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真夏の星人たち  作者: 関谷光太郎
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第十一話

第十一話、よろしくお願い致します。

 セ・ダォが動きを止めた。


「この期に及んでまだわがままを……」


「時間的余裕がないのなら、一般船員とその家族からはじめるべきだろ。それが幹部船員の役目であり使命だ」


 教授の言葉に今度はセ・ダォが鼻を鳴らす。


「またまた、自分の意見が通らないとみて、次はお説教ですか。やめてくださいよ。船長じゃあるまいし」


「そういえば、船長はどうした? ガ・バウはこの警察官たちの案内を買って出たはずだ」


 セ・ダオから笑みが消える。町中の人々が大家おおいえことガ・バウの行動を知っていた。彼女が地球人の刑事たちをここへ案内することに、全員が批判の声をあげ拒否の態度を示した。しかし船長は自分の立場を利用して押し切ったのだ。


「船長は、自分の行いに責任を負うべきなんだ。分かるでしょ教授」


「なにを言ってる。船長は刑事たちの実力行使から穏便にこの町を守るために……」


「あいつは僕を売ったんですよ!」


 怒りにまかせたセ・ダォの手が操作盤に叩きつけられた。


「そもそも自分の判断ミスで、僕たちを故郷に帰れなくしたくせに、船長はしたり顔でエジュラの掟、掟とうるさいことを言う。なにが人の不幸の上に幸せを作ってはならないだ! 故郷に帰れないんじゃこの惑星の侵略を考えるしかない。エジュラの科学力を持ってすればそれが一番簡単だ。たけど僕は、百歩も二百歩も譲ってやった。それがこのボディ・スナッチなんだ」


「落ち着いてセ・ダォ」


 ひまわりの少女、レビ・ガノが言った。彼女の声はあの時耳にしたのと同じ、木陰を吹き渡る風のようだった。


「私たちはあなたの努力に感謝している。自分たちが生き残るために、地球人の犠牲を最小限に抑える方法を実現させたことも素晴らしい」


 セ・ダォの表情がわずかに緩んだ。


「だから聞かせて。船長はどうしたの?」


 ギギ、ギギギギギギギギギギ!


 柿沼たちには耐え難い音だった。気を失っていたカプセル内の三人も目を覚ましてこの音に顔を歪めて反応している。


 その叫びは、怒りか悲しみか。


 教授とレビ・ガノは同族のゆえにセ・ダォの感情が理解出来たとみえ、動きに変化が生じた。


「おい、船長になにをした? 答えろセ・ダォ!」


 詰め寄る教授から離れてレビ・ガノがカプセルへと歩み寄った。


 近づいてきた彼女に栗山が噛み付いた。


「なにが起こっているんだ。大家になにがあった!」


 四十年前に会ったレビ・ガノの変わらぬ姿が目の前にある。彼女は微笑していた。


「これは私たちエジュラの問題です。みなさんに危害が及ぶことはありませんのでご安心ください」


 心和む声だ。思わず柿沼は聞いていた。


「我々はどうなります?」


「……残念ですがここから解放するわけにはいきません」


 あまりにもあっさりとした返答に柿沼は愕然とする。


「お二人がどこまで理解されているか分かりません。でも、私たちにも切実な状況が迫っているのです。このままでは多くの同胞を失うでしょう。『背に腹はかえられぬ』。みなさんの言葉でそう言うのでしょう? 放っておけば武力行使による地球征服に舵を切らねばなりません。このボディ・スナッチの技術は、それを避ける唯一の方法なのです」


 偉ぶる教授の後ろで、ひっそりと寄り添う印象が強かった彼女は、こんなにも饒舌だったのか。


 優しく儚い思い出が、急に重みを増した現実として突きつけられたようだった。


 栗山が食いさがったが、彼女は聞こえないと言わんばかりに教授の元へと戻っていく。


「柿沼さん、どうしますか?」


「まずは、落ち着け。後ろには民間人がいるんだ」


 あっ、と言う顔をして栗山が後ろを振り返る。不安げな男女を確認して「私たちは警察です。みなさんを救出に来ました」と告げた。


 その時。


 荒々しく実験室の扉が蹴破られた。


 木製のドアを蝶番ごと吹っ飛ばして現れたのは……大家ことガ・バウだった。

つづき、よろしくお願い致します。

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