表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誘惑しよう!どうしよう!?  作者: 栗須まり
13/17

間違いないのか?

「やあリアム!調子はどうだい?」

執務室に入って来たダニーは、相変わらず調子が良い。

「見て分かる通り、特に変わりはない」

書類に目を通しながら、リアムはチロリとダニーを見た。

「またまたぁ。私が聞いてるのは仕事の事じゃないって分かってるんだろう?で、どうなんだ令嬢の様子は?」

「ちょうどそれについて聞きたい事があったんだ。が、今は話している余裕が無い。議会が始まるせいで、父上に領地関連の仕事を押し付けられて‥まあ、君が手伝ってくれるなら、幾らか余裕も出来るんだが‥」

「あー分かったよ、何をやればいいんだい?」

ニヤリとしながら書類の山を渡し、急ぎの物とそうでない物とに仕分けを頼む。

何しろ彼は常に成績一位の神童と呼ばれた男だ。

しかも来年からは宰相補佐として、王宮勤めが決まっている。

リアムの目論見通り、いやそれ以上の驚くべきスピードで、ダニーは次々に書類を仕分けて行った。

お陰で一時間後にはゆっくり休憩を入れられる余裕が出来、ソファへ移動して二人はお茶を飲む。


「で?聞きたい事っていうのは何だい?」

おもむろにダニーが切り出すと、リアムはカップをソーサーに置いた。

「最近フレッドから連絡は?」

「なんだ、それが聞きたかった事かい?最近は来てないよ」

「‥いや、それが聞きたかった訳じゃない。‥あのなダニー、アシュリー嬢は‥‥アシュリー嬢で間違いないんだよな?」

「は?ちょっと言ってる意味が分からないんだが?本人が違うと言わない限り、アシュリー嬢で間違いないだろう?私の調べでは、このティーカップが、間違いなくティーカップだと断言出来る位本人で間違いないぞ。中身をコーヒーにしてもティーカップはティーカップだ」

「悪い、聞き方を間違えた。だが、今のはいい例えだ」

「お褒めに預かり光栄だね。それで結局何が聞きたいんだ?」

大きなクエスチョンマークを頭に乗せ、ダニーが問いかける。

「君の例えを引用すると、私の接触したアシュリー嬢は確かに本人なのだが、中身は別人なのではないかと思うんだ」

「は?何でそんな風に思う?」

「単なる勘なのだが、実際一緒に過ごしてみて、どうもフレッドの好みとは程遠いというか‥」

「それは‥エマ・ヘイリーと比べてという意味か?」

ダニーの問いにコクリと頷く。

「ふ〜む。まあ、エマの場合、フレッドの好みを演じていたからな。本性はどうあれ、あれは見事だったよ」

過去を振り返りながら、二人はうんうんと同意し合う。


二人の話題に登ったエマという人物は、かつてフレッドが叔母から紹介された女性だ。

彼女は物静かで清純派美人といった印象の、正にフレッドの理想通りの女性であった。

それもそのはず彼女は徹底的にフレッドの好みを調べ上げ、彼に近付く足掛かりに、叔母に取り入ったのだから。

エマはかなり上手くやっていた。

そのお陰でフレッドとの関係も徐々に進展しつつあったのだ‥が、余りにも上手くいき過ぎたが故に、フレッドは疑いを持った。

リアムやダニー、フレッドの様な立場は、家柄目当てで近付いてくる女性が、掃いて捨てるほどいる。

いくら叔母の紹介とはいえ、フレッドは完全に信じてはいなかった。


「綺麗に隠していたつもりだったけど、私の情報網を侮っていたよね彼女。調べたら偽名を使って遊びまくっていたんだからさ。なんせ仮面パーティーなんて怪しい集まりの常連で、男なんか取っ替え引っ替えだったし」

「ああ。そういった面でフレッドは慎重だからな。しかし今回は運命などと言って、慎重なフレッドらしからぬ行動を取っただろ?だとすれば余程相性が良かったのだと私は思うんだ。それがどうも引っかかってな。実際アシュリー嬢と話してみて、余りにも当てはまらないというか‥」

「ふむ。しかし私の調べは間違っていないぞ」

「そこは、まあ、信頼してはいるけれど。君も話してみれば分かる筈だ」

「う〜む、そんなに違うのか?」

「ああ。はっきり言ってフレッドのタイプではない!」

はっきりと言い切るリアムに、ダニーも一抹の不安を覚える。

「‥具体的に、どこがどう違うんだ?」

「具体的にと言われると、それは説明し辛い。ただ、アシュリー嬢は普通の令嬢とはかなり違う」

「そこを説明してくれよ」

「だから説明し辛いんだって!令嬢の名誉の為にも、ペラペラ喋る内容ではない」

「なんだ!?そんなにヤバいのか?」

「いや、ヤバいというよりは‥‥‥面白い」

「は?」

「面白くて、とにかく一生懸命なんだ。その姿勢に、とても好感を持てる」

熱心に話すリアムの様子に、ダニーは思わず目元を押さえる。


ヤバイ、目頭が熱い。

あの、まるで毛虫でも見る様な目で女性を見ていたリアムが、話しかけられても必要最低限しか話さなかったリアムが、女性に対して"好感を持てる"などと言うんだから、感動で思わず涙が溢れそうになった。

これは、俄然アシュリー嬢に興味が湧いて来たぞ!


「フム、君の主張は分かった。が、正直話だけでは今一つ伝わらないし、知っての通り私は、自分の目で見て感じてみないと、判断を下さない性分だ。そこで考えたのだが、次に会う時は私も同行するというのはどうだ?」

「‥いいだろう。寧ろそうしてくれた方が良いかもしれない。けれど、一つだけ約束してくれ」

「何を?」

「私がアシュリー嬢にする事は、目的の為のスキンシップだと理解して欲しい」

少し頰を赤らめ言うリアムの様子に、何となく察したダニーは、再び目元を押さえた。


ヤバイな、感動で涙が溢れそうだ。

これはもしかしたら、登ってしまったかもしれん!

あの、女性に触れられる事を極度に嫌うリアムが、遂に大人の階段を‥


「さっきからどうしたダニー?涙目になってるが花粉症か?」

「ま、まぁそんなとこだ。とにかく、次の予定までに私の方でもう一度、アシュリー嬢について調べてみよう。その間に君は予定を決めて連絡してくれ」

「予定はもう決まっている。四日後に会う約束をした」

「四日後!?それを早く言ってくれ!殆ど時間が無いじゃないか!」

「君なら何とか出来るという、信頼の現れで後出しになった。どうだ?やる気になっただろう?」

「ああ!俄然やる気だね!!全く、そういう訳だから帰るぞ!」

フッと微笑むリアムを尻目に、ダニーは部屋を後にした。

そしてすぐさま馬車に乗り込み、頭の中で四日後までの予定を組み直す。

リアムの信頼通り、ダニーにとってはタイトなスケジュール位どうという事はない。

大体の流れを頭で整理したダニーは、車窓を眺めながらふと呟いた。

「フレッドのタイプではない‥か。リアムの変化は喜ばしい事だが‥ややこしい問題が起きなければいいのだがなぁ」

一つ溜息を吐き、再び物思いに耽るダニーは、自宅とは違う場所へ行き先を変更した。

読んで頂いてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ