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悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています  作者: 廻り


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39 ヴィンセント25歳 13


「まあ。その子は?」

「ルヴィです!」

「ルヴィ?」

「アークがくれたんです。ぼくの弟だって。だからぼくの名前を取ってルヴィにしました!」


(ヴィーが言っていたのは、これだったのね)


 ヴィンセントはまだマリアンを疑っているようで、調べることがあるからと皇子宮へは一緒に来なかった。

 その代わりエルを送り出す際に彼は、「皇子がはしゃぎすぎていると思うので、気にしていただけますか」と話していたのだ。


「名前の付け方が、どなたかと同じですね」


 最後に到着したアークが、にやりとエルへ笑みを浮かべる。


(エルヴィンの名前は私とヴィーから取ったから、同じだと言いたいのね)


 親子で同じ考えなのは嬉しいが、三歳児と同じ思考回路であることもちょっと恥ずかしい。


「かっ可愛いと思うわ。ルヴィ」

「えへへ。ルヴィ行こう!」


 いつもはエルに抱きつきたがるエルヴィンが、今日は急にお兄ちゃんになったように見える。

 少しだけ寂しく感じつつも、今までは見られなかった息子が成長する瞬間を見られて嬉しい。


「エルヴィンがすごく喜んでいるわ。ありがとうアーク」

「あれな、じつはマスターからなんだ。しつけたのは俺だけどな」

「マスターが?」

「エルの事情を教えてくれたお礼だとよ。返事を書けば良いものを、マスターも意外と不器用なんだよな」


 エルはこの身体に憑依して、アークと再会したあと。アークから「マスターが未だに落ち込んだままだ」という話を聞いて、手紙を書いて渡してもらった。


 マスターは、魔法師として育てた子どもたちに対して、育ての親としての恩を感じてほしくないらしい。

 そのため独り立ちしたあとに、マスター本人から個人的な交流を図ろうとはしない。


 それでもエルは、マスターに可愛がってもらったほうだと自分でも思うし、皆からもよく言われた。

 それに関してマスターは、「エルは独り立ちが早すぎたから心配なんだよ」と。


 マスターにはたくさん心配をかけてしまったので、憑依して戻ってきたことを伝えられて良かったと思っている。


 そしてマスターは、自分のポリシーを曲げない範囲で考えたのが、この子犬だったようだ。

 ポリシーは曲げていないが、孫を可愛がりたい欲が透けて見えていることに、本人は気がついているのだろうか。


「ふふ。いつか大きくなったエルヴィンを見せに行きたいわ」


 そう言いながらエルは、エルヴィンをマスターと会わせるには、やはり今の立場では足りないと感じた。

 ヴィンセントの子として紹介するのと、自分の子として紹介するのでは大きな違いがある。

 大切な人たちにはやはり、自分の息子として紹介したい。


「アーク。相談に乗ってほしいの……」

「相談? めずらしいな」


 不思議そうな顔をするアークに、エルは思い切って今の気持ちを口にした。


「その……詳しくは言えないんだけど、私にはほしいものがあるの。私が決心さえすればそれが手に入りそうなんだけれど、手に入れた途端に周りから非難を浴びるかもしれないわ。最悪の場合、また死ぬかもしれない……。

けれどそれを望まななくても、また他のことで同じ目に遭う可能性があるの……」

「エルはまだ……」


 アークは何かを察するような表情をする。まるで失恋した者を慰めるような。エルは慌てて付け足した。


「あのっ。ヴィーのことではないのよ? でも、ヴィーが完全に無関係というわけでもなくて……。私は、ヴィーのそばにいるべきではないのに、いつまでも抜け出せなくて、大切なものもできてしまったわ……」


 これでは全てを話しているようなものだ。いっそ正直に、エルヴィンの継母にならないかと提案されたと話したほうが良かったかもしれない。


 ヴィンセントに対する気持ちは、自分でもよくわからない。

 殺されてショックな気持ちと、本来の彼を忘れられない気持ちがせめぎ合っている。

 そしてどうしても、彼が悪くない理由を探してしまう。


「エルは、なにも望まずに一生を終えるのか? そんなの生きている意味がないじゃないか」

「アーク……」

「どうせ死ぬかもしれないなら、自分の思う通りに生きたほうが有意義な人生になると思うぞ。――それに」


 アークは真剣な表情で真正面からエルを見つめる。


「次は絶対に、エルを死なせたりしない。だから今みたいに、もっと俺に相談しな。兄貴なんだから。マスターもそう思っているはずさ」


 二人には小説のストーリーに踏み込んでほしくなくて、あまり気持ちを話せずにいた。

 けれどその考えは間違っていたのかもしれない。マナ核の繋がりはなくとも、アークとマスターもエルの家族。もっと頼るべきだったのだ。


「ありがとう、お兄ちゃん」


 初めてそう呼んでみると、アークは顔を赤くしながらエルから視線をそらした。


「待て。それはマジで照れる……」



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