そのものであり、彼の放つ威圧的なオーラ故なのかその空間だけぽっかりと人の気配が無くて・・・。


 だけど、なんて言うか・・・。


 そんな空間の中に一人きりで佇む彼の姿は、どことなく寂しそうにも見えたのだった。

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