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二章 狙われた青真珠(1)

 夜。

 ルルンの街の港に立った霧生稜真は、月光を反射して煌びやかに波打つ湖を眺めていた。穏やかだが、やや風があって少々肌寒い。異世界のコンビニで温かい物を、と思いかけたがとっくに八時を回っているため閉店しているだろう 

 近くの水路から夜釣りに向かう船が何隻か湖に繰り出していく。

 それらを見送りながら、稜真は迎賓館に届いた予告状の内容を思い出した。


【今宵、白の宝珠が湖に浮かぶ時

 いと高き羨望の燭台より深き水底を通り

 蒼の秘宝『ディープムーン』を頂きに参上する

              怪盗ノーフェイス】


「『白の宝珠』……なるほど、アレのことだな」

 夜空を見上げる。そこには白い満月が煌々と輝いていた。日本から見える月よりも一回りほど大きい。どうも太陽光を反射しているのではなく、月自体が淡く発光しているように思える。その辺りがやっぱり異世界だ。

 今枝來咲が稜真の隣に並び、同じように月を見上げる。

「夜を指定するなら『今宵』だけで充分だ。より詳しい時間を『白の宝珠が湖に浮かぶ時』と表現している以上、どこかで必ず湖にくっきり月が映る時間が来る」

 今は風があって湖面は波打っているため、月の形は歪んで見える。どういう理屈か知らないが、怪盗はこの風が今夜のどこかでやむことを知っているらしい。

 すると――じゃらり。背後から鎖が擦れる音が聞こえた。

「あのさ、どうでもよくないんだけどさ」

 振り向けば、膨れっ面をした夜倉侠加がそこにいた。彼女の首には鉄製の厳つい首輪が嵌められており、その首輪から伸びた鎖の手綱は今枝が握っている。

「侠加ちゃんの疑いは晴れたならこの首輪は外してほしいデスヨ! アタシは犬じゃないんだぞ! わんわん!」

 犬だ。

「ダメだ。万に一つでもお前の可能性が残っている以上、身柄は管理させてもらう」

「むぅ、これだから警察は融通が利かない頑固者集団って呼ばれるんデスヨ」

「優秀な証拠だ。褒め言葉と受け取っておく」

 吠える侠加を今枝は涼しい顔で受け流す。変身能力者の侠加なら首輪など簡単に外せそうだが、どうやらあの首輪は零課が所有している『異能封じ』の枷らしい。

「そういえば、俺は服以外の持ち物のほとんどがこっちに召喚されなかったんだが、今枝はなんでその首輪を持ってたんだ?」

 稜真にも手持ちの小道具があればもう少しはまともに戦えたはずだった。今枝は面倒そうに手に持った手綱を軽く引き――

「ああ、これはこっちで作ったやつだ。いつでもそこの変態を逮捕できるようにな。『異能封じ』は元々〝術士〟による術式だから、神薙に付与してもらった」

「ヒイロっちの裏切り者ぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」

 真実を知った侠加の絶叫が湖面に虚しく響き渡るのだった。

「あんたたち、無駄話してないでもっとちゃんと考えなさい! あたしたち調査強襲班がさくっと謎を解いてパパッと犯人逮捕するのが理想なんだから!」

 と、この場にいる最後の一人――龍泉寺夏音が眉を吊り上げて稜真たちを叱咤した。彼女はさっきから予告状の写しと睨めっこしていたのだが、探偵気取りのくせにまだこれといった解答を示していない。

「考えてるよ。というか、俺は職業ボディーガードだぞ。どっちかって言うと警護の方が得意だったんだが、なんで強襲班に入れられたんだ?」

 稜真たちは迎賓館で夕食を食べた後、二班に分かれて捜査を行うことにしていた。

 少人数で予告状の意味を解きながら怪盗が出現しそうな場所を調べ、犯人を発見したら逮捕する調査強襲班。迎賓館に残って『ディープムーン』を見張り、犯人が現れたら逮捕する警護班。稜真の能力なら後者に割り当てられるのが普通だ。

「少数精鋭で強襲をかけるなら、身体能力の高い〝超人〟が一人いるとなにかと便利だろう?」

 当然のことのように今枝がそう説明する。が、その理屈は稜真だってわかっている。突撃役は〝超人〟の十八番だからだ。

「相楽は? テロリストのあいつの方が強襲向きだろ」

「あの馬鹿はウチと一緒が嫌なんだと」

「ササっちやツジムラっちでもよかったと思うデスヨ」

「〝妖〟の身体能力と特殊能力は確かに優秀だけど、片や自由人、片や超絶無口。紗々ちゃんも辻村くんも調査って柄じゃないわね」

 ついでに言えば〝術士〟の緋彩と大沢は防衛向きだ。消去法でこの四人が調査強襲班になったのだと思えば納得はできた。

「まあいいか。で、問題の予告状だが……一行目は『湖に月がくっきりと映る時間』だとして、二行目はどうなんだ?」

 脱線した軌道を修正すると、夏音が予告状の写しに視線を落とす。

「『いと高き羨望の燭台より深き水底を通り』……移動手段または経路って感じよね」

「高いのか深いのかよくわからんぞ」

「水底を単純に考えるなら街の水路だな。湖から水路に侵入するとすれば目撃されることも少ない。だからこうして水路の入口を見張ることにしたんだが……」

 今枝はどうにもしっくりこないと言った表情で唸った。

「チッチッチ、甘いデスヨ三人とも。ここは元怪盗として侠加ちゃんが謎解きの手本を見せてあげまショウ!」

 首輪を嵌められたまま顔の横で指を振る侠加。その無駄に腹の立つドヤ顔に、今枝は額に青筋を浮かべて鎖を引いた。

「ぐえっ!? なにするんデスヨ!?」

「手が滑った。んで、元怪盗様の考えを聞いてやろうか」

「ぐぬぬ……えっとデスヨ、仮に水路を通るとして、湖から迎賓館までだと地形的に少々骨が折れるんデスヨ。この街は高低差があるからね。下から上には行きづらいと来たもんだ」

 コホンと咳払いをし、侠加は背後を振り仰ぐ。


「だから侠加ちゃんなら……あそこから潜入するね」


 侠加の視線は山の上へと向けられていた。

「展望台か!」

 明かりがついていて確かにここから見ると燭台って感じもする。水路は展望台の付近まで続いていたし、侠加の言う通り湖から登るより可能性ありそうだ。

 稜真たちは頷き合い、急いで展望台へと向かった。

 しかし――

「誰もいないぞ?」

「まだ時間じゃないとか?」

 稜真と夏音が〝超人〟の感覚で周囲を探るも、自分たち以外の気配は感じられなかった。こう思わせておいて実は湖からだったり、そもそも水路とは無関係だったりすると捜査は非常に困難だ。

 と、その時だった。

「待て、風がやんだ……?」

 今枝が周囲を見回す。肌寒かった風がなくなり、周りがやけにしんと静まり返った気がした。

「みんな見て! 湖に月が!」

 夏音が湖を指差す。そこにはハッキリと綺麗に白い満月が映し出されていた。

「「――ッ!?」」

 稜真と夏音が同時に顔を上げる。〝超人〟の感覚が四人以外の何者かの気配を捉える。

 それは今までなにもなかったところに唐突に出現した。転移かなにかを使ったのだろう。魔術、いや、魔法の力も稜真は同時に感じていた。

「……どうやら、お出ましのようデスヨ」

 ニヤリと口元を歪めて侠加が呟いた瞬間、トン、と背後に人の気配が()()()()()


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