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悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています  作者: 廻り


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41 ヴィンセント25歳 15


 エルシーをエルヴィンの継母に定めると決断したヴィンセントは、神殿で継母の儀式をおこなうと決めた。

 普通の国民は、結婚した時点で自動的に相手の連れ子の継父継母となるが、皇帝だけは一夫多妻制。継母を定めるための儀式が必要になる。


 正式に儀式の日程が決定すると、エルのもとへはつなぎを持ちたい貴族から、社交界への誘いが山のように届いた。

 エマ曰く、婚約を発表した時よりも反応が大きいらしい。


「今こそ皇妃様が社交界を掌握する時です! マリアン嬢なんて蹴散らしてしまいましょう!」


 この主人あってこその、このメイドか。エマは意外と考え方が過激派だ。エルは苦笑しながら、招待状の山を見つめた。


(全ての招待に応じるのは大変だけれど、確かにチャンスよね)


 全快祝いパーティーでは、貴族たちから冷ややかな視線を浴びた。悪役とならないためには、周りの理解も重要だ。

 エルはエマと相談して、貴族女性を皇宮へ招いてお茶会を開くことにした。




 そして当日。皇妃宮の庭園では、貴族女性を招いた大規模なお茶会が開かれた。

 エルシーの評判が悪いだけに、欠席者が多かったらどうしようかと心配もしていた。けれどエルへ社交界への招待状を送ってきていた貴族は全員来たし、それ以外の女性も多くが参加してくれた。

 やはり皇子の継母になるとなると、未来の皇后も視野に入れているのか、反応が桁違いだ。


 それと、のけ者にするわけにもいかないので、マリアンにも招待状を送ってみたところ、楽しみにしていると色よい返事をもらった。

 エルヴィンの継母になりたがっていた彼女としては、意外な反応だ。


「皇妃様、本当におめでとうございます」

「皇妃様は、宮廷治療魔法師の資格もお持ちだとか」

「皇子様はお身体が弱いそうですから、心強いですわね」

「陛下も素晴らしいご判断をなさいましたわ」


(宮廷魔法師の合格発表は今朝だったのに、もう知っているのね)


 今朝は試験の責任者が直々に皇妃宮へ合格の通知書を持ってきて、改めて試験の際の謝罪をされた。

 夜にはヴィンセントとエルヴィンが、合格祝いをしてくれるらしい。


「皇子様もさぞお喜びでしょう」


 そう尋ねられて、エルは思わず顔が緩む。

 継母の話をした際のエルヴィンは、天使よりも可愛い姿で喜んでくれたのだ。


「ママと呼べる日を楽しみにしているみたいですわ」


 親バカを必死に隠しつつそう答えているとどこからともなく、しくしくと泣く声が。

 皆が、声の主へと視線を向けた。


「マリアン嬢、どうなさったのですか?」


 心配した隣の令嬢からハンカチを受け取ったマリアンは、優雅な仕草で瞳から溢れた涙をぬぐう。


「すみません……。本当はエルシー皇妃様をお祝いしたいのに私、悲しくて……」


 その言葉で、急に辺りの空気が変わったような気がして、エルはどきりとする。


「私も皇子様の継母になりたくて、一生懸命にお勉強をしていたんです。けれど陛下は、皇妃様にご配慮して、私には諦めるようにと……」

「まあ……」


 マリアンを哀れに思った様子の女性の一部が、ちらりとエルへと視線を向けた。


(マリアン嬢にとってはそうかもしれないけれど、ヴィーにはちゃんと私を選んだ理由があるのに)


 「それは」と説明しようとしたエルを遮り、マリアンは続けた。


「けれど、仕方ないんです。私は皇妃様の、代わりだから……。皇妃様がお望みのことはお譲りしなければ……」


(これではまるで、楽しい役目だけマリアン嬢から奪っているように聞こえるじゃない……)


「代わりだなんて。今は仕方ないこともあるでしょうが、皇妃になられたら優劣はないはずですよ」

「そうですわ。陛下は自らお望みになって、マリアン嬢とご結婚なさるのですもの。代わりだなんておっしゃらないで」


 周りにいる女性たちが、どんどんマリアンの慰めに入る。完全に輪の中心はマリアンに移ってしまった。

 ここでエルが反論したらどうなるか。冷たい視線で皆に振り向かれたらと思うと、声を上げるのが怖い。


「えっ。陛下……!」


 誰かがそう声を上げて、皆が一斉に庭園の入り口に目を向けた。そこには、エルヴィンを抱きかかえたヴィンセントの姿が。


(よりによって、こんな時に……)


 今のヴィンセントなら、理由を聞きもせずにエルシーを悪だとは思わないはず。

 しかし、この場には大勢の証人がいる。彼女たちが、いかにマリアンが可哀そうかを訴えたら、派閥バランスを重視する彼は考えを変えるかもしれない。


「陛下……来てくださったのですね」


 けれど、涙声で呼ぶマリアンは目に入っていないのか、完全にスルーしたヴィンセントは、一直線にエルのもとへとやってきた。


「お茶会の邪魔をしてすみません。皇子が皇妃に会いたいとまたぐずってしまったもので」


 困り顔のヴィンセントが、エルヴィンをエルへと渡した。


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